子育てで大事なポイントのひとつはまず聴くこと。話を先回りせずに耳を傾けると、子どもの考える力や自己肯定感を育てることにもつながる、とジャーナリストの岸田雪子さん。
今、世界で注目される親支援プログラム「ポジティブ・ディシプリン」などをもとに、「スウェーデンに学ぶ『幸せな子育て』子どもの考える力を伸ばす 聴き方・伝え方」を執筆した岸田さんに、話を聞きました。
子育てする親を「否定する」より「助ける」社会に
── 「ポジティブ・ディシプリン」という言葉を初めて聞く人もいらっしゃるのかもしれません。どのようなものですか?
岸田さん:
「ポジティブ・ディシプリン」は世界36か国以上に広がっている親支援プログラムです。子どもの発達研究結果をもとに作られていて、子どもとぶつかったり、罰を与えたりすることなく、子どもと一緒に日々の「困った!」に向きあう子育てを目指すものです。
著書のなかで「ポジティブ・ディシプリン」をご紹介したいと考えたのは、今の日本の子育ての環境が、親のみなさんへの制度的な支援も情報面のサポートもたりていない、と感じているからです。
子どもの発達についての知識や、どう子どもと向き合えばいいのかのコミュニケーション方法を「知る」ことで、良い親子関係は築けるはずだと思っています。
なので「これをしたらいけない」「あれをしたらダメ」と、親御さんにプレッシャーをかけるのではなく、「こんな方法もありますよ」「子どもはこんなふうに感じているのですよ」というご提案を心がけました。
── 「ポジティブ・ディシプリン」は、子どもの接し方に関する考えについて言われているのでしょうか?
岸田さん:
まず、子どもを自立した「学習者」、つまり「ひとりの学び途中の人」と捉えています。親は子どもを自分の分身のように感じたり、家族だから考え方も近いはずだと思いがちかもしれませんが、親と子どもは、別の人格なのですね。
ですから、気質のチェックシートなども使って、我が子の気質や親自身の気質を知ることから始めます。
── 子どもを知ることで、子どもと穏やかに過ごしたいですものね。
岸田さん:
そうですね。幼い子どもでも「ひとりの人」ととらえて、向き合い、支える、という考え方ですね。日本では「良い親でいなければ」というプレッシャーもあると感じますが、著書では、「良い親になることよりも、良い親子関係を築くこと」を大切に記しています。
子育ては「聴き方」が9割
── 岸田さんが考える、スウェーデン流の子育てと自身の考えを取り入れたコミュニケーションメソッドとして、どんな聴き方が大事ですか。
岸田さん:
「子どもの気持ちをありのままに受けとる」「否定や先回りをしない」といったことを大切に考えています。
── たしかに、話を先回りされると、あまりいい気はしないですし。
岸田さん:
親は人生の大先輩ですから、つい答えを教えてあげたくなるものですよね。
たとえば「友だちがボールを貸してくれなかった」と言う子どもに、「それは、あなたがはっきり言わなかったからじゃない?」とか、「そんなことより、宿題やったの?」と言いたくなることもあるかもしれません。「このあと病院に行かないといけない」など、親には親の事情がある場合もあるでしょう。
ですから、四六時中でなくていいのです。毎日、少しでも「先回りせずに、子どもの気持ちをありのままに受け取って耳を傾けよう」と心がけることで、子どもが自分で解決法を考える力や、自分を肯定する心を育てていくことができます。
「話を聴いてもらうこと」そして「共感してもらうこと」には大きな力があるのですね。大好きな親御さんが相手ですから、そのパワーは絶大です。
子どもが「本心を打ち明けやすくなる」聞き方がある
── 子どものSOSについては、「どうしたの?」と聞くことが大切と岸田さんはおっしゃっていますが、それはなぜでしょう?
岸田さん:
子どもは親御さんのことが大好きですし、いつも親から認められたいと感じています。同時に、大好きな親御さんを心配させたくないと思っています。親が忙しいのもわかっている、ということも多いのです。
「こんなことを言ったら、忙しそうなお母さんを困らせちゃうかな」とか、「お婆ちゃんのお世話で大変そうだから、僕が我慢しよう」などと、子どもなりに気にかけていることもあります。
あるいは、少し大きくなると、「勉強にしか興味がなさそうだから、話してもしょうがないから話さない」といった場合もあります。
ですから、「大丈夫?」と聞いたら「大丈夫」と答えていても、本当は友達関係に悩んでいた、ということもあるんですね。
もちろん「大丈夫?」の声かけが絶対にダメなわけではありません。ただ、「どうしたの?」という問いかけのほうが答えやすいということは、知っておいていただくと良いかと思います。
── たとえば、子どもが保育園に行きたくないと言っている場合は「どうしたの?」と聞いてみたほうがいいということですよね?
岸田さん:
そうですね。保育園児さんの年齢ですと、大丈夫かどうかを判断するのも難しいでしょうから、「どうしたの?」と声をかけてあげて、まず、何があったのか、に耳を傾けていただくところから始めてみるのが良いと思います。
── 親に「本心を打ち明けたい」という子どものサインは察知できるものでしょうか?
岸田さん:
ふだんの様子とちょっと違っているな、と感じたら、サインかもしれないと考えて、話を聴いたり、少し注意して子どもをみることが大切ですね。
例えば「いつもご飯をたくさん食べたのに、食べなくなった」とか「夜、眠れていないようだ」とか、「足に引っかき傷がたくさんあった」とか。普段と違う点に気づくことがあると思います。そんなときにも慌てずに、落ちついて耳を傾けてあげてください。
── もし話したくても、話が得意じゃない子だったらどうしましょう?
岸田さん:
子どもの気持ちを代弁するように、言葉にしてあげることはとても大切ですね。
「本当はこうしたかったのかな」とか、「悲しくなっちゃったんだね」とか。子どもが「違うよ」って言えば、「じゃあ、どうだったのかな?」って言葉を引き出してあげたり。子どもの気持ちに寄り添って、ときどき言語化を助け、支えてあげてください。
PROFILE 岸田雪子さん
取材・文/松永怜