「あれ、何調べようと思っていたんだっけ?」。ひとつの情報を調べたかっただけなのに、気づけば驚くほど時間が経っている。手軽に検索できるようになった反面、必要な情報にたどりつきにくくなったと“思考の整理家”鈴木進介さんは言います。不要な情報「ノイズ」に振り回されない方法とは?
1日の情報量は平安時代の一生分!?
気になることはすぐネットで検索、スキマ時間にはネットサーフィンやSNS利用 ——。私たちは毎日さまざまな情報に触れています。
ネット上でよく言われるひとつに、「私たち現代人が1日に受け取る情報量は、平安時代の一生分、江戸時代の1年分である」というのがあります。
出所はハッキリしておらず、あくまで都市伝説レベルですが、現代の情報社会がいかに目まぐるしいのかがイメージできるのではないでしょうか。
特に、スマホによって“常時ネット接続”状態になり、大量の情報を瞬時にインプットすることが可能になりました。
しかし、それは便利な一方でリスクも。情報が集まりすぎて、本当に使える情報を見つけられないことです。
同じような情報ばかりで欲しい情報が出てこない、もしくは、何が有益な情報かを判断できずに、情報収集が止まらなくなってしまうのです。
“とりあえず検索”では何も見つからない
印象的だったクライアントの話があります。Aさんは、シニア層向けの市場開拓の新たな切り口を求め、意気揚々と情報収集に着手しました。
しかし、しばらくしてから「たくさん情報は出てくるものの、どこまで手を広げて集めればよいのかわかりません」と言うのです。
詳しく聞いてみると、「シニア、ビジネス」や「シニア向け、新規事業」といった漠然としたキーワードで検索していて、結果的に集まったのは、浅く膨大な情報だけ。
もちろんこの検索方法で有益な情報がヒットするかもしれません。ただ、多くの人が同じ情報にアクセスしているはずですから、独自性のある仕事へつなげることは難しいでしょう。
有益な情報にたどりつくには、自分にとってどんなことが有益かを先に定義する必要があります。つまり、検索する前に“仮説”を立てて、検索の方向性を決めるべきなのです。
例えば、「シニア層が増える社会ではどんな状況が想定されるか?」という問いに対しては、次のような思考の流れで仮説が立てられます。
高齢になれば足腰が悪くなる可能性がある→買い物に行けない人も増えてくる→宅配の比率が高まる→シニアのスマホ所有率も高まる背景を考えると、ネット通販の需要が高まる。
このように仮説を立てれば、検索の方向性を「シニア向けのスマホを使った通販ビジネス」に絞ることができるでしょう。
「シニアの買い物の実態」や「ネット通販企業の動向」など、調べる範囲も具体化でき、大量の情報に翻弄されることもなくなるはずです。
“とりあえず”で検索を始めても、多くは価値のないノイズばかり。
仮説もなく検索するなんて、料理のメニューも決めずにスーパーへ行って、セール品や好きな食材を、次々と買い込んでしまうのと同じことです。
情報を集めすぎない人ほどリサーチ上手
情報のノイズに振り回されないためには、情報を「量」重視から「質」重視へと変えていくのが賢明です。
「努力するほど成果が出る」と教育を受けてきた私たちは、情報も大量に収集しようという固定観念が強すぎるのかもしれません。
新たな情報を得ると知的好奇心がくすぐられ、なんだか自分が賢くなったような快感を覚えたり、もっと詳しく知りたい欲望が生まれます。
また、集めた分だけ安心感が増して、“情報を得る”行為そのものに充実感を感じてしまいがちです。
しかし、それは自分の不安を解消することにしか役立っておらず、本来の目的達成には無意味な場合がほとんどです。
質の良い情報をつかむには、情報の使用目的をしっかり決めて、目的から脱線しない意識をもちましょう。先ほどのように仮説を立ててキーワードを絞って検索したり、不要な情報はバッサリ切る。
目的に合った情報かを判断するだけなら簡単で、時間もかかりません。そうすれば必要な情報にフォーカスして、より深く調べる時間も生まれます。
すべての情報が価値を持つわけではなく、大切な情報は少ないものです。「もっと」という衝動を抑えて、「本当に重要な厳選した情報にフォーカスできるか」が、私たちには問われているのです。
PROFILE 鈴木進介さん
監修/鈴木進介 取材・文/大浦綾子