「捨てる片づけ」がもはやスタンダードとも言える現代において「捨てない片づけ」を提案しているのが整理収納アドバイザーの米田まりなさんです。東大卒の米田さんの片づけメソッドは、調査データや科学的根拠に基づいているから、「リバウンドしない、新時代の片づけ」として大人気。

 

そんな米田さんに、家の中にモノがあふれてしまう理由と、モノへの向き合い方について伺いました。

片づけられないのは住宅事情のせい!?

── 片づけたいのに、なかなか片づけられない。その理由はなんでしょうか。

 

米田さん:

最近の傾向として挙げられるのは住宅事情だと思います。

 

実は都市部の住宅は年々狭くなっているんです。株式会社不動産研究所が2019年8月に発表した「首都圏マンション 戸当たり価格と専有面積の平均値と中央値の推移」によれば、2009年からの10年で平均値が約3㎡縮小しています。

 

「統計でみる都道府県のすがた2019|総務省統計局」によると、平均住宅敷地面積が一番広いのは茨城県。1住宅あたり425平米です。一方、東京都は140平米で、なんと茨城県の三分の一の面積。これは東京都郊外部も含めた平均値なので、東京23区に限定すればさらに狭い面積に住んでいることが予想されます。

 

都市部の家賃の高さはみなさんご存じだと思います。たとえば同じ14.5万円でも茨城県なら約83平米の物件に住めますが、東京都なら約40平米の物件にしか住めません。

 

住宅が狭くなるにつれて、収納容量も小さくなっています。

 

「片づいている」というのは、定位置にモノが収まっている状態のことで、収まっていなければ「片づいていない」ことになります。

 

住宅面積と収納容量が小さくなっているので、片づけられないのはある意味当然なんです。

 

── 知らない間に約1畳半も床面積が減っていれば、難しいですよね。家が狭くなっているなか、みなさん一体どうやって片づけているのでしょう?

 

米田さん:

いや、片づいていないんですよ。

 

テレビや雑誌などでは、片づいた人の部屋の様子はよく目にしますし、最近はSNSで公開している人もいますよね。でもそれはごく一部の人という印象です。

 

以前、都市部に住んでいる人たちにアンケートを取ったのですが、7割の人が「片づけられない」と悩んでいました。持っているモノに対して狭い家に住み、片づかない状態で暮らしている人はたくさんいます。

 

だから「捨てる片づけ」が支持されているわけですが、この方法には、所有欲の個人差という視点が抜け落ちている気がしています。

 

── 「所有欲の個人差」ですか?

 

米田さん:

そうです。所有欲、つまりモノへの愛ですが、これには個人差があります。所有欲が強くない人は、モノを手放すのに抵抗がないので、狭い家でもスッキリ暮らすことができます。対して、所有欲が強い人はなかなかモノを手放せない。

 

これは、意志が強い、弱いということではなく、パーソナリティの違いです。

 

所有欲が強い人たちには、「自分だけのユニークな人生を歩みたい」という意識が共通しています。実際、所有に関する独自調査の結果、「クリエイティブな人ほど、モノを多く所有している傾向がある」ことがわかっています。

 

著名な芸術家やアーティストの自宅写真を見ても、決してミニマリストではないですよね。

 

そうした人たちにとって、モノは片づけを阻害する対象ではなく、人生を彩る愛すべき仲間ですから、「捨てる片づけ」は馴染みません。

 

私は、モノへの愛は、自分らしいユニークな人生を作る源泉だと思っています。モノを愛する人たちには、モノが多いことを自責してモノを手放すのではなく、愛しぬいて欲しいですね。

ハンディゾーンだけは「ミニマリストのように」

── では、モノを愛しているけれど、都市部の狭い家に住んでいるため片づかない…という人はどうすればいいですか?

 

米田さん:

モノが少ないミニマリストの生活は、たしかに効率的です。けれど、モノへの愛がある人ほど、簡単にモノは捨てられないですよね。それなら、モノを大量に捨てずに「ミニマリストのように」暮らせばいいのです。

 

私は、家の中を「ハンディゾーン」(手の届きやすい場所)と「バックヤード」(押し入れの奥などの手の届きにくい場所)に分けて片づける方法を提案しています。

 

ハンディゾーンには、次のルールに従って月1回以上使うモノだけを置きます。

 

  • 収納はスペースの8割までに抑える。
  • 使う場所の近くに、使うモノと一緒に収納する。
  • ワンアクションで取り出せるように収納する。
  • 洋服をかけるハンガーは、3㎝以上間隔をあける。
  • 寝かせるよりも立てて収納する。

 

定位置を決めても、戻すのが面倒くさいと感じたら収納場所を見直すことも必要です。

 

そして、月1回未満しか使わないけれど取っておきたいモノは、「バックヤード」に収めます。バックヤードに収納する際は、次の3つのルールを意識してみてください。

 

  • 中身を記録する(写真に撮る)。
  • 箱に詰める。
  • 収納場所と中身がわかるように記録しておく。

 

こうすることで、持っているのを忘れてしまう心配がありません。

 

バックヤードのスペースがたりない場合は、外部収納サービスなどを利用して、家の外で管理することも検討しましょう。

片づけは「自己肯定感構築作業」

── 捨てなくていいと思ったら、気がラクになりますね。とはいえ、ハンディゾーンに置くモノ、バックヤードにしまうモノすらわからない状況…という人も多そうです。

 

米田さん:

そうですね。「片づけ」には3つのステップがあります。

 

1つめは、モノの意味を考えて分類する「整理」、2つめは、モノの定位置を決める「収納」、3つめはモノを定位置に戻す「整頓」です。

 

いちばん大事なのは「整理」です。よく「ビフォーアフター」的に短時間で一気に片づけようとする人がいますが、「整理」ができていない段階で着手しても、モノを無理やり隠したり収めたりしてしまいがち。それでは対処療法にしかならなくて、3日もすればリバウンドしてしまいます。

 

── 地味な作業ですが、最初のステップの「整理」が、いちばん大事なんですね…。

 

米田さん:

その通りです。1つひとつのモノを手にとって、「これは何?」と問いかけ、分類してください。

 

たとえば、同じ写真集でも「自分で眺める用」ならハンディゾーンに、「人に見せる布教用」や「保存用」ならバックヤードにという具合に、収納場所は変わります。

 

地味な作業ですけれど、モノに向き合うことは自分を振り返り、理解することにつながります。

 

自分を知るための活動って、世の中にたくさんありますよね。セミナーに行くのも旅に出るのも、「自分らしさとは何か」という問いに向けた消費行動といえます。

 

片づけは、自分を理解して地に足をつけるのに最適なプロセス。手っ取り早くてお金のかからない「自己肯定感構築作業」だと思います。

 

── ご著書にあった「片づけは裏切らない」という言葉も印象的でした。

 

米田さん:

そうなんですよ。片づけは、モノの整理によって自分への理解が深まるだけではありません。家の中が片づいていると、やりたいことが家の中でやりやすくなるというメリットもあります。

 

たとえば、ジムへ行かないと運動できない人よりは、家にヨガができるスペースがあって家でも運動できる人のほうが習慣化しやすいですよね。

 

仕事も同じで、家でも外でもどちらでもできるに越したことはない。気象条件やコロナなどの外部要因に左右されることなく、家の中で目標が達成できると、イライラすることも減ると思います。

 

片づけも、モノを捨てるのも苦手な私。「モノへの愛がある人ほど捨てられない」という米田さんの言葉に励まされました。片づけは「自己肯定感構築作業」と考えて、モノと向き合う「整理」から少しずつはじめてみようと思います。

 

PROFILE 米田まりなさん

整理収納アドバイザー1級。モノを愛してやまない人に向けた「捨てない片づけ」を考案。著書に「集中できないのは部屋のせい(PHP研究所)」「捨てない片づけ(ディスカバー21)」ほか。東京大学経済学部を卒業後、総合商社を経て不動産ディベロッパーで都市開発を行う。一橋大学大学院にて経営学修士取得。

取材・文/林優子 イラスト/はり