4月2日は世界自閉症啓発デー。会話のできない重度の自閉症でありながら、文字盤ポインティングとパソコンでコミュニケーションを行っている東田直樹さん(29)。13歳で執筆した『自閉症の僕が跳びはねる理由』は世界30か国以上で翻訳され、117万部を超えるベストセラーになりました。東田さんの今をオンラインで伺いました。

東田直樹さんとお母様
東田さんとお母様の美紀さん

ベストセラーになっても僕の生活は変わらない

── 13歳の時に執筆した自閉症の内面を表現した自伝は15年前にベストセラーとなり、映画化もされました。グローバルビジネス誌「フォーブス・ジャパン」主催の世界に影響を与える30歳未満の30人を選出する「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 JAPAN 2021」も受賞されました。生活は変わりましたか。

 

東田さん:
世界中で僕の本を読んでいただくことができて光栄でした。文化や宗教がちがっても、家族や当事者の悩みが同じなのだと痛感しました。

 

僕自身は、本がベストセラーになったからといって、生活そのものが大きく変わることはなかったです。自分ができることを、一生懸命に、やるだけです。

東田直樹さん

── 文字盤ポインティングという手法で考えを文章にして伝えたり、書いたりできるようになったとのことですが、どうしてできるようになられたのでしょうか。

 

東田さん:
僕は、話そうとすると、頭の中が真っ白になってしまいます。自分の言葉を忘れてしまうんです。文字盤のアルファベットを見ることで思い出しています。

 

── 重度の自閉症でありながら、作家としても活躍されています。他の自閉症の方も同様にトレーニングすれば意思を伝えられるのでしょうか。

 

東田さん:
それは、わかりません。なぜならば、マニュアルがあるわけではないからです。

5歳の直樹さん
5歳のときの東田直樹さん

── 今、関心を持って取り組まれていることは何ですか。

 

東田さん:
…とても気になっているのは、ウクライナの戦争です。とても心が痛くてたまりません。早く平和な世の中になることを願っています。

 

── 4月2日は世界自閉症啓発デーです。自閉症について、どんなふうにみんなに知って欲しいと思いますか。

 

東田さん:
普通の人たちから見ると、自閉症の人たちは少し変わった人たちに感じるかもしれません。それは、僕たちのものの見方や考え方を知らないからです。なぜそんなことをするのかという理由さえわかれば、もっと仲良くなれると思います。

 

── だから、本をたくさん書いているんですね。

 

東田さん:
はい。

子供の頃の東田さん

 

── 「ものの見方や考え方」について伝えたいことはありますか。

 

東田さん:
まわりの人を困らせてばかりだと思われているかもしれません。が、実は、本人がいちばん困っています。どうか僕たちに力を貸してください。

優しい眼差しでも視線は負担になる

── 視線が気になるとよく書かれています。オンラインのやりとりが増えた今は、過ごしやすくなっていますか。

 

東田さん:
僕を見る眼差しがどうかということでは、どちらも同じです。

 

── そもそもどうして見られるのは嫌なんですか。

 

東田さん:
視線にその人の感情が入っているので、僕のことを嫌いだと思っている人の目は怖く感じます。

 

── 好きだと思っている人の視線は嫌じゃないんですね。

 

東田さん:
人の目は心をうつしすぎてしまい、優しい眼差しでも、僕の負担になることがあります。

青年期の東田さん

── 著書で「今つらくても小さい頃幸せだったなら、必ずあの時のように誰かが自分を助けてくれると、人は人を信じられるようになるでしょう」と書かれています。子ども達に対して思うところはありますか。

 

東田さん:
このまま大人になるとしても、子どものころに人を信じられる体験を積むことが重要だと思っています。子どもを助けてあげられるのは、大人の役割です。子どもが笑顔で暮らせる社会を作りたいです。

幸せは自分の心が決めるもの

── さらにこれまでの本の中で「僕の個性の一つが自閉症」ともおっしゃっています。「普通の人のように自分で何でもできれば、今よりもずっと、僕は生きやすい人生を送れるとは思います。しかし、今以上に幸せになれるかどうかはわかりません」とも。現在も同じように幸せを感じられていますか。

 

東田さん:

僕は幸せです!幸せは、自分の心が決めるものです。いくら人より優れていても、豊かでも、それに気づかなければ、どうしようもないのです。幸せに気づけなければ、何も持っていないのと同じではないのでしょうか。

執筆する東田直樹さん
執筆する東田さん

── 自閉症の方の特徴に数字や自然へのこだわりもありますよね。「友達に会うみたいに、とても居心地のよいことなのです」と著書にもあります。数字や自然に惹かれるお気持ちを伺えますか。

 

東田さん:
数字は僕の友達です。聞いていなくても、例えば、3は3であって、他の何者でもありません。そんな明確さがいいのです。いつも僕を励ましてくれるのは、変わらない数字とその存在です。自然は心を癒してくれます。

 

命は次々と生まれ変わります。一時も同じ姿ではありません。それを見ているだけで、僕も地球の一員であることを実感できます。

 

── 自閉症の方の特徴として、奇声をあげられるケースも言われます。その時のお気持ちについて「どうすれば声を出さずにいられるのか、その方法がわからないからです」「奇声をあげている時の心の中は、恥ずかしくて、情けなくて、悲しい気持ちでいっぱいなのです。人から冷たい視線を浴びせられるたび、この世から消えてしまいたくなるくらいです」とこれまで書かれています。そんな時、周りの人にはどうして欲しいですか。

 

東田さん:
自分の状況によると思います。無視して欲しいと思う時もあれば、大丈夫だと言って欲しい時もあります。

 

東田直樹さんの描いたえ
かつて描いた東田さんの魚の絵

障がい者だからといって気を使い過ぎないで

── 「障がい者と一緒の時は、自然体でいてほしい」ともこれまで書かれています。特別な配慮は求めないのでしょうか。「いちばん嫌なのが、わからないからといって、見た目の行動だけで気持ちまで決めつけられることです」とあります。たずねて欲しい気持ちは強いですか。

 

東田さん:
たずねてほしいわけではなく、障がい者だからと言って、必要以上に気をつかわれるのは、お互いにとってあまり良いことだと思いません。

 

気持ちを決めつけられるのは、普通の人も嫌だと思います。お互いに相手の立場や存在していることを認め合いながら、大切に思い合えるといいなと、考えています。

取材・文/天野佳代子 写真提供/東田美紀さん