「声の大きな人や大多数の意見に流されてしまう」「なかなか自分の意見が言えない」。同調しかできない自分と向き合うためには、どうすればいいのでしょうか。

 

産業医・精神科医の井上智介先生の元にも多く寄せられるというこの問題。周りの声に流されないために大切なことを聞きました。

周りに流されてしまうときに働く心理

昔から「和を以て貴しとなす」という言葉があるように、日本では、和を乱さず争いを起こさないようにすることや、周りに同調することが美学のような風潮があります。

 

もちろん、相手に合わせることで、コミュニケーションがうまくいく場合もあります。ですが、自分の意図しないままに流され、フラストレーションがたまってしまうようでは健全とはいえません。

 

実は、自分の意見を言えない人は、

 

・自分の意見に自信がない


・周りと違う主張をして嫌われたくない


・その場の雰囲気を壊したくない

 

という心理が働いています。

 

多くの場合、自分の意見が通らないことではなく、自分の意見が言えないことにもやもやしてしまうのです。

 

この問題を解決するために大切なのは、自分の言葉でしっかり自己主張をして、納得すること。これは、自己肯定感アップにもつながる方法です。

「他人が望む自分」を演じなくてもいい

自分に自信がなく、なかなか意見が言えないという人のなかには、「あの人ならこう言ってくれるだろう」という周囲の期待を敏感に感じ取ってしまう人も少なくありません。

 

他人が望む自分を演じたり、期待に答えようと無理をしたり…結果、心がしんどくなってしまっては悲しいですよね。

 

自分の気持ちに嘘をつかず、方法に気をつけながら意見を伝える。この気持ちを大切にしながら、少しずつ実行していけば、毎日がぐっと生きやすくなるのではないでしょうか。

自分の意見を伝える3ステップ

自分の意見を周囲に伝える際は、その伝え方も重要です。たとえば、誰かの意見を無下にしたり、一方的に反論してしまったりすると、周囲との関係に摩擦が起きてしまいますよね。

 

あなたの考えは数多くある意見のひとつであり、相手の考えもまた、数ある意見のひとつ。あくまでも対等に意見を伝え合うことを忘れないようにしましょう。

相手の意見を肯定的に受け入れる

1つ目のステップは「受け入れる」ことです。いくら自分の意見と異なっていても、すぐに反論するように自分の話をはじめるのはご法度。

 

なぜなら相手の意見を受け入れなければ、自分の意見なんて聞いてもらえないからです。

 

もちろん、相手の意見と同じ考えだった場合は、うんうんと頷いたり、「私もそう思います」のように、そのまま言葉にして伝えるのもいいですね。

 

自分とは違う考えだった場合でも、「そういう考え方もあるんですね」と、相手の意見を受け入れる発言をしましょう。

自分なりの視点や理由を伝える

2つ目のステップは、自分の意見を相手に伝えるターンです。

たとえば、相手は「在宅勤務を増やすことには慎重である」という意見を持っている。対して、あなたは「もっと在宅勤務の日数を増やしたい」という考えを持っている場面を想定してみましょう。

 

この場合、いきなり「在宅勤務を増やしてほしい」と意見を述べると、角が立ってしまうので、相手とは別の意見を持つ理由や自分なりの視点を伝えるようにしてください。

 

具体的には、「オフィスの家賃を減らせる可能性という視点からみて…」「感染症になるリスクを減らすという理由で…」「介護や育児をしている従業員の働きやすさという理由で…」といった具合です。

 

あくまでも、相手の考えに反論するのではなく、自分がそう思う理由を伝えることを意識しましょう。

提案する形で締める

いよいよ最後のステップで、自分の意見を主張します。

 

とはいえ、いくら自分なりの視点や目的を伝えていても、強く言い切ってしまうと、議論がヒートアップして収集がつかなくなる可能性もあります。

 

そうならないためには、「提案」という形で自分の意見を述べるとよいでしょう。

 

たとえば、「特にオフィスの家賃が減らせる点が魅力的だと思うのですが、在宅勤務の日数を増やすことはどうでしょうか?」と提案してみる。

 

相手に自分の意見を押し付けるのではなく、自分の意見を吟味してもらうことが、対等に意見を伝え合う方法なのです。

意見の否定は、存在自体の否定ではない

場合によっては、自分の意見を伝えた結果、相手から否定的な意見を言われてしまうこともあるでしょう。

 

しかし、ここであなたが傷つく必要はありません。相手はあくまでも「あなたの意見を否定している」だけであって、「あなた自身を否定している」のではないのです。

 

どちらが悪いわけでもないので、「そりゃ、自分の意見が通らないこともあるもんだ」と割りきる。

 

間違っても、もう自分の意見を言うことはやめようと思わないでくださいね。

 

PROFILE 井上智介

井上智介先生プロフィール
大阪を中心に精神科医・産業医として活動。産業医としては社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員に、カウンセリング要素を取り入れた対話重視のケアを行う。精神科医としてはうつ病、適応障害などの疾患の治療に加え、自殺に至る心理、災害や家庭、犯罪などのトラウマケアにも対応する。

取材・構成/水谷映美