中学生のトニーニョくんと3人で暮らす、漫画家の小栗左多里さんとジャーナリストの夫・トニーさん。
夫婦で子育てをしていくなかで「異文化で育った者同士はどうやったら折り合えるのか?」と試行錯誤した経験から感じたことや自分の幼少期の体験を、それぞれに語ります。
今回は「給食」について。ベルリン時代にトニーニョくんが通っていた小学校の給食は、日本では考えられない内容だったようです。
息子の「マイベスト給食」は意外なメニュー
「学校の給食で一番好きだったものは何?」と息子に聞いてみた。
答えは「ミルクライス」。えええ!?意外。ミルクライスとはご飯をミルクで甘く煮たお粥である。でも続けて「まあ本当は『グリースブライ』だけど」と言い直した。「グリースブライ」とはミルクライスのお米を、小麦粉(パスタに使うセモリナ粉)に換えたもの。上にベリーなどのソースをかけた見た目も、味も似ている。どちらにしろ日本だとデザート感覚のものだけど、それがたまにメインとして出されていたのだ。
普段はパスタやご飯にお肉や野菜入りのソースがかけられていることが多かった。給食は学年ごとに時間差で食堂へ行き、カードで精算する。カードリーダーにかざすとピッと音がして、その分だけ引き落とされる。メニューはA=お肉入り、B=お肉なしの二種類で、単にお肉を抜いているだけでなく、違う料理のときも多かった。実物の見本が置いてあって、買うときに見て選べる。
一食400円前後を払えば来校者も食べることができたので、ランチタイムの終わり頃には、迎えがてら私とトニーも何回か食べたことがある。特に美味しくはないけど、そうまずくもなかった。ドイツではレストランでも外すことがけっこうあるので、期待値が下がっていた可能性も大いにあるけれど。
しかし茹でたじゃがいもにハーブ入りサワークリームソースがけとか、チキンナゲット数個のみの日もあれば、たまにとはいえ、ミルク粥のほかにもチェリーソースのクレープや、アップルソースがけのパンケーキの日もあったようだ。野菜スープやにんじんスティックが添えてあったりするけれど、食べる子は少なかった。
先生たちは「野菜を食べろ」「残さず食べろ」とはほとんど言わない。家から持っていくスナック(午前中に食べるおやつ)は「野菜やフルーツにしましょう」という呼びかけがあり、健康的なスナックコンテストもクラス単位で開かれていたけれど、なぜか給食ではそういう指導はされていなかった。
栄養面はそこそこでも…給食は大切な思い出のひとつ
ここまで読んで「そんなんで大丈夫か?」と皆さんお思いではないか。同感です。私はもうランチの栄養は計算に入れていなかった。
そう思っていた親や先生も多かったのか、ある年、給食業者のコンペをすることになった。既存の業者と、新しい候補の2社に食材や予算の計画書を出してもらったうえで、試食会を開くことに。生徒会と親と学校、それぞれの代表が参加して試食し、検討した結果、業者は交代することになった。
大きく変わったのはサラダバーの登場で、いろんな野菜にクルトンなどのトッピングやドレッシングも何種類かあって、好きなだけ取れる。これも無理に食べさせたわけではないだろうけど、前より栄養の助けになっていたはず。息子はお気に入りの「グリースブライ」が食べられなくなったものの、「料理の味も見た目もよくなってたよ」。給食が一新されてからは食べる機会がなかったのが残念だ。
そうだ、「グリースブライ」を今度作ってみよう。私はミルクライスしか食べたことがないけど、トニーニョにとって大切な思い出のひとつだろう。上手に作れなかったとしても、誰か友達の顔を思い出すかもしれない。
文・イラスト/小栗左多里