会議では発言せず、テレワーク中でコミュニケーションもとれない。若手の意見は吸い上げられないし、会社を辞めないかなと心配になる。そんな場面で、どうやって彼らの意見を引き出すか?(株)人材研究所代表の曽和利光さんに、具体的な方法を聞きました。
若手は発言しないが“意見”は持っている
—— 会議は参加者の発言がないと成り立たない場だと思います。みずから手を挙げて発言しない部下への対処法はありますか?
曽和さん:
組織や一緒に働く仲間に対して、恩義を感じていない傾向にあるのが今の若手です。そんな場に対するコミットメントが低いなかで、どうやってその部下から意見を引き出すか。
例えば「誰か、意見ある人はいる?」と聞いても、かなりコミットメントがある人しか手を挙げないわけですよね。
そこで上司が、「なぜ意見を言わない?」と苛立ちをぶつけても、何の意味もありません。それどころか敬遠されるだけです。
そんなときは、「相手が思っていることを引き出すテクニック」を使います。
そこで、議題について上司が話したら、各自に5分間与えて、付箋などの紙に意見を書いてもらう。その後、「順番に言っていきましょう」と当てていけば、けっこう若手は意見を言うんですよね。
彼らは率先して場をリードして、矢面に立たされて、何らかの非難をされることを懸念しています。そんな目に遭いたくないと思っている。
「コミットしていない場で、そんな役割を引き受けるいわれはない」感じなんですよね。だから発言しないだけで、本当は意見を持っているはずです。
—— 順番に当てていくスタイルなら、部下も意見を言いやすいですね。日々の“報連相”のシーンでも、意見を引き出す方法はありますか?
曽和さん:
報連相の場合、よくある「最近、どう?」という聞き方だと、だめだと思うんですよね。
上司が「私が1年目のときは、こういうことがあって会社に対してこういうネガティブな思いを持っていたけれども、あなたはどう?そんなことはない?」という形で、ある程度推測できるような聞き方をしてみる。
上司自身の話を呼び水にすれば、部下は「そんなことを思っていたんですか?私も実は…」と、心の内を打ち明けてくれる可能性は高くなります。
部下が意見を持っていない前提で、考える必要はありません。持っているであろう意見をいかに「言いやすく」してあげるか、上司がやるべき工夫はそこに尽きます。
部下との距離を縮められるトークの中身
—— リモートワークが定着する会社だと、チャットツールで何でも済ませる若手も増えているという声も。それだと彼らの意見を引き出しづらい印象もありますが…。
曽和さん:
そうですね。でも、根本はちゃんと話すしかないと思います。電話は部下から嫌がられますが、手段としてはアリだと思います。
嫌がるのを覚悟で、しつこく心開くまで上司がアクションを起こすということです。
電話が嫌なのは、あまり心が通っていない人と話すのが嫌なだけであって、今の時代に合わせてZoomなどのオンラインツールでもいいんです。
時間をわざわざ取って話すことに意味があります。
だからある意味、いま「1on1」が流行っているのはいい傾向です。部下と1対1で、業務上の報連相以外の話をしてみてください。
お互いが話しやすいテーマは「キャリア」です。
今の仕事は自分が目指す方向性に合っているか、そこから楽しみを得ているか、などといったことを切り口に、話を広げていくのがいいでしょう。
キャリアの話は、「公私を分ける」という意味ではギリギリのラインだと思います。
いきなり「彼氏、彼女とどう?」という質問は完全にアウトですが、キャリアについて話していくなかで、結婚の話が本人から出るのはよくあること。
あくまでお題はキャリアです。そのうえで話を進めていくと、部下の本当に思っていることを引き出しやすいです。
「プライベートに浸食してくる」などと言われずに、徐々に相手を知るということにもつながっていきます。
「会社や上司が自分のキャリア開発のサポートをしてくれる=組織コミットメントが高まる」といわれていますので、上司・部下の双方にとって、ちょうどいいきっかけになるのではないでしょうか。
PROFILE 曽和利光さん
大学卒業後、リクルートなどで採用や人事の責任者を務めた後、人事コンサルティング会社を設立。組織に向けて、人事や採用のコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行う。最新刊は『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。
取材・文/高田愛子