はじめて自転車の練習をするとき、いきなりこいで走り出せる子はめったにいませんよね。

 

ほとんどの子は、まずは補助輪つきで走り、次は補助輪を外したりペダルを外して足で蹴って進んだり、大人が後ろを支えて走ったり…最後にやっと、自分1人でこげるようになるのではないでしょうか。

このように、いきなり大きなゴールを目指さず、少しずつ物事を進めていくやり方のことを「スモールステップ」といいます。

 

スポーツや人材教育にもよく使われる手法ですが、子育てにおいてもとても有効だとか。

 

そこで今回は、育児の場面でのスモールステップの取り入れ方を紹介。うまくいった例を先輩ママ・パパから聞かせてもらいました。

スモールステップを取り入れる時のポイントは

スモールステップは、米国の心理学者で行動分析学の創始者として知られるバラス・F・スキナー博士が提唱した「プログラム学習」の理論にも登場します。

学習者は、複雑な行動を修得するにあたり、慎重に設計された、多くの場合はかなり長い一連のステップを積み重ねる必要がある。それぞれのステップは誰もが理解できるくらい小さく、かつゴールに少しずつ近づくものでなければならない。

この考え方は、企業の研修や社員教育の場面でもよく取り入れられています。

 

「家庭も1つの会社のようなもの」とよく言われますが、たしかに育児も会社と同様に、「離乳食」「卒乳」「予防接種」「保活」など、たくさんのプロジェクトを次々に進めていく必要がありますよね。

 

なかでも「トイレトレーニング」などは、短期間で終わる子もいますが、通常は数週間から数ヶ月、ときにはいったんお休みして翌年に再開という子もいる長丁場のプロジェクトです。

 

なにかを身につける時、スモールステップの手順は次のようになります。

 

1.ゴールをはっきりさせる


2.ゴールに到達するまでにやるべきことを1つ1つあげる


3.一度に進めず、1つずつ順にクリアしていく

 

トイレトレーニングでいうなら、1.のゴールは「トイレに行きたくなったら自分でトイレまで行き、用を足して後始末をして出てくる」というもの。

 

2.は、「尿意や便意に気付く」から始まって、もれる前にトイレまで行く→ドアを開けて中に入る→(必要に応じて)スリッパをはく→照明をつける→ドアを閉める→ズボンやパンツをおろす→便座に座る→用を足す→お尻を拭く→パンツやズボンをはく→水を流す→手を洗う→スリッパを脱ぐ→照明を消す→トイレから出てドアを閉める…というとても多くの段階に分かれています。

 

大人にとっては上記の1つ1つは一瞬でできることばかりなので、子供にも続けてさせようと考えてしまいがちですが、少しガマンして、できるだけそれぞれの段階を意識して行うと効果的だといわれています。

 

たとえば、「今日はズボンとパンツを脱いで座れるようになったけど、手を洗うのを忘れて出ようとした」という場合。

 

おそらく「あっ、ほらほら手を洗ってないよ」と注意して終わってしまうのではないでしょうか。

 

でも、もしもスモールステップを意識していたなら、その前の段階ができたことに対し「今日はじょうずにパンツを脱いで座れたね!」という褒め言葉をかけてあげることができます。

 

そうすれば、子供は「一人で座れた!」とうれしい気持ちになり、達成感や自己肯定感も高まります。「次もがんばろう」と思うかもしれません。

 

こういった小さな喜びの積み重ねが1週間、1か月、1年と続いていけば、何も言わないのと比べて、子供の自信ややる気はずいぶんと違ったものになるのではないでしょうか。

スモールステップ育児体験談「時間割が1人でできた!」

続いて、実際に小学校3年生の男の子のママ・Rさんに、スモールステップを取り入れることで育児がうまくいった体験談を聞かせてもらいました。

 

「息子は3年生になっても時間割がなかなかできなくて。コロナで在宅勤務が多かった頃はできるだけ私も手伝っていたのですが、最近は定時出勤になり、なかなか見てあげることもできず、忘れ物が多くて困っていました」

 

「担任の先生に相談したら、一度にやろうとさせず、小さいことから少しずつやるといいですよ、と教えてもらいました」

 

そこでRさんは、まずランドセルの中身を出すのだけ毎日やろうとお子さんに伝えたそう。

 

「そしたら2日続けてできたので、おお!すごい!と思ってほめたんです。息子はいつもと違う私の言葉に、こんなことで?と思ったようですが(笑)」

 

担任の先生のアドバイスによると、すぐには次のステップに進まず、定着するまでその段階にとどまることも大切だそう。

 

「たしかに、それを聞いていなかったら、じゃあ次は○○ね!と次々やらせてしまうところでした」

 

息子さんが1週間連続でランドセルの中身を言われなくても出すことができたため、Rさんはとてもうれしくてたくさんほめたそうです。

 

さらにその後、連絡帳を台所のテーブルに置く、給食袋や水筒を流しへ持っていく、教科書を揃えるなどの作業が少しずつできるようになっていき、3か月ほどでほぼ1人で時間割ができるようになったとのこと。

 

「もし、1人で時間割を終えるという最終目的だけを見ていたら、途中の小さな段階が初めてできた時に一緒に喜んであげることもほめてあげることもできなかったと思います。逆に、なんでまだできないの?と思ってしまっていたかもしれません」

おわりに

何かを身につけたり、目標達成するとき、スモールステップに分けて進めるやり方は、習い事や学校の授業などでは当たり前のように行われています。

 

また会社で部下の教育を担当している人なら仕事でいつも行っているかもしれません。

 

でも育児となると、なぜか一気にゴールをめざしてしまうのではないでしょうか。

 

細かくステップに分けるのは、親子ともに進め方が分かりやすいだけでなく、子供をほめる機会が増えるというメリットも大きいので、ぜひ取り入れてみたいですね。

文/高谷みえこ
参考/書籍『The Technology of Teaching』(B. F. Skinner Foundation Reprint Series)