「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表・富永雄輔さんに教えていただきます。
今回は、偏差値至上主義について。「コロナ禍による情報不足・偏りが影響し、古い価値観から抜け出せない弊害」について考えます。
「有名校に合格が成功」に追い立てられる子どもたち
これまでの中学受験では、偏差値や大学進学実績をもとに志望校を選ぶ家庭が一般的でした。
これは「何のために受験するのか」「なぜ勉強するのか」「なぜこんなにお金をかけるのか」のゴールを、「小学6年生の2月」という手前に置きすぎていたと言い換えてもいいでしょう。
しかし、子育て、そして人生はマラソンです。中学合格をゴールにするのではなく、もっとその先の中学高校生活、大学進学、職業なども意識するべきではないでしょうか。そうすることで、目の前の勉強はポジティブなものになるし、どこに進学してもさらにがんばれるのです。
多くの保護者は、わかっているはずです。ただ、そのことを子どもに伝えきれていないのではないでしょうか。そして、知らず知らずのうちに「少しでも偏差値の高い学校がいいと保護者は思っている」と子どもたちに思わせてしまっているのです。
ドラマやネットからも「有名校に合格するのが成功」というようなメッセージが発せられていて、子どもたちは追い立てられていると感じます。
もちろん、正しい情報も増えています。「偏差値至上主義ではだめだ」ということを昔に比べて多くの人が言っているし、私もそういうことを発信しているつもりです。
ただ、情報があまりにも多すぎて、子どもたちは混乱しています。子どもにどんな情報を届けるか、保護者は取捨選択しなくてはなりません。
リアルな情報が不足していることに危機感を
2022年の大学共通テストの日、東大前で切りつけ事件が起きました。新聞報道によると、逮捕された少年が通う高校は以下のようなコメントを出しています。
勉学だけが学校生活のすべてではないというメッセージを、授業の場のみならず、さまざまな自主活動を通じて、発信してきました。(中略)コロナ禍のなかで、学校行事の大部分が中止となったこともあり、学校からメッセージが届かず、正反対の受け止めをしている生徒がいることがわかりました。(中略)「密」をつくるなという社会風潮のなかで、個々の生徒が分断され、そのなかで孤立感を深めている生徒が存在しているのかもしれません。
コロナ禍が続いたこの丸2年、子どもたちはリアルな体験を重ねられていません。中学受験生も視野を広げるリアルな機会になかなか恵まれない。保護者も実際に学校を訪ねるチャンスが減っている。
受験生も保護者も、コロナ禍で得られる情報が減っています。そのため、昔からのイメージや偏差値などの与えられた情報を頼りに学校を選びがちなのです。
そうした状況に危機感をもったうえで、視野を広げること、能動的に情報を集めることを意識してみてください。
情報源は、各学校のホームページ、実際の学校見学、書籍や塾、ネットになると思います。ただし、ネットでもSNSや掲示板で発言している匿名のものよりは、身元を明らかにしている人のほうが信頼度は高いと私は考えています。
そうした複数の情報源を比較したうえで、家庭なりの判断を心掛けるといいですね。
保護者自身が価値観のアップデートを
保護者は、子どもに比べれば社会経験もありますし、実際に中学受験をした方もいるでしょう。
でも、社会や大学が求めるものの価値基準は大きく変わっています。大学進学の方法は、一般入試以外に、得意分野で勝負する「総合型選抜」や学校内の成績や活躍で選ばれる「学校推薦型選抜」など、多様化しています。
海外進学という道もスタンダードになりつつあります。
同時に、「海外進学をサポートしてくれる」「個性を伸ばしてくれる」など、「いい学校」の基準も多様化しています。
志望校を決める際は、子どもにあった教育方針の学校のなかから、「子どもが18歳、22歳になったときに、どういう人物になっていてほしいか」「長所を伸ばしたいか、それとも短所を直したいか」を基準にするといいでしょう。
そうすると、「男女別学か共学か」「自由放任型か面倒見型か」など、学校に求めるものも絞られてきます。
例えば子どもが医師を目指しているなら、開成じゃなくても巣鴨や暁星からたくさん医学部に進学しています。バリバリ働く女性に育ってほしいなら、「社会のために貢献奉仕する女性の育成を目指す」頌栄なども有力な選択肢になるでしょう。
長引くコロナ禍で、学校見学などのリアルな情報に接するのが難しい受験生。保護者はそのことを意識して情報を取りにいく必要があります。
保護者自身も、令和の中学受験は「いい学校」の判断基準が多様化していることを知っておきましょう。