子どもの受験や教育について、親の悩みは尽きないもの。わが子に対して「失敗したらやり直せないのでは…」と不安を感じることもあるかもしれません。
今回話を伺ったのは、YouTubeなどで「学歴」をテーマに発信している「9浪はまい」(以下、濱井)さんと「藤井四段」(以下、藤井)さん。
大学入学までに9浪した濱井さんと、4浪4留している藤井さん。対照的な家庭環境で育った2人ですが、「親には心配をかけた」という気持ちは共通。家族との話を聞きました。
父は要介護、年収200万世帯…「9浪はまい」さんの場合
── 9浪して早稲田大学教育学部に合格した濱井さん。合格したときのご家族の反応は?
濱井さん:
うちは、私が10歳の頃に父が寝たきりの要介護になったので、ほぼ母子家庭のような環境で育ちました。世帯年収は200万円ほどで、金銭的にも余裕のない家庭でした。
母への合格報告はLINEでしましたが、ひと言「よかった!」と。浪人時代から母とは会話も少なく、直接のコミュニケーションもほぼ取れていなかったのですが、おそらくとても心配してくれていたと思います。
父には介護施設に行って合格報告をしました。当時は会話もままならない状態でしたが、その日はちゃんと反応してくれて。自分で稼いだお金を浪人生活と受験で使い果たしてしまったので、入学金と授業料を援助してほしいとお願いしたんです。「天才やな。わかった、父さんが出したる」と言ってくれたのを覚えています。
── 子どもの頃から家庭環境でご苦労もされたようですね。
濱井さん:
浪人中は「自分の人生がうまくいかないのは、こんな環境で生まれ育ったからだ」と強く思っていた節がありました。環境に納得できず、昔は親のことを恨むこともあったのですが、いまは感謝しています。
大学2年生のときに父が亡くなり、母が泣いてるのを初めて見て…。経済的にも大変な状況で、なんとか子ども3人を育ててくれた両親の苦労を、自分も理解しないといけないなと思うようになりました。それまで自分のことしか考えられていなかったなぁ…と。
父は医者、兄は医学部…「藤井四段」さんの場合
── 一方、お父さまから「医者になってほしい」という期待を受けて、医学部を目指した藤井さん。4浪の末、横浜国立大学理工学部へ進みました。医学の道ではなく、別の道へ進んだのは?
藤井さん:
3浪目のとき、自分は医者になりたいわけではなく、本当は「父親に従っているだけで、何も考えていなかったんじゃないか」という自分に気づいたのがきっかけです。医学部に進まないなら浪人はもうやめたほうがいいと思い、理工学部で物理の道に進むことにしました。
振り返ってみると、僕は子どもの頃からそうでした。反抗心などは芽生えたことがなく、「親が言ってるんだから当然そうでしょ」っていう考え方。何も考えずに、優等生を演じていたんだと思います。
── 医学部の夢をあきらめることを、親御さんは納得されたのでしょうか?
藤井さん:
すんなりとはいきませんでした。医学部の受験を辞めると伝えてから約3週間、父親といっさい口きかずに過ごして…。LINEで長文の言い合いをしました。
これは僕の想像ですが、父も「4浪までさせて、結局何もできなくて、家でも父親から反対されて…となると息子が精神的に参ってしまうのでは」と思ったんじゃないでしょうか。理解してくれた両親には感謝しかありません。
兄は1浪で医学部へ進みましたが、浪人してる僕の姿を見ていたので「いままで辛かっただろうから、これからは俺のぶんまで好きなことを自由にやってくれ」と言葉をかけてくれました。
親に心配をかけた2人が、母親世代に伝えたいこと
── 本人の意図とは関係なく子どもを塾に行かせたり、受験に拍車がかかったり…。 悩むお母さんたちも多いです。子育て中の母親世代に、子ども側の立場から声をかけるとしたらどんな言葉をかけますか?
濱井さん:
本人が望んでいない受験をさせることは親のエゴだという人もいます。その側面もあるかもしれませんが、個人的には、幼少期に「勉強をする環境」に身を置くことはすごく大事なことだと思うんです。
私は「勉強をすることが当たり前ではない環境」で生まれ育ったので、やはり積み重ねが少なく、苦労することもあります。子どもの頃から常識や基礎知識を学んでおけば、大人になって方向転換をしたいときに、勉強しなかった人よりは早く順応できるのではないかなぁと。
受験勉強は親も子どもも辛いものかもしれませんが、長期的に見れば悪いことではないと私は思います。
藤井さん:
僕は典型的な「親を心配させる息子」なので、なんていうか…難しいな。母はいつも「大丈夫?」と気をつかってくれるので、申し訳ない気持ちです。
子どもの頃から塾にも通わせてもらっていたし、子どもが嫌がる時期があったとしても「受験させることがいつか本人のためになる」という意見には賛成です。ただ、子どもだからと言って何も考えていないわけではない、とも思っていて。
僕自身がそうでしたが、どうしてもできないことってあるんですよ。周りと同じようにできるのがいいことだとは思いますが、できない子もいる。それに対して「なんでできないの?」と責めないでほしいです。
「できるようにしなきゃいけない」じゃなくて、「できないことは認めて、じゃあ何ならできるのか」という道を一緒に探してあげてほしい。相手が子どもでも、「どう考えてる?」とか「いまの状況どう思う?」というようなことをちょくちょく聞いてあげてほしいですね。これが正しいかはわからないですけど…。
── 育った家庭環境が異なる2人だからこその意見だと思います。
濱井さん:
私は、できるだけ子どもを褒めてあげてほしいなと思います。自分自身、親にあまり褒めてもらうことがなかったので、自己肯定感の低さにつながっているような気がして。
浪人時代に予備校で事務作業の手伝いをしていたとき、「この子は私に似て勉強ができないんです」とおっしゃる保護者の方が多かったんですよね。勉強の方法を知らないだけという可能性もあるのに、一概に「この子は勉強ができない」と決めつけると、子どもも本当に「自分は勉強できない」と思ってしまいます。
もちろんダメなことは叱ってほしいですけど、子どもが「挑戦しよう」「頑張ろう」と思っていることに関しては、どんなことでも褒めて、背中を押してあげてほしいと思います。
PROFILE 濱井正吾(9浪はまい)さん
1990年生まれ、兵庫県出身。9浪を経て、2018年早稲田大学教育学部に入学。Twitter(@hamaishogo1111)やYouTube「バンカラジオ」「トマホーク」などで自身の経験を発信。今月、初の著書『浪人回避大全 志望校に落ちない受験生になるためにやってはいけないこと』(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓予定。
PROFILE 藤井四段さん
1995年生まれ、鹿児島県出身。医学部を目指して4浪をするも
取材・文/大野麻里 画像提供/9浪はまいさん