女性ばかりの“何でも屋さん”である「クライアントパートナーズ」(本店・新宿)には、新型コロナウイルスの広がりによる業務が増える一方で、“ニッチ”な依頼も後を絶ちません。
それらにどう対応しているのか聞いてみると、最近の女性たちの困りごとや社会状況の一端が見えてきます…。社長の金澤瑠璃さん(33)が解説してくれました。
外出できないので代わりに買い物を
── レンタル家族、生活サポートから通訳まで多くのサービスを展開しているようですが、コロナの拡大でどのような依頼が増えましたか?
金澤社長:
自宅療養者や体調不良の方が、外出できないので、代わりに買い物をしてほしいという依頼が増えました。
遠出も難しくなったので、東京や大阪のデパートで買い物をしてほしいという依頼もあります。
弊社は東北・関東・中部・関西に事務所(全16か所)があるので対応できます。
家庭内でのモラハラ案件もありました。
夫からのモラハラに耐えられず…
── モラハラの問題は深刻ですね。
金澤社長:
ステイホームやテレワークで夫婦間の揉めごとが増えているようです。
夫からの暴言などに耐えられず家計も握られているので、仕事を見つけるなど自立したいという妻からの依頼でした。
── どのような対応をしましたか?
金澤社長:
身の上や家庭の事情を伺い、実際には働きに出る勇気もないということで、面接の練習も何度かさせてもらいました。
そもそも、相談できる相手がいなかったということで、話を聞いてもらえるだけでもよかった、という感想をいただきました。
── ホームページにはスタッフの保持資格がズラリと並んでいますが、専門をもつ人が派遣されるのですか?
金澤社長:
そのような場合もありますが、依頼者と同じような境遇や経験をした者や、お客さまに寄り添えるスタッフが対応することにしています。
騒音の嫌がらせだと思ったら…
── コロナによる生活様式の変化で、他にもトラブルや困りごとが増えていそうですね?
金澤社長:
在宅時間が増えたせいか、騒音に関する依頼もありました。
集合住宅で上階の住人から騒音の嫌がらせを受けているのではと、心労がたまっている女性から依頼が寄せられたこともあります。
このお客さまはその部屋を直接訪ねたいので、誰かに同行してほしいとのことだったので、ご一緒させてもらいました。
結局、その住人はロボット掃除機を常時作動させていることがわかり、悪意がないこともわかったので、依頼者には安心していただきました。
このようなご近所トラブルの依頼は、大家さんや管理組合への伝達を代行する場合もあります。
また、同行を依頼された場合も柔らかい雰囲気のスタッフがいいのか、押しの強そうな者がいいのか、お客さまとよく話し合い、決めさせてもらいます。
── 今後も同様の依頼は増えそうですか?
金澤社長:
増えると思います。今後の日本は人間関係が希薄になり、孤立が進み、人に相談したり頼ったりすることがしにくい社会になり、コロナ禍でその傾向は強まっていると思います。
このような状況で悩む人の心に寄り添い、共感し、役に立つことができればと思い弊社は創業され、私も入社しました。
日本は欧米のように、信仰やカウンセリングの体制は根づいておらず、一方で建前社会なので、本音を語ることも難しく相談事がしにくいと思います。
日本人の幸福度が低いのも、こういう背景があると考えられ、私たちは弁護士や診療内科に頼るほどではないが、助けてほしいという人たちにお手伝いできればと考えています。
── 男女関係の相談事も多そうですね?
金澤社長:
女性から彼氏の本心を友人として聞いてほしいということで、Zoomを使い3人で話を聞いたこともあります。
この女性の依頼者は、実際に相談できそうな友人がいそうな方でしたが、実際にはこのような面倒な相談事は頼めない、知られたくないというのが最近の傾向のようです。
不登校の理由を聞いてほしい
── ママ世代の女性からも依頼はありますか?
金澤社長:
一般的な家事や育児の代行もありますが、お子さんの相談事も寄せられます。
子どもがいつも不調を訴えて不登校気味だというお母さんから、仲良く遊びながら学校に行かない理由を聞いてほしい、という依頼を受けたこともあります。
部屋にこもってゲームばかりしているお子さんということでしたが、公園に連れ出して話を聞いてみると、本当は学校に行きたいとのことでした。
子どもは、自分の気持ちをすべて言語化できるわけではないので、行動によってSOSを出すこともあります。
このお子さんは母親にかまってほしいというサインが、不調の訴えだったのだと思います。
── 他人だからこそ、打ち明けられることもあるのですね。
金澤社長:
さらに、そのお母さんに話を聞くと、自分が小さいころは自由がないことが嫌だったので、子どもにはゲームや部屋を与え、学校に行きたくないと言われれば、そうさせるようにしていたそうです。
リア充アピールや毒親対策も
── 現代ならではの依頼はありますか?
金澤社長:
SNSや自撮りの代行でしょうか。“リア充”アピールのための写真を撮影してほしいというものもあります。
友人に頼むのはわずらわしく、居合わせた人や店員に何カットも撮ってもらうことには抵抗があるようです。
── いわゆる毒親に関連した依頼もあるそうですね?
金澤社長:
すでに成人して働いている女性でしたが、給料もすべて押さえられていて束縛も激しい母親から逃げたいとの依頼をいただいたことがあります。
お母さまが不在の間に引っ越しの手伝いをして、その後かかってきた“鬼電”に代理で対応したという事例もありました。
逆に自分が毒親なのではないかと、話を聞いてほしいという依頼もありますね。
── 便利屋や代行業というより、まるでカウンセラーやソーシャルワーカーですね?
金澤社長:
そういう側面もありますね。お客ささまが幸せになることや、お客さまの立場になって要望が理解できることを重視しています。
そこで、いわゆる「マインドフルネス」と呼ばれる概念を取り入れて、他者への思いやりや自身の集中を高める研修を重視しています。
最高齢スタッフは94歳
── 「OKおばあちゃん」というプランもあるそうですね?
金澤社長:
人生経験を積んできて、知恵や知識をもった60歳以上のシニア層も活躍しています。
高齢になっても世の中の役に立ちたいと思っている女性はたくさんいて、高齢化社会の雇用ややりがいの受け皿になるのではとも考えています。
現在、94歳の最高齢スタッフがいます。かなり達筆なので手紙の代筆や、介護施設案内などに掲載される高齢者のモデルを担当してもらっています。
他にも、料理の得意なスタッフには“母の味”を求める依頼者に対応して、同年代の人に頼むのは恥ずかしいからと高齢スタッフを指名するお客さまもいらっしゃいます。
高齢化社会を迎える一方で、そんなシニア層が人から頼られて、活躍できる風通しのいい社会になっていけばと思います。
PROFILE 金澤瑠璃さん
1988年、神奈川県生まれ。日本女子大学卒業後、株式会社クライアントパートナーズ入社。2015年、関西初出店の大阪の店舗を立ち上げ。‘21年に代表取締役就任。
取材・文/CHANTO WEB NEWS 写真/クライアントパートナーズ、PIXTA