「捨てる片づけ」ブームの中、「捨てない片づけ」を提案している米田まりなさんは、モノの多い家庭で育ちました。
おじいさまや両親のモノへの接し方には、とても影響を受けたそう。
「モノには愛が宿るし、所有欲に罪悪感を持たないで欲しい」と話す米田さんに、家庭にあふれるモノが子どもに与える影響について伺いました。
本が山積みだった祖父と父の部屋
── 米田さんは、モノにあふれた家庭で育ったそうですね。
米田さん:
私が小学3年生のときに亡くなった祖父は脚本家で、部屋には原稿用紙や本が山積みになっていました。
生前それほど交流はなかったのですが、亡くなったあと、祖父が書いたモノや部屋にあった本を1年くらいかけて読み漁ったのを覚えています。
祖父の遺品を通して祖父に触れることができ、そうした体験が、「情報発信をする人ってかっこいい、自分もそうなりたい」という目標を持つきっかけになりました。
父は研究者で、書斎は本で埋め尽くされていましたね。
いつもドアを開けっぱなしで研究をしていたので、幼少期は廊下を通るたびに部屋をのぞいて「勉強する人の姿っていいな」と思っていました。
父の本を借りて「自分もこれを読みこなせるようになりたい」と思うなど、影響を受けていました。
── お母さまは?
米田さん:
母はモノ作りが得意で、人を家に招くのが大好き。季節の行事や来客時には、いつも張り切って家中を飾りつけていました。
モノは多く、片づいているとは言い難い実家でしたが、幸せにあふれていて居心地がよかったですね。
── となると、米田さんもたくさんモノを所有していたんですか。
米田さん:
はい、中高生時代は参考書を集めるのが趣味でした(笑)。
ロフトベッドの下をすべて書庫にして、教科ごとに並べていました。すべて使っていたわけではないので、ほとんどコレクションですね。
私が今「捨てない片づけ」を提案しているのは、こうした生い立ちが大きく影響していると思います。
モノが少ない暮らしは効率的ではありますが、みんながモノを捨て、同じようなモノだけを持つ世の中になってしまったら、アーティストや作家のようなクリエイティブな人は生まれにくくなるのでは、という危機感もあります。
クリエイティブな人はモノの多い家で育った
── 自身の生い立ちもあり「クリエイティブな人が、どういった家庭環境に育ったか」を調査されたそうですね。
米田さん:
はい。1都3県の300人の中からクリエイティブなグループ146人を抽出、そのグループが、モノに対してどのような思考を持っているのか、モノにまつわることとクリエイティブ性に相関関係が存在するのかをアンケート調査しました。
その結果、クリエイティブな人の親は「モノへの愛着が強く」、実家には「モノが多い」ことがわかりました。
また、親が集めていたモノを子どもも集める傾向にあることもわかりました。
画材や画集が家に多くあり、その影響でイラストの仕事に就いたとか、親がキャンプ好きでアウトドア用品をたくさん持っており、その影響でアウトドア用品を集めているなど、親の所有物が子どもの将来に影響を与えているケースは多いようです。
── モノが多く片づかない…と悩む保護者には朗報ですね。
米田さん:
モノには愛が宿りますし、そのモノを通して、子どもはたくさんのことを学びます。実体験と調査結果から、明言できます。もし、モノに愛着はあるけど散らかるから捨てなくちゃと思っている方がいたら、そのようなメリットも知って欲しいです。
所有によらない刺激もある
── ということは、モノが少ない家庭の子どもは、クリエイティブには育たないのでしょうか?
米田さん:
そうした調査はまだできていません。ただモノが少ない家庭は掃除が行き届いており、子どもが清潔な環境で過ごせる傾向にはあると思います。
あとは、空間が広いこともあり、子どもの友達が頻繁に遊びにくるという話もよく聞きます。
── 友達が頻繁に遊びに来れば、交友関係からの刺激はありそうですね。
米田さん:
モノが少ない家庭であっても、子どものモノだけは別に考えている人もいますし、本やおもちゃを借りることで刺激を与えている人もいます。また、モノではなくてコト消費で刺激を得ることもできますしね。
片づけのマインドは人それぞれなので、各家庭にあった方法で、子どもと向き合えばいいのではないでしょうか。
大事なのは、子どものために「捨てなくちゃ」「モノをたくさん与えなくちゃ」ということではなく、家族が心地よく過ごせる環境作りだと思います。
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自分の特性を知ることが、片づけの第一歩。どのタイプにも、いいところと弱いところがあります。パートナーとタイプが違う人は、お互いの特性を理解して、歩み寄るきっかけにできるといいですね。
PROFILE 米田まりなさん
取材・文/林優子 イラスト/はり