新型コロナウイルスの影響で外出する機会が減り、洋服を買う頻度が減ったと言われています。現在、アパレル業界はどのような方向に向かっているのでしょうか?経済アナリストの増井麻里子さんに聞きました。
主流は低価格、流行をタイムリーに
厳しい状態が続いていると言われるアパレル業界ですが、2021年の百貨店における衣料品売上げは2020年と比べると、+3.5%とわずかながら回復(全国百貨店 売上高速報 2021年
1月~2021年12月)。暖冬により出足は悪かったものの、10月以降の気温低下や外出機会の増加で盛り返しをみせました。
ここ数年のアパレル業界は、ユニクロやGUを運営する企業、ファーストリテイリングが群を抜いています。売上げが2兆円を超え、1社で日本の百貨店全体の衣料品の1兆1665億円を上回っているのです。
世界全体を見ても、アパレルの売り上げは
ZARAを運営するインディテックスが1位、H&Mを運営するへネス・アンド・マウリッツが2位、ファーストリテイリングが3位、GAPが4位と、カジュアル路線が上位を占めています。
これらは企画、製造、物流、販売までを自社で行うSPA(製造小売業)企業と呼ばれています。間に商社などの中間流通業者を挟まないため、コストを抑えることができ、商品が発注から納品までの時間(リードタイム)を短くすることが可能に。低価格ながらも、流行しているものをタイムリーに提供することができているため、人々の支持を得ているのです。
洋服にかけるお金の価値観が変化
そうはいっても、個人が洋服にかけるお金は、昔よりも大幅に減りました。1990年に比べて、現在は被服と履物にかけるお金が半分になったと言われています。
原因はいくつか考えられますが、まず給料が1990年代後半から大きく変わらず、収入が伸びない中、通信費、食費、住居費が家計を圧迫するようになりました。さらに、お金の使い道は多様に。洋服だけでなく、美容や健康にお金を使う人が増えたのです。家計調査によれば、2021年10~12月の二人以上世帯の1か月の平均の被服及び履物への支出は1万422円で、2000年の同期間の1万7351円と比べて大きく減っています。
そこに、低価格でも良質な洋服が増え、人々はそれを買うようになりました。
とはいえユニクロも最初から順調だったわけではありません。素材や品質の改良などを重ね、知名度を上げながら、有名ブランドや著名人とのコラボを実現。さらに購入者層を広げていったのです。
変化し続ける洋服の購入方法
アパレル業界を取り巻く環境は、今後も変わっていくことが予想されます。
まずECサイトの成長に注目です。経済産業省によれば、衣類・服飾雑貨等の2019年のEC化率は13.87%だったのですが、2020年には19.44%と大きく伸びました。物販系全体では6.76%から8.08%への増加にとどまっています。SNSの浸透により、自ら企画・製造した商品を、店舗を持たずに直接販売する「D to C」(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)も可能になりました。メーカーがSNSを使い、消費者と直接コミュニケーションを取ることで、広告費を抑制しています。
新型コロナウイルスの影響で大人数が集まることがはばかられ、結婚式などのお祝い事の開催が減ってしまいました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が収束すればこのようなイベントも増え、フォーマルな洋服の需要も高まると思います。
老舗ブランドは、原料生産の「川上」、商品生産・卸売りの「川中」、流通・小売りの「川下」に分かれてるため、リードタイムの長さやコスト高によって競争力を失っていきました。そしてついに2020年、レナウンが倒産します。総合アパレル大手も構造改革を余儀なくされました。選択と集中を進めているため、規模は縮小していますが、「D to C」を含むECへの取り組みが成果をもたらしつつあります。
最近ではセレブカジュアルや、アスレチック (運動競技)とレジャーのスポーティーな感覚を取り入れたアスレジャーなど、ラフにおしゃれをするスタイルがトレンドになっています。この流れは継続しそうですが、老舗ブランドがそこに入り込めば、既存顧客を失うリスクが高まるかもしれません。ファストファッションのビジネスモデルや仕組みだけを真似るのが無難なのではないでしょうか。 今後、中価格帯以上のものが、ネットで消費者の目に入りやすくなれば、そのまま買ったり、実物を店舗に見に行ったりする人がますます増えていくでしょう。
PROFILE 増井麻里子さん
取材・文/酒井明子