木材の需給逼迫により、新築一戸建ての価格上昇や工期遅れが心配されています。どうして今、木材が不足しているのでしょうか?経済アナリストの増井麻里子さんに、考えられる理由を聞きました。

海外住宅需要の高まりが原因

現在、木材価格が高くなる、ウッドショックが世界的に起きています。主な原因は、アメリカの戸建て住宅を中心とした海外住宅の需要増加です。

 

日本でもそうですが、新型コロナウイルスの影響により、自宅で過ごす時間が増えました。それによりリフォームで部屋を快適にしたい、郊外に家を建てたいという人が特にアメリカやオーストラリアで多くなったのです。

 

20205月にアメリカでロックダウンが解除されると住宅注文が殺到し、木材需要が高まりました。また、新型コロナウイルスの影響で人材が不足し、サプライチェーンに混乱が生じて供給が減少したことも重なりました。日本の国産木材が上昇したのは、20213月からです。

 

2020年の日本の木材自給率は41.8%。2002年の18.8%を底として、上昇しています。2021年の木材輸入額は、前年比+30%の1.23兆円でした。相手先は、フィンランドやスウェーデンを中心とするEUに、中国、カナダ、ベトナムが続いています。丸太はアメリカから、製材はEUからが多くなっています。EUがアメリカ向けの輸出を増やしたため、輸入木材が高騰し、代替需要としての国産木材も値上がりしたという訳です。

スマート林業で国内自給率アップを目指す

 一方、2020年の木材輸出額は、前年比+3%の357億円にとどまっています。丸太が半分を占めており、その輸出先は中国、韓国、台湾向けが97%を占めています。ではなぜ日本は木材の多くを、輸入に頼っているのでしょうか?

 

原因の一つに、林業は体力が必要な仕事で、ときに危険を伴うことがある、という点が挙げられます。更衣室やシャワーなどの労働環境の整備もまだまだ遅れています。つまり、高齢化が進んでいるのです。

ウッドショック

しかし、日本の森林面積は国土の3分の2もあり、森林率はOECD加盟37ヵ国中、フィンランド、スウェーデンに次いで3位です。世界的に木材ビジネスに注目が集まる中、日本の林業のポテンシャルに期待が高まっています。国としては、林産物の輸出額を2025年までに718億円、2030年までに1,660億円にするという目標を掲げています。

 

そこで林野庁は、ドローンや高性能な林業機械を活用する「スマート林業」を推進しています。スマート林業が進めば安全性や生産性が高まり、林業従事者の給料アップにも繋がるため、林業の成長も期待できそうです。

金利上昇でウッドショックは一部沈静化へ

新型コロナ以前から、世界的な低金利で住宅需要が旺盛でした。しかし、まもなくアメリカの連邦準備理事会(FRB)による数回の利上げが始まる見込みです。住宅ローン金利はすでに上昇しており、住宅販売は横ばいとなるでしょう。

 

国産木材は、丸太が20218月、製材が10月をピークとして少し落ち着きました。ただし、輸入木材の一部の品目は高止まりしています。鉄や銅などの建材資材も高止まりしているため、国内の住宅価格が落ち着きを取り戻すには時間がかかりそうです。

 

PROFILE 増井麻里子さん

経済アナリスト増井麻里子

経済アナリスト/経営コンサルタント。証券会社で株式調査等に従事し、ヘッジファンドでのクオンツアナリストを経て、ムーディーズでは大手企業の信用力分析、国際協力銀行では国際経済調査を担当。独立後、経済に関する講演・執筆実績多数。

取材・文/酒井明子