年少さんクラス、3、4歳ごろになると、「お友達にぶたれた」「お友達を子供がぶってしまう」との悩みの声も聞こえてきます。こんな時、親はどうしたらいいのでしょう。臨床心理士で長年、子どもの発達相談に乗ってきた帆足暁子先生に聞いてみました。

親の介入よりも子どもの力をどう伸ばすか

── 先生、子どもがお友達にぶたれたとき、親としてはどんな対策をとればいいのでしょうか。

 

帆足先生:

痛みは嫌ですよね。でもね。子どもがぶたれると、親がまず守ろうとするところからスタートしてしまうけれど、そこはちょっと気になります。

 

子どもが自分の力でなんとかしようというより、親がなんとかしてしまう。すると、困ったことがあれば、大人がなんとかしてくれるという依存心が高まってしまうのではないでしょうか。

 

親が子どもを守ろうとするのは本能ですし、当たり前です。けれど、もっと長い目で見たときに、子どもにとって何が良いのだろうか、どうしたら子どもの力を伸ばせるのか、ということを考えて欲しいと思います。

自分で問題に対処するだけが自立ではない

── 子ども同士の些細な問題であれば、親が慌てて何とかしようとしてあげなくていいんですね。

 

帆足先生:

子どもが困ったときは実はチャンスでもあるのです。この子が大人になったとき、自立していくことが大切ですよね。

 

3、4歳の頃は子どもが自立した姿がイメージしにくいですが、親が子どもを守る役割をいつぐらいまで続けるかというと、2歳ぐらいまでなんです。3歳からはどうやって自分で自分を守っていくか、子供自身が思考過程を作っていくことが大切です。

 

── では親は何をしたらいいでしょう。

 

帆足先生:

まず、子どもに自分で相手に「嫌」って言ってごらん、ということですよね。それはいいことです。

 

それでもだめな時は、次は「先生に言ってごらん」と勧める。

 

自分で対処仕切れないものは、他の人に頼る思考も育てていきたいですよね。

 

自立とは、自分でできることは自分ですること、自分でできないことは他人に聞けることですから。

 

何でも自分でやることが自立ではありません。人を頼って、自分を守ろうとするのも重要です。

 

さて、本来はそこで先生が介入してぶたれることが止まるといいけれど、止まらないケースもありますよね。

 

それはあまりいい体験ではないけれど、そのときどうするか考えないといけません。

 

── そんな状況になったらどうしたら良いでしょうか。

 

帆足先生:

子どもにまず「どうしたいか」と聞いてみましょう。ぶたれたくないのか、ぶたれてもそんなに痛くはないからもういいやと思っているのか。気持ちを聞きましょう。

 

「先生の近くにいたらぶたれないかもしれない」とか、「友達と遊んでいたら相手がぶってこない」とか、「そのぶつ子と遊んでいたらぶたれない」とか、どんなシチュエーションならぶたれて、どんな時はぶたれてないか分析してみましょう。

なぜ相手はぶってくるかを探る

── 先生の目が届きにくいときにぶたれることが多いと聞きます。

 

帆足先生:

なぜ、ぶってくるかを探る、相手を知るということは重要です。相手をぶってくる場合、好きだからぶってしまう、言葉が達者ではない子は先に手が出てしまう、などがあります。その場合、「あのね、私は頭を撫でてくれた方が嬉しいの」とか「好きって言ってくれた方が私は嬉しいの」と子ども本人が相手に言うことが効果的かもしれませんね。

 

── そうなんですね。

 

帆足先生:

大人とは違って、言葉にできず、好きでぶってくる可能性、遊んで欲しくてぶってくる可能性は4歳ごろはよくあります。「遊びたくても、遊ぼって言えなかったら、手を握ってくれたらいいよ」とか相手に伝えるといいですね。

 

なぜぶってくるかに対して、「こうしてくれたら嬉しいよ」と伝えると変わります。ぶつ子の目的は自分の気持ちを伝えたいわけなので。

 

一方で、好意ではなく悪気があってぶつケースもあります。相手が先生に褒められていることが多くて妬んでいるとか、自分はママに甘えられないのに相手の子は親に甘えているとか、自分より絵が上手くて悔しいとか、自分より優位に立っている子をぶつケースもあります。

 

それは、やめさせるのは難しいですね。 その子自身を認めることが大事ですが、子ども同士よりも、保育園の先生がそのぶつ子を認めてあげることが大事です。

 

先生が「なんでぶつの」と聞いて、「相手の方が縄跳びがうまいから」とか聞き出せたら、練習をしてあげて解決するとか、対処できるといいですね。

 

── 保育園ではいじめとかはまだ起きないですよね。

 

帆足先生:

集団のいじめではないけれど、自分のイライラを人にぶつけるのは、保育園でもあります。

 

「遊ぼう」と聞かれて、特定の子だけに「だめ」というケースもあります。

 

先生がよく観察していて、「今のおかしくない?」と整理してあげるといじめには発展しないですよね。

 

イライラしたときなどのマイナスの感情は自分で処理できないと、人にぶつけてしまうんです。今はコロナ禍で家庭で過ごす時間が増えて、DVも増えていると言われています。

 

親に八つ当たりされた子は、保育園で親がしたことと同様に、他の子にイライラをぶつけてしまうことがあります。それを先生が正しく見てキャッチし、ぶつのではなく、言葉で伝えようね、など正しいやり方を伝えられるといいですね。

 

どこにいても嫌な人はいます。その時、自分がストレスの対処法を見つけられると、自分を嫌にならずにすみます。

 

ぶって笑っている子も、本心から楽しんでいるわけではないですから。「何でぶったの」と丁寧に理由を聞いていくことが大事ですね。

 

ぶつ子の親も悩んでいるケースが多くあります。同じように、なぜぶってしまうのか子供にじっくり聞くことが大切ですね。

 

── 何でぶったの、と責めてはいけないんですね。

 

帆足先生:

非難されたと思うと、心を閉じて語らなくなってしまいます。大人は責任がどっちにあるとか責める形の解決が多いですよね。でもどんなに乱暴な子も、その子なりの理由があるので、理由を聞くとぶつ子の気持ちが納得できます。大切なのは、その気持ちにあった方法に転換できることです。

保育園に連絡する時は子どもの了解を得てから

── 連絡帳などで保育園にぶたれていることを相談するのは出過ぎた行動でしょうか?

 

帆足先生:

事実を伝えるのはいいと思いますよ。ただ、親は親の気持ちがあり、子どもには子どもの気持ちがあります。保育園に伝えて、先生がぶっている子を注意して、そのあとの結果を受けるのは子どもです。子どもに「先生に言ってもいい?」と聞いて、了解を得てから伝えるようにしましょう。

 

また、親が不安のあまり、仮定の話を書き始めるとモンスターペアレントになってしまいかねません。具体的にいつ、どこで、と書いてあげるといいですね。

 

── 子どもからの話を聞くと、不安が掻き立てられることがあるなら、今日あった出来事などはあまり聞かない方がいいのでしょうか。

 

帆足先生:

「今日は何かあった?」などは聞いてあげてもいいですね。ただ様子を見ていて、お腹が痛い、ご飯をあまり食べない、などの様子がないか注意してあげましょう。

 

ストレスが高いと体に影響が出てくるので。 食べられない時などは、休ませるのも一手です。4歳以上になると、「どうする?」と聞いて、自分で決められるようにするのも大切です。

 

親から「休んだら?」と言って休ませると、また困った時に休むことに依存するようになってしまいます。「どうしたいか、自分で決めてごらん」と言って休むかどうか決めさせることで、自分の人生の責任を自分で持って決めていくことを教えていく機会にできるかと思います。

 

または、月1回は休む日を親と子供で話し合って決めて、そこまで頑張ろうとするのもいいですね。

 

PROFILE 帆足暁子さん

帆足先生
保育士資格や幼稚園教諭1種免許を持つ臨床心理士。親と子どもの臨床支援センター代表理事。長年、育児やこころの相談に応じている。主な著書に『0.1.2.歳児愛着関係をはぐくむ保育』(学研)などがある。

取材・文/天野佳代子 イラスト/石川さえ子