4月2日、東京タワーなど全国各地の名所が青色に染まります。なぜでしょう。同日は世界自閉症啓発デー。世界各地で自閉症のシンボルカラーである青色に街が染まる日です。実は10年前まで、日本でこの活動はそれほど活発ではありませんでした。広げた立役者の一人は俳優であり、一般社団法人Get in touch理事長の東ちづるさん。当時は「東ちづるは神輿に担がれている」「障がい者を食い物にしている」「好感度アップのためだろ」などと心ない批判も受けました。あれから10年、仲間と活動を継続。昨年の東京オリンピック・パラリンピックでは、ひとつの文化パートで総指揮も任され、マイノリティーもマジョリティーも関係なく、プロのパフォーマーたちと「まぜこぜ」な映像を描きました。そんな東さんに今の思いを伺いました。

東ちづる

始まりは骨髄移植のテレビから

── 東さんの社会的活動はとても長いですが、いつから行ってらっしゃるんでしょうか。

 

東さん:
30年前からこういった社会的活動、仕事とは関係ない活動を始めました。誰も排除しない「まぜこぜの社会」を作る活動、Get in touchの活動は11年前からで、10年前に法人化しました。

 

── 始めたきっかけは何だったのでしょう。

 

東さん:

家で白血病患者のドキュメンタリー番組を観ていたときです。エピソードに感動はするのですが、なぜ当事者が自分の病気を公表したのか、そのメッセージが伝わってこなくて。モヤモヤしたんです。

 

私は報道番組出身なので、困っている人のために報道はあると思っていて、困った人のメッセージを伝えきれていないことがもったいないと感じました。そこから骨髄バンクを知り、日本でも広く知ってもらいたいと活動を始めました。

 

そして、難病や病気などで障がいのある方々との出会いが自然に広がっていったんです。

東ちづるさん

自閉症啓発「日本は2、3年で追いつく」と世界で宣言

── 自閉症の取り組みに力を入れたのはいつ頃からですか。

 

東さん:

以前から自閉症のお子さんがいる活動仲間や友達もたくさんいて、自閉症の方の直面する現実を知り始めたころの10年前、ニューヨークにある世界最大といわれる自閉症の啓発擁護団体から呼ばれたんです。

 

そこで国連が定めた「世界自閉症啓発デー」というものを知って、先進国がこぞって青くしているのを知りました。ナイアガラの滝やオペラハウス、エンパイアステートビルディングなどがブルーにライトアップされて、自閉症を啓発している。ロック歌手もブルーの服を着たりしていて衝撃的でした。東京タワーは当時ブルーになっていたけれど、私は知らなくて。各国から「日本はなぜ遅れているんだ」と質問責めにあいました。

 

ある人に、日本で政治家、芸能人、スポーツ選手といった有名・著名人が自分のお子さんがダウン症や自閉症だとカミングアウトしたらどうなるんだと聞かれた時、日本からのある参加者が「仕事が減る」と答えたんです。実際、トーク番組でお子さんの障がいを話したら、バラエティには呼びづらいと言われた方のケースもありました。

 

海外の方は「うちの子は自閉症だけど、面白くて最高なんだよ!」と笑顔で話すんです。「あ、これだ!」と思いました。

 

うちの子は「素晴らしい」という切り口。実際に「アスペルガーってかっこいいんです。僕天才です」っていう自閉症の子もいて。彼は空間認知力や記憶力に長けているんです。空気が読めないという特性がある人もいて、思ったことをそのまま言ってしまうこともあります。例えば「髪切って似合ってないね」とか言ってしまうことも。それを面白がろうと。もちろん大変な日常があることも理解していますが。

 

あまりに日本のことが話題になったので、その場で私は「日本は2、3年で追いついて見せます」と言っちゃっていました。言ったからには、自閉症啓発やるよと仲間に言って、スタートしました。

東ちづる
過去の世界自閉症啓発デーでの様子(写真提供/Get in touch)

ものすごい叩かれたイベント案

── 活動を始めたらいかがでしたか。

 

東さん:
プロの自閉症のダンサーや、シンガーの皆さんと一緒にステージを作ったんです。そしたらね…叩く人もいて…。

 

── 叩かれたんですか。

 

東さん:

はい。10年前に「世界自閉症啓発デー」を知って取り掛かり、9年前から「Warm Blue Day」(ウォームブルーデー)と名付け、東京タワーでイベントをスタートさせました。当時は、関係者やご家族から「お祭り騒ぎはけしからん」「自分が楽しみたいんだろう」と。

 

啓発には講演やシンポジウムも有効だけど、そこは意識の高い人が集まりがち。人ごとだと思っている人に関心を持ってもらうにはワクワクするツールを使った方がいい。私だって啓発イベントには行きたいとは思わないですもの(笑)。だから、「楽しい、胸躍る、そして気づいたら知っている」を作り出そうとしました。

 

── 実現までは大変だったんですね。

 

東さん:
「東ちづるは神輿に担がれている」とか「障がい者を食い物にしている」「好感度アップのためだろ」とかとかいろいろ言われましたね。でも全部、論にはなっていないので。

 

仲間たちと厚生労働省さんや自閉症協会さん、関連団体、企業と連携しながら「レッツゴー!やるぞ!」と実現させたら、当日は大嵐で、中止も危ぶまれる中、全国から当事者やご家族、いろいろな団体の皆さんが3000人以上集まってくれたんです。

 

── すごいですね。

 

東さん:

ある自閉症のお子さんのいる親御さんからは「不特定多数の人が集まるところは、うちの子はパニックを起こすかもしれない」とお問い合わせを頂いたのですが「パニック起こしても大丈夫ですよ。医療部隊も弁護士もいます」とお伝えしたら、親御さんも「パニックを起こしていいんだ」と思って安心されたんでしょうね。親御さんが伸び伸び参加しているから、自閉症のお子さんも飛び跳ねたり、ダンスしたりして。「みんなが笑顔でピースフルだとパニックを起こさないのかもしれませんね」とおっしゃっていました。

 

それから自閉症協会さんからも厚労省さんからも、「これも啓発ですね」と評価されました。そのイベントはスタイルを変えながら今も継続されていて、今ではGet in touch主催ではなく、たくさんの団体によって開催されています。今年はオンラインです。

東ちづる
過去の世界自閉症啓発デーの様子(写真提供/Get in touch)

分断させない、自閉症もLGBTQも、何でも

── 気をつけていることは何でしょうか。

 

東さん:
私が気をつけているのは、分断させないことですね。世界自閉症啓発デーでも、自閉症のみならず、LGBTQ、目が見えない人、聞こえない人などいろんな団体に集まるよう呼びかけています。そうすることで、お互いに助け合うんですよ。

 

分断されない、カテゴライズされないと、化学反応が起こるんです。

 

支援する側と支援される側をまったく分けてないです。分けるとそれが分断になります。Get in touchは支援団体ではないんです。一緒に社会を変える団体です。絶対的に対等だし、「こちらが困っている時は助けてね」と、お互いに助け合っています。

 

── 暴力的な行動をとってしまう子もいると思いますが、そういったケースはどうされていますか。

 

東さん:

なぜそのような行動になったのか、そしてどう解決すればいいのかを一緒に考えます。メンバーには専門家もいます。例えば、風船を見るだけで大声をあげて走って逃げる子がいました。過去に風船が割れた記憶から、怖いと思ったらしいです。だから、風船をしぼませて、「大丈夫だよ」と見せたりしました。ひとつずつですね。すべて気づきがあります。

 

── 楽しいから続いているのでしょうか。

 

東さん:
実際は、すっごく大変。誰もやったこともないことをやるのは、日々闘い。面白いけれど、知らないことだらけだし。

東ちづる

でもわかっていく面白さってありますよね。自閉症の人に「そこ走らないで」っていうと止まっちゃうから「そこ歩いてね」と言うとか。「お風呂場のお湯見てて」だと、お湯がいっぱいになって流れ出ても見ているだけだから、「いっぱいになったら止めてね」と伝えるとか。ひとつずつわかっていくことも面白かったのかなあ。

 

最初、まったく人の目を見て話さなかった人が、今は目を見てしゃべっていて「すごい進化だよね」と言っています。こんなに人って変わるんだって、驚かされます。

積み上げたものが一瞬で潰れる不安もあった

── その活動の集大成が昨年の東京オリンピック・パラリンピックの文化パートの映像制作ですよね。いかがでしたか。

 

東さん:
当時、東京オリンピック・パラリンピックには開催に賛否両論あったので、私自身と関係者が傷つく恐れがあるんじゃないかと思いました。ずっとコツコツ活動してきたことが一瞬で潰れるようなことになるんじゃないか、という不安はありました。

 

しかし、こんな大きなチャンスはないだろうなと。それはプロのマイノリティパフォーマーが注目されるということ。あんなに素晴らしいパフォーマーがいると一度にたくさんの人に知ってもらうチャンスでした。

 

── 映像制作「MAZEKOZEアイランドツアー」はどんな意図でつくられたのですか。

 

東さん:

見たことのない映像でしょうから、衝撃もあると思うけれど、感嘆し、感動し、笑い、時に涙し、そして思考してもらいたいと思いました。

 

謎もいっぱい出てくるはずです。(低身長症の人が試合をする)こびとプロレスってなんで昔はあったのに今はやらないんだろうとか、見終わったあとに家族や友達と対話して、「あの人すごいね」とか、「あの人の足どうなっているんだろうね」「私の学校にはなぜいないんだろう」「私の会社にはなぜいないんだろう」「街でなぜ会わないんだろう」と対話が生まれるといいなと思いました。

 

── あの自閉症の人のラップすごかったですね。子どもと見ました。

 

東さん:
子どもはフラットに見ますよね。「GOMESSってかっこいいね」車イスのあの人足どうなってるの?踊れてすごいねとか。

 

── そうですね。そんな準備中の2020年に胃がんの手術もされて、大変な中で作られましたね。

 

東さん:

とってもラッキーなことに胃潰瘍の検査の時に、見落としてたかもしれないぐらいの胃がんを見つけてもらったんです。手術室にも入ってなくて、胃カメラの部屋で削ってもらったからまったく実感ないんですよ。で、こうやってインタビューしてもらうと、あ、そうだったと思うんですよね。

 

作品制作中だったので、万が一の時、誰に委ねるかは考えました。でも逆に入院したことで、とても集中して制作できたんです。家事もなく、朝から晩まで資料を調べて、キャスティングするとかしていました。本当にあの期間、ギュッて仕事ができました。あれがなかったら、悩んだり、挫けたりしたかもしれません。挫ける暇がなかったですね。

「MAZEKOZEアイランドツアー」のベースとなった舞台「月夜のからくりハウス」。自閉症のラッパーGOMESS(右)と車椅子ダンサーかんばらけんた(写真提供/Get in touch)

まだ、こういう時代か

── キャスティングもご苦労されたそうですね。

 

東さん:
そうなんですよね、本当に苦労しました。多様性には賛同するけど、そこに自分が入るのは違うという方もいました。「多様性は認めるよ」と言うのは無自覚の上から目線です。「あなたも既にそこに入っているよ」と言いたい。「福祉的な匂いをつけなくたい」とか「まだ犠牲になりたくない」とか言われました。衝撃も受けましたが、「そっか、まだこういう時代か」と感じました。

 

── これからも芸能人と障がいのあるパフォーマーのコラボの映像や舞台にチャレンジしていくのですか。

 

東さん:
もちろんチャレンジします。来年の舞台も制作中です。芸能の人からは声をかけてくれるのを待ちたいと思っています。オファーして断られると、その度に傷つくんですよね(笑)。「ちづるさん偉いですね~尊敬します」と言われると、「いやいや、私が楽しんでいるんですよ」と答えていますが、なかなか伝わらないんでしょうかね。

 

でも、映像や美術関係の裏方の人で「すごい羨ましい」とおっしゃる方もいて、また新たに参加してくださる方もいるので、手をあげてくださる方を待ちたいですね。

社会の合理的配慮を

── 自閉症の方と社会の繋がり、どうなればいいと思われますか。

 

東さん:
合理的配慮がなされればいいと思います。「外に出てくればいいじゃん」じゃないんです。合理的配慮がないと出られない。聴覚過敏がある人には、例えば「午前11時から1時間は館内音楽を止めるので、その時間にどうぞうちのスーパーをご利用ください」とか、配慮して多様性が可能になります。マーケットも広がると思いますよ。

 

不動産屋さんにしても同性パートナーとの入居もいいとか、基盤が整わないと多様性はできないです。「みんな認めてます、多様性」、「ともに生きよう、共生社会」と言っているけれど、そのためには合理的配慮がいるんです。

 

階段だらけのところで車椅子の人もウェルカムです、と言っても無理ですよね。スロープにするとか、マンパワーで車椅子を運ぶとか、そうした配慮ができて、ダイバーシティは実現しますよね。

 

自閉症の人には「パニックになった時のこもり部屋もあるので、どうぞお越しください」とか、そういう配慮ですね。そんなに難しいことではないと思っています。

PEOFILE 東ちづるさん 

広島県生まれ。ドラマから司会、講演、ラジオ、執筆など幅広く活躍する。アートや音楽、映像、舞台などを通じて「まぜこぜの社会」を目指す一般社団法人Get in touchを設立し、理事長として活動している。東京オリンピック・パラリンピックの大会公式文化プログラム「東京2020NIPPONフェスティバル」の文化パート「MAZEKOZEアイランドツアー」の総合演出・構成・総指揮を務めた。4月2日 世界自閉症啓発デーにはオンラインイベントがYouTubeにて開催される。

参照/「MAZEKOZEアイランドツアー」 https://youtu.be/waK22pnvFRY
自閉症啓発デーオンラインイベント https://youtu.be/GWK1ik0AEjI

取材・文/天野佳代子 撮影/CHANTO WEB NEWS