ついつい我が子の好成績や他人の子どもより優れているところを見ると、「えらい!」と親はほめがちです。でも、その声かけには子どもの成長を妨げる“落とし穴”があるかもしれません。「スウェーデンに学ぶ『幸せな子育て』子どもの考える力を伸ばす 聴き方・伝え方」を執筆した岸田雪子さんが明かす、「褒め方のポイント」。今日から実践できるお話に耳を傾けたいと思います。
「えらい」よりも「頑張ったね」とほめる
── 岸田さんは、「褒め方」もポイントがあるとか。「結果ではなく、あなたをみていること」が大切というのは、どういう意味でしょうか?
岸田さん:
たとえば、子どもがテストで100点を取ったとします。その場合、親御さんには「100点を取ったこと」ではなく、「子どもの頑張り自体」を認めてあげていただけたらと思います。
「それまでのあなたの努力を見ていたよ」ということを伝えてほしい、という意味です。
── 反射的に「えらいね!」と言ってしまいそうです。
岸田さん:
大丈夫です。「えらいね!」という言葉自体がダメというわけではありません。ただ、「えらい」とか「やさしい」もそうなのですが、何を褒められているのか、子どもにとっては分かりにくい言葉でもあるんですね。
また、結果だけを褒めていると、その子が100点を取れなかったときはどうなるでしょう。結果を、自分自身の力だと直接結びつけてしまい、「自分はダメなんだ」と感じて、自信や意欲を失ってしまうこともあります。
100点でないときは、結果を隠すようになるかもしれません。テストのほかにスポーツでも芸術でも、成績や結果が伴う場合も同様です。
だからこそ、親は「結果だけを見ているのではない。君を見ているんだよ」というメッセージを伝えることが大切なのですね。
もし、「えらいね!」と言葉が出たときも、その後に「頑張って練習していたものね」といった、努力や挑戦を認める言葉を添えていただければ大丈夫です。
また、褒め方には以下のように5つのポイントがあると思います。基本は、ありのままの子どもを「認める」という考え方です。
1.子どもが「やったこと」をそのまま認める
2.子ども自身の努力・工夫を認める
3.子どもに聴いていい
4.できなかったところは、伸びるところ
5.まるごと認める
よく質問を受けるのは③「子どもに聴いていい」ですね。これは、子どもが何を工夫したり、努力したのか、親にはよく分からないときもありますから、そんなときは子どもに尋ねてみましょう、ということです。
「どんな気持ちだったか」「どこを頑張ったか」「次はどうしたいのか」などを聴いてあげるといいと思います。
たとえば、「跳び箱を飛べたんだね。どんなところを頑張ったの?そうか、助走をつけてみたんだね」など、子どもの言葉を繰り返すだけでも、相手を認め、共感することにつながります。
── 日常でも褒めるポイントはありそうですね。
岸田さん:
たとえば、幼稚園に入る前の子どもがコップを持ったら「両手で大事にコップを持てたね」と具体的に伝えてあげる。「上手だ」とだけを言われた場合よりも、子どもが「次も両手で大事にすればいいんだな」と分かりやすくなりますね。
他にも、一人で座れたね、自分で靴を履けたね、ゆっくり紐を結んだんだね、とか。それだけで「認める」ことになります。アレンジは自由ですよ。
── みんなでご飯を食べ終わった後、「食器を台所まで運んでくれてありがとう」とかでしょうか?
岸田さん:
そうですね。「みんなの分も台所に運ぼうって思ったんだね。とっても助かるよ」と気持ちに共感して認めてあげると、また次も頑張ろうなって気持ちが生まれやすくなりますね。
「自分の子ども時代」や「他人」と比較しない
── 気づかないうちに「自分の期待通りだったから」という理由で、子どもを褒めているケースもありそうですね。
岸田さん:
自分が子どものときにできなかったことを、子どもにできて欲しい、という思いを持ってしまうこともあるかもしれませんが、そこは、考えを切り離すことがとても大切です。
子どもは、親の代わりに人生を歩むわけではないですよね。自分の人生のやり直しを子どもにさせようとしたり、自分はできたのになぜできないのかと責めることは避けたいですね。
著書では「気質」に注目して詳しく記していますが、親と子どもは、気質が全く異なることもある、別の人格なのですね。
他の子と比べることもそうですね。「なんでうちの子はできないのか」と思ってしまいやすいものですが、過去のその子自身と比べて見てあげられればと思います。
1年前、あるいは昨日できなかったことが、今日できるようになったね、と。「その子の時間軸」でみてあげると、どこを認めてあげたらいいのか、見えやすくなると思います。
── そうした視点が持てると、親も子も心が穏やかになりそうです。
岸田さん:
いろいろうまくできないのが、子どもなんですね。できるようになった頃には、自立して家を出ていくときがやってきます。それまでの案外と短い親子時間を、少しでも笑顔で過ごせますように。
いい親子関係を築けるコミュニケーションの方法をそれぞれのご家庭で見つけていただく、そのお手伝いができれば嬉しいなと思っています。
PROFILE 岸田雪子さん
取材・文/松永怜