部下の言動にストレスを感じる上司が増えているそうです。「逆パワハラでは?」と思い込み、精神的に参ってしまうケースも。部下はなぜ反抗したり、嫌がらせをするのでしょう。「原因は部下・上司の関係を超えたところにもあります」。長年、労務相談を受けてきた石川弘子さんに現状を聞きました。
テレワークの顔出しで怒りだす部下
部下が自分の主張を押し通し、上司が混乱したり、悩みを抱えたりする。そんなケースをよく聞くようになりました。
最近はテレワークでの「顔出し」について、部下が上司にくってかかるケースが問題になっています。
例えば次のような事例です。コロナ禍で部内のコミュニケーションが減っているため、上司としては、意識的に顔を見ながらオンラインミーティングの場を多く持つようにしています。
メンバーの顔を見て話した方が体調もわかり、話しやすいから良いと思っているからです。
ところが、「絶対に顔出しはイヤだ」と譲らない部下がいます。「家はプライベートな空間なのに、会社の人に見せないといけないのはおかしい、なぜ映さないといけないのか」などと言って、拒否するそうです。
その理屈が理解できない上司は「部下は自分に嫌がらせをしたくて言うことを聞かないのではないか」と感じ、悩んでしまうそうです。
しかし、ほとんどのケースで、部下には悪意がありません。
今の時代、仕事とプライベートを分けたいと考える人が増えています。家というプライベート空間をのぞかれたくない。する必要もない。それが当たり前だと思っているだけです。
また、子どもを叱る大人が少なくもなりました。家や学校、地域社会などで叱られた経験がないまま社会人になる人もいます。そのため、ものおじすることなく会社でも自己主張をします。
結果、本人に自覚はなくても上司は追い詰められていると感じ、会社で問題になったりするのです。
変化の激しい今の時代、世代が違えば育った環境はまったく違います。何を「当たり前」と思うか、感覚もまったく違うのです。
部下が反抗する、嫌がらせをしてくる。それは、ただ上司からはそう見えるだけというケースもあるのです。
世代による「当たり前」の違い。それが、部下にストレスを感じる上司が増えている原因のひとつです。
「その仕事、意味ありますか?」と反抗してくる部下
部下にはそこまで悪気はない。しかし、上司にとっては前述した事例以上に耐えられないレベルのストレスを感じ、相談してくるケースも少なくありません。
仕事の指示を出しても、「その仕事、意味ありますか?」などと反抗的な態度で指示に従わず、社内で「あの課長の指示はおかしい」などと吹聴し、上司の評価を下げる部下です。
比較的、能力が高い部下に見られるケースですが、「自分のほうが上司より能力が高い」と思い込み、周囲に自分のほうが有能なのだとアピールします。
部下の社内での評価が低い場合に多いのですが、自己評価と会社の評価のギャップに対する不満を上司にぶつけているのです。
場合によっては、社内でのロビー活動に精を出し、上司を飛び越えて、さらに上の人と人間関係を構築し、上司を追い詰めようとすることもあります。
立場をなくした上司が、精神的に追いつめられたという相談も少なくないのです。
原因は「当たり前」の違いと「会社」への不満
こうした「逆パワハラではないか?」と上司が思ってしまうケースがなぜ増えているのでしょうか。ひとつは、先述したとおり、世代による「当たり前」の違いが原因です。
育った時代が違えば「当たり前」の感覚もまったく違います。上司がそれをストレスに感じ、徐々に追いつめられて「逆パワハラ」ではないかと思い込み、悩むのです。
そして、もうひとつが「会社に対する不満」です。部下の問題行動や発言の裏には、「会社に対する不満」が隠されているケースも多いのです。
会社での“待遇や給料、労働時間など”で思うところがある部下が、無意識に上司にきつく当たってしまう。それがエスカレートして、上司を追いつめる言動になるのです。
上司ではなく会社に対して不満が、上司を追いつめる言動となって現れている可能性があります。
「それなら、上司は部下の不満を聞き出す機会を設けるようにすればいい」「部下とコミュニケーションを密にとり状況を改善していこう」。そう思うかもしれません。
たしかに、上司・部下がお互いにストレスを溜めない職場環境をつくるのには有効でしょう。
しかし、既に精神的に追いつめられている上司にとっては、あまり良い方法とはいえません。反抗的な部下に上司が何かを呼びかけることで、逆効果になることもあるからです。
部下が反抗的である原因は、会社にもあることを忘れないでください。ひとりで抱え込まず、会社全体で解決できるよう、自身の上司や同僚に相談することが何よりも大事です。
監修/石川弘子 取材・構成/前田さよ