15年間、絵本の読み聞かせ活動を続けている「聞かせ屋。けいたろう」さん。イベントや講演会の際に、絵本の選書や読み聞かせのポイントについて質問を受けることも多いそう。今回は、けいたろうさんに「親子で絵本を楽しむためのポイント」について教えてもらいました。

何度も繰り返し読むことで育まれる「懐かしい」という気持ち

── けいたろうさんは、プライベートでも絵本をよく読まれるんですか?

 

けいたろうさん:

自分ひとりで読むことは、ほぼないんです。娘を相手にしているか、イベントや講座で大人数を相手にしているときがほとんど。絵本は、ひとりで読書として読む人も多いですし、コレクションする人もいます。いろんな楽しみ方がありますが、僕の場合はやっぱり「読み聞かせ」。誰かと一緒に絵本を共有することが好きだし、楽しいんですよね。

 

── 講演会では、親御さんから読み聞かせについて質問を受けることも多いそうですね。

 

けいたろうさん:

「いつも『同じ本読んで』と子どもからねだられる。他の本を勧めた方がいいですか?」という質問を寄せられることがあります。この場合、僕は「何回でも読んであげてください」と答えます。

 

僕の読み聞かせ活動の最初のお客さんになってくれた女子高校生も、「昔読んでもらったことがある。今読んでほしい」と、絵本を前にして懐かしい気持ちになってくれた瞬間がありました。

 

そういう「懐かしい」気持ちは、幼少期にお気に入りの絵本を何度も読んでもらったからこそ、育まれるんだと思います。そう考えたら、同じ本を繰り返し読むのも悪くないと思いませんか?

「学び」を期待せず、年齢に見合った絵本を選んでほしい

── 「いろんな世界を知ってほしい」「いろんな作品に触れてほしい」という親目線の気持ちが先走ってしまうのもわかる気がします。気をつけたいですね。

 

けいたろうさん:

「ひらがなを覚えてほしい」「動物の名前を知ってほしい」という親の希望で絵本を選んでしまう人も少なくありません。僕も二人の娘の父親なので、その気持ちはわかります。でも、絵本を読むことで、「何かを学んでもらいたい」という押しつけにならないようにしてほしいです。

 

どんな絵本を好きになるのも自由、その絵本を読んで何を感じるかも自由なんです。たくさん読んでもらった中で、たまたま身につくことがあるかもしれない。そういう意味で、「絵本で知った、学んだ」ということがあってもいいと思いますが、それを目的として置かない方がいいかなと思います。

 

── 最近ではYoutubeなどで、さまざまな読み聞かせ動画が配信されていますよね。

 

けいたろう:

気をつけたいのは、動画を子どもに見せることで「読み聞かせしている」「絵本を読ませている」と捉えないでほしいということ。画面を通して見るのと、目の前で読むのとでは全然違います。人と人との触れ合いもないですし、機材を通してしまうと、絵の本来の魅力も伝わりづらく、声の響きの心地よさも半減してしまうように感じます。

 

動画での読み聞かせは「絵本を知るため」のきっかけとして活用して、その動画を見た後で、お子さんと一緒に図書館や本屋さんに出かけて絵本を選ぶなど、リアルな触れ合いに繋げてもらえたらと思います。また、読み聞かせ動画の中には、権利者に無許可で配信しているものもあるため注意が必要です。違法な動画を視聴しないよう、気をつけてください。

 

── 親子で読み聞かせをする時に意識するポイントはありますか?

 

けいたろうさん:

僕が読み聞かせに選ぶ絵本は、「シンプルな展開、長すぎないストーリー、絵と文字のバランス」を重視しています。ただ、これはイベントなどで、たくさんの人数に向けて読み聞かせすることが前提です。

 

ご家庭でお子さんと読むなら、親御さんも、「楽しいな、面白いな」と思える絵本選びを大切にしてほしいです。自分が楽しいと思って読むのと、無機質に読むのとでは声の響きも読み方もまったく違います。それは受け取り手にも伝わります。ぜひ、自分が好きな絵本を読んでほしいと思います。

 

それから気をつけたいのが「年齢に見合った絵本」であること。お子さんの対象年齢に合っていない、背伸びした絵本を読み聞かせしている家庭も結構多いんです。「このくらいの年齢になったら、この文字量は読めるようになった方がいいのでは」などと親目線で捉えないで。

 

例えば、01歳向けならにオススメするなら『いろいろばあ(えほんの杜)』。色を使った「いないいないばぁ」遊びが楽しめる絵本です。「ばぁ!」「ぶにゅ!」「ぱっ!」と、乳児が大好きな音と色がたまりません。また、乳児にはやぶれにくい厚紙でできた絵本(ボードブック)もオススメです。

 

『いろいろばあ』作/新井洋行 発行/えほんの杜

 

3歳くらいになると、文字量の多い絵本や、ストーリーが長い絵本を選ぶ親御さんも多いのですが、まだ「読む」ことに集中させるよりも、短くテンポよく読めるものがおすすめ。繰り返しの展開で楽しめる絵本など、ワクワク感が楽しめる本がお子さんにもフィットするのではないでしょうか。『うしろにいるのだあれ?(幻冬舎)』もシンプルな繰り返しの展開が、子どもの心を惹きつけ続けます。

 

『うしろにいるのだあれ?』作/accototo ふくだとしお+あきこ 発行/幻冬舎

 

45歳なら『ぼくひこうき(ゴブリン書房)』。主人公の男の子が作った紙飛行機がどこまでも飛ぶ紙飛行機の行方に、夢中になれる一冊です。
『ぼくひこうき』作/ひがしちから 発行/ゴブリン書房

 

洋服のサイズが変わっていくように、その年齢ごとに、ぴったり合う絵本を選んであげてくださいね。

 

 

「子どもにこういう作品を見せたい」「こうなってほしい」という親目線での絵本選びけいたろうさんの話を聞きながら、ギクリとした瞬間が多々ありました。どんな絵本を好きになるのも、何を感じ取るのも自由。改めて、絵本の楽しみ方を教えてもらった気がしました。

 

PROFILE 聞かせ屋。けいたろうさん

1982年8月24日生まれ。二児の父。ミュージシャンを目指したフリーター生活を経て、22歳で保育者を目指して宝仙学園短期大学(現・こども教育宝仙大学)に入学。在学中に初めての読み聞かせ活動をスタートさせる。その後、公立保育園の正規職員に繰上げ合格するが「聞かせ屋の道」を進むことを決意。現在は、読み聞かせのイベントや講座以外にも、絵本の文章や翻訳も手がける。作品に『どうぶつしんちょうそくてい』『たっちだいすき』(ともにアリス館)などがある。

取材・文/佐藤有香