海外のニュースなどで「10歳の天才少女が○○大学に合格!」といったニュースを見かけることがありませんか?

 

これはその国や自治体の「飛び級制度」によるものですが、それを見てふと「日本には飛び級ってないの?」と疑問に思った人もいるのではないでしょうか。

 

今回は、日本に飛び級制度はあるのか、海外と比べてどうなのか…など、現在の状況やメリット・デメリットについて解説します。

飛び級制度とは?日本では大学・大学院のみ

まずは、日本に飛び級制度はあるのか?という疑問について確認してみました。

 

結論からいうと、現在いわゆる「飛び入学」「早期卒業」という形で飛び級は存在します。

ただし日本ではその対象は大学と大学院に限られています。

 

皆さんの子供時代や学生時代を振り返ってみても、日本の小中高で、自分自身や周りの友だちが飛び級で上の学年に行ったり、18歳以下で大学に入学したり…という経験はおそらくないですよね。

 

日本では第二次世界大戦前には飛び級制度があったものの、戦後の学制改革により、長い間みんなが一律に進級する制度が取られていました。

 

1997年の法改正で、まずは数学と物理の分野のみ、その後2001年に全学部で大学・大学院の「飛び入学」が認められるようになりました。

「飛び入学」とは、特定の分野について特に優れた資質を有する学生が高等学校を卒業しなくても大学に、大学を卒業しなくても大学院に、それぞれ入学することができる制度です。 ー文部科学省ー

飛び入学の条件は、大学なら、高校に2年以上在学し志望先の大学が定める分野で特に優れた資質を有すること。大学院なら大学に3年以上在学し、大学院が定める単位を優秀な成績で修得することが必要です。

 

いまのところ日本では海外のように「成績の良い小学生が1年生からいっきに4年生に進級する」といったパターンはなく、あくまでも「大学/大学院に1年早く入学できる」「大学を1年早く卒業できる」という制度のみになります。

 

1年早く卒業する「早期卒業」は多くの大学で可能ですが、飛び入学できる大学はまだまだ少なく、2021年時点で以下の8大学のみです。

 

  • 千葉大学(国立)文学部・理学部・工学部・園芸学部
  • 名城大学(私立)理工学部
  • エリザベト音楽大学(私立) 音楽学部
  • 会津大学(公立)コンピュータ理工学部
  • 日本体育大学(私立)体育学部
  • 東京藝術大学(国立)音楽学部
  • 京都大学(国立)医学部
  • 桐朋学園大学(私立)音楽学部

 

理工系や音楽・体育などの学部が多いのが分かるでしょうか。

 

その分野で抜きん出た学生に向けたものが多く、入試も面接や独自の課題に取り組むなどユニークな内容です。

 

有名人では、女子スキージャンプの高梨沙羅選手(日本体育大学)などがこの制度を利用して入学しています。

飛び級制度(飛び入学)のメリット・デメリット

飛び級制度(飛び入学)にはどんなメリットがあるでしょうか?

 

分かりやすいメリットはやはり経済面。飛び級した分の学費が浮くだけでなく就職時期も早まるため、早く収入を得ることができますね。

 

医学部は大学院卒業後にインターン期間などもあり、本格的に収入を得始めるのが30歳前後ということも珍しくないので、高校や大学の1年短縮には大きな意味があるでしょう。

 

また、スポーツや音楽の分野でも、大学へ進みプロを目指す時期が早まればそれだけ活躍のチャンスが広がります。

 

学習理解が早い学生は、規定の進級を待たずに新しい学びがスタートできて充実した学習が期待できます。

 

一方、デメリットとしては、同級生と一緒に学生生活を送れないことや、時間のゆとりがなくなりがちな点が挙げられます。

 

また現在の制度では、大学に飛び入学すると高校中退扱いになるため、病気や経済的理由などでやむを得ず大学をやめてしまうと最終学歴が「中卒」になるのも要注意です。

アメリカのような小学校からの飛び級は実現する?

現在、日本で飛び級ができるのはあくまでも大学と大学院での話ですが、今後、アメリカや海外諸国のような小学校・中学校での飛び級制度は導入されるのでしょうか?

 

特定の分野の能力が年齢のわりに飛び抜けて高い子供たちは「ギフテッド」と呼ばれることがあります。

 

ギフテッドの子にとっては、学校の授業がかんたんすぎて苦痛に感じられたり、1人でどんどん回答・発言して浮いてしまうなどの事態も起きています。

 

そんな子にとって飛び級は救いですが、いっぽうで、学力だけに基づいて飛び級し過ぎると、体力や情緒面でかなり年上のクラスメイトと合わないという問題も起こります。

 

海外の現状をみてみると、そのあたりに配慮して科目を限った飛び級もあるようですが、学年丸ごとの飛び級も存在します。

 

さらにアメリカでは、飛び級の他にも学校に通わず家庭で学習を進める「ホームスクール」など選択肢が多いのが特徴です。

 

ただし、教育以外のあらゆる物事と同じく、自由なかわりに子供に必要な教育や体験を十分提供できているかは家庭(親)が責任を持たなくてはならないとのこと。

 

最近では日本でも多様性のある社会や教育を目指す動きが高まってはいるものの、やはり、何ごとも周囲に合わせた標準的なペースが安心という人が多数派ではないでしょうか。

 

その中で海外と同じような飛び級制度を導入しても、「同級生と離れたくない」「上級生にいじめられるかも」といった理由から、なかなか踏み切れない親子が多いのではないかと考えられます。

 

なお、現在日本で飛び級の代替的な役目を果たしているのは、私立小学校の独自カリキュラムや、公立小学校では少人数制授業など。

 

算数など成績に個人差が出やすい教科を中心に到達度ごとに分かれて授業を行い、その子に合った内容や教え方できめ細かくフォロー、最終的には全員が一定レベルまで理解できることを目指す…という方向が、今の日本では受け入れられやすいのかもしれません。

おわりに

今回は、日本での「飛び級」「飛び入学」について、現在は大学と大学院のみで実施されていることを解説しました。

 

小中高に関してはまだていねいな議論が必要で近々導入されるような動きはありませんが、この機会に一度、もし「うちの子が利用するなら…」とシミュレーションしてみてはいかがでしょうか。

 

なお、飛び入学制度を実施するかどうかは各大学が主体となって決定しているため、年度によって内容が変わることがあります。

 

実際に検討される際は、今回の記事も参考に、大学のホームページなどでよく確認してください。

文/高谷みえこ

参考/飛び入学について:文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111318.htm
令和3年度入試における飛び入学実施大学 https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111318/001/002.htm
児童生徒の発達の支援 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/senseiouen/mext_01512.html