ゆうちょ銀行のATMで硬貨を出し入れする際に、手数料がかかるようになりました。金利もほとんどつかない現在、どのように銀行を活用するのがいいのでしょうか?経済アナリストの増井麻里子さんに今後の銀行との付き合い方について伺いました。
銀行は手数料ビジネスに注力
2022年1月から、ゆうちょ銀行に硬貨を預入れ・払戻しをするのに、ATMでは1枚から、窓口では51枚から、枚数に応じて手数料がかかるようになりました。以前から大手銀行や多くの地方銀行でも、窓口では大量硬貨取扱手数料がかかっています。
自宅で500円玉貯金や小銭貯金をしている人、駄菓子屋などの商店を経営している人にとって、硬貨取扱いの有料化は大きな痛手になります。
ではなぜ硬貨の預入れに手数料がかかるようになったのでしょうか。
ゆうちょ銀行で硬貨にかかる年間のコストは数億円です。まず硬貨の輸送にはコストがそれなりにかかります。さらに硬貨を数える専用機器の保全費は高く、手で数える店舗では職員の負担も大きいです。
銀行のフルサービス型店舗やATMの数も年々減っており、そもそもお金の預入れや引き出しがしづらくなっています。
これまで銀行は、窓口やATMの利用などをきっかけに顧客の来店頻度を増やしたいと思っていました。しかし現在は、国内では貸出金利をなかなか上げられず、利鞘で稼ぐことが困難です。したがって、資産運用やビジネスマッチングサービスを通じた手数料ビジネス、および海外金融に注力しています。
そのため、入出金や送金などの用件で来店する顧客をデジタル化によって減らし、窓口対応の人件費、ATMの経費を削減しています。最近ではフルサービス型の大型店舗を縮小する一方で、資産運用や住宅ローンなどの相談に応じる機能特化型の軽量店舗を増やしています。
有料化の背景にある「キャッシュレス化」
そんな銀行の状況もあり、ここ数年推進されているのが、キャッシュレスへの移行です。現在、国としてもキャッシュレス化を推し進めています。
国が推進する理由としては、インバウンド消費拡大、消費者の利便性向上、店舗の効率化などがあります。何よりも、将来的に労働力が不足する日本では、決済の省人化・無人化を進めていかなければならないのです。
また犯罪抑止の観点から、政府は脱税防止のため、国民の資産をできるだけ把握したいと考えています。銀行に預けない、いわゆる“タンス預金”をされてしまうと、それが難しくなってしまうのです。経済が混乱して停滞しないのであれば、高額紙幣を廃止したいのが本音でしょう。
そのため、国としては現金はできるだけ自宅に保管せず、銀行に預けて欲しい。キャッシュレス化を推進することで、資産が把握しやすくなるのです。
スマートフォンと提携したポイントや決済サービスの普及も広がり、キャンペーンを利用すればかなり得になるものも最近では多いです。また電子マネーは、硬貨を手元に持つわずらわしさから解放してくれるメリットもあります。
現在、日本では約30%までキャッシュレス化が普及しています。ただコロナ禍で利用者が増えたとはいえ、韓国の95%、中国60%、イギリス57%、アメリカ47%など主要各国に比べると普及率はまだまだ低いと言えます。
それでは今後、私たちは銀行とどのように付き合っていけば良いのでしょうか?
銀行の金利は、今後もあまり期待できないでしょう。しかし、銀行には明細があれば領収書の発行が省略できるといった決済における利便性と、金庫代わりに使えば保管コスト削減になるというメリットがあります。
これからは現金の出し入れにコストがかかる時代となるため、キャッシュレス決済を利用していくのが賢い選択だと言えます。クレジットカードに苦手意識がある人は、電子マネーの少額利用から始めてみてもいいかもしれません。
PROFILE 増井麻里子さん
取材・文/酒井明子