東日本大震災では、最愛のペットとはぐれてしまったり、避難所に連れて行けずに置き去りにせざるを得なかったケースもたくさんありました。災害大国に住む私たちにとって、あらゆるケースを想定し、“もしもの場面”に備えておくことは不可欠です。ペットの命を守れるのは、飼い主だけ。多くの犠牲を生んだ震災の教訓を風化させないためにも、日頃からペットの災害対策について、自分ごととしてしっかりと考えておきたいものです。
動物愛護の活動を行う杉本彩さんに、震災後に被災地で見た動物たちの過酷な実情やペット連れで避難することの難しさ、さらに、飼い主が備えておくべきペット防災のアドバイスについて話を伺いました。
シェルターに収容されればマシ…見捨てられた動物たちの悲惨な最後
── 震災後、被災地の動物保護施設などを訪問されています。どんなことが印象に残っていますか?
杉本さん:
2011年6月に、支援物資を届けるために仙台の動物管理センターなど3か所の施設を訪れたのですが、どこも保護された動物たちであふれ返っていました。
家を失い、飼い主と離れ離れになったペットたちが、小さな檻の中で身を硬くしておびえた表情を浮かべていて。その姿が今でも目に焼きついています。いったいどれほど怖い思いをしたのだろう…胸が締めつけられるようでした。
さらに、自分たちも被災して大変な状況にもかかわらず、動物たちに心を寄せ、懸命に世話をする地元のボランティアの方々の献身的な姿にも感銘を受けました。
── 過酷な状況だったのですね。野生化してやせ細ったペットたちが街をさまよう姿をテレビで観て、ショックを受けたことを覚えています。
杉本さん:
シェルターに保護されたペットたちはまだ良いほうです。なかには、置き去りになって餓死してしまったり、鎖で繋がれたまま放置され、苦しんで死んでいった犬もいたそう。不安と空腹のなか、錯乱状態になって暴れたせいか、首にはリードが絡みついた形跡があったと聞きました。どんな思いで飼い主を待ち続けていたのか…考えるだけで心が痛みます。
一方で、「なぜペットたちに水や暖房を使うんだ?被災者より動物を大事にするのか!」などの批判の声もありました。私が訪問した仮設シェルターは、税金を使っているわけではなく、あくまでも人の善意で成り立っているものなので、本来そんな言い方をされる筋合いはないのですが…。
難しい「ペット連れ避難」の現状 進んでいる県は?
── もしも自分のペットがそんなことになったら…と思うと、胸が苦しくなります。なかには、“ペット連れで避難したけれど、避難所に入れなかった”という声も聞きました。
杉本さん:
鳴き声やアレルギー、動物が苦手な人もいるなどを理由に門前払いされてしまうケースも多く、ペットと一緒にいられないから避難をあきらめ、自宅に戻った人もいたようです。
そうした教訓から、2013年には、環境省が“被災動物の救護対策に関するガイドライン”で「災害発生時は原則として飼い主とペットは同行避難する」と明記。自治体に対して、避難所や仮設住宅へのペット受け入れの配慮を求めました。
私が代表理事を務める公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」でも、ペット防災や動物同行できる避難所の確保に向けて働きかけてきましたが、実際のところ、自治体による取り組みへの温度差を感じています。
例えば、新潟県は進んでいて、避難所内にテントを貼って飼い主と一緒に過ごせるようにしているんです。ペットも飼い主と一緒にいることで安心しますから、無駄吠えを防ぐ効果もあるでしょうね。
自分の自治体の「被災動物対策」を調べておく
── 一緒に過ごすことができれば、お互い安心できますね。
杉本さん:
そう思います。昨年、環境省はようやく、本格的にペットの同行避難の態勢整備に向けて動き始めました。事前の備えや災害後の対応など、自治体が実施すべき事項を確認できるチェックリストを公表していますのでぜひ確認してみてください。整備が進んでいないと感じたら声を上げていくことも大切です。
── 居住地の避難所の状況もきちんと確認しておきたいですね。
杉本さん:
最低限、ペットをきちんと受け入れてくれるのか、自治体に確認してみてください。ただ、現状を考えると公助に期待するのはかなり難しいので、自助力を高めることは必須。特別な事情がないかぎり、不妊・去勢手術をしておき、マイクロチップの装着をおすすめします。
── マイクロチップの存在は、あまり浸透していない気がします。皮膚にチップを埋め込むことに抵抗感を覚える飼い主も少なくないようです。
杉本さん:
マイクロチップを装着していないと、迷子になったときに見つける術をなくしてしまいます。誤解されている方も多いのですが、マイクロチップは動物にとってリスクは最小限と言われているので、迷っている方は専門家にも確認するなどして、ぜひ装着を前向きに検討してほしいと思います。
人間だけでなく「ペットの防災準備」にもっと知識を
── 災害時に愛するペットを守るため、日頃からどんな準備をしておくべきでしょうか?
杉本さん:
大切なのは、ペットの状態に合わせて、あらゆる場面を想定して備えておくことです。例えば、病気療養中のペットなら、食事の内容や薬の銘柄、量といった必要な情報をメモしておく。一時的にお世話してもらうときに役立ちます。
いざというときに助け合えるように、普段から飼い主同士のネットワークをつくっておく、動物ボランティア団体や保護施設などと繋がりをもっておくのも有効です。飼い主になにかあったときにペットを預かってもらったり、有益な情報共有にもつながるので、協力体制を整えておけるといいですね。
── 多くの犠牲を生んだ震災の教訓を風化させないためにも、飼い主としてできることに取り組んでおきたいですね。
杉本さん:
震災で見聞きした多くの悲劇を自分の痛みとして想像してみることが、とても大事だと思うんです。私自身、毎年3月11日が近づくと痛ましいあの経験を思い出します。震災後も福島の民間施設や行政の保護施設を訪ねるなど、いろんな形で交流を持ち続けてきました。
これからも風化させずに語り継ぎ、みんなができることに取り組んでいくことが必要だと思います。
<ペットの同行避難で準備しておきたいもの>
- 最低1週間のペットフード(いつも食べているもの)とお水
- 常備薬、療法食(病気療養中のペットには必須)
- 食器・水のみボウル
- トイレ用品
- 健康の記録(世話する人に情報を伝えやすい)
- 写真(迷子になったときに必要。飼い主とペットが一緒の写真だと飼い主を特定しやすい)
- 首輪、リード
- その他…タオル、おもちゃ、ガムテープ、新聞紙(いつも使っているもの)
PROFILE 杉本 彩さん
1968年京都市生まれ。女優・作家・ダンサーのほか、コスメブランド「リベラータ」などのプロデューサー、実業家としての顔ももつ。20代から動物愛護活動に取り組み、現在は2014年に設立した「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」の理事長を務める。
取材・文/西尾英子 画像提供/杉本彩