「子どもと関わる」うえで大人にとっての当たり前の気持ちや行動が、子どもにとっても当たり前とは限りません。

 

優位になりがちな私たちが、忘れたくない視点とは?大人も子どももしんどくない保育を目指す、きしもとたかひろさんが出会ったエピソードとともに思いを綴ります。

「自分のタイミングがある」という子どもの主張

プライベートでたまに遊ぶ子がいる。小さい頃は僕が行き先を決めていたけれど、その子が自分で思いを言えるようになってからは、本人にその日一日何して過ごすかを聞くようにしていた。

 

ある時、いつものように「今日どこいく?」と聞くと、定番のショッピングモールの名前を出してきた。

 

「ぴょんぴょんして水色のアイス食べて、キリンのお店でおもちゃ見てから滑り台しにいく!」とその子なりの言葉で綿密な計画を立ててくれる。

 

「ぴょんぴょん」とは室内遊園地の中にあるバルーン遊具のことだ。

 

「時間たりるかな」とスケジュールを頭に浮かべながら思案していると、その子が続けて「先に何々してから、とか言わんといてな!」と言ってきた。お願いというよりかは釘を刺すような言い方だ。

 

どういうことか尋ねてみると、遊びの合間に「先にご飯を食べよう」とか「これをしてからにしよう」とか言われるのが嫌なのだと応えてくれた。

「私には私のタイミングがあるのだ」と訴えているわけだ。僕にも僕の都合があるのだからお互い様だよ、と思いながらも、主導権が大人の自分にあることも自覚している。

 

その子の意思や希望を聞いていても、実際には本人の思いのままに行動したり、好きなものを買ったりできるわけではない。最終的にコントローラーを握っているのは僕の方なんだ、とその言葉を聞いて痛感する。

どこまで子どもの気持ちに寄り添うべきか

大人の立場としては、責任を持って1日の流れを見通したり、さらに先の未来まで見据えたり、しなきゃいけないことや考えなきゃいけないことは無数にある。

 

一方で、そもそもその子が自分で自分の思いのままに動けて何でも自分で決められるのなら、わがままやイヤイヤという概念は無いのかもしれないとも思う。

 

その子の目の前にある楽しいことを蔑ろにしたくないし、本人に委ねたりとことん付き合ってあげたい気持ちも僕の本心としてある。

 

ただそうは言っても、安全面を考慮したりその子や自分の生活のことも考えたりすると、なんでも付き合えるわけではないし、こちらの都合に合わせてもらわなきゃいけないことも当然にある。

 

そんな時に、僕は「あなたにとってもいいでしょう」と言って説得することがある。

 

もちろんそこには「こちらの都合だけじゃ申し訳ない」「付き合わすのならあなたにとっても損のないように」という気持ちがあるんだけれど、受け取る側としては、言いくるめられていると思うのかもしれない。

いや、無自覚を装っているけれど「相手が自分より弱い立場だから最終的には言いくるめることができる」と思っている自分は確かにいる。

 

「同じ目線でいる」と盲目にならずに、優位な立場にいることを自覚した上でそれをどう埋めるかの方が大事だよね。

 

こちらの都合に付き合わせるのなら、素直に「僕がこうしたいから」「どうしてもこれをしなきゃいけないから」と伝える方が誠実だ。

 

結局「むり!」って返されてお菓子で釣ったり強引に付き合わせてしまうこともあるんだろうけれど、それでもまずスタートはそんな風に、真っ直ぐその子と向き合うところから始められたらいいなと思う。

子どもをリードする場面で忘れたくない気持ち

室内遊園地でしばらく遊び、終了時間が迫ってきたので「そろそろいくで」と声をかける。「えー!まだ!」と返ってくる。

 

まだもへちまもない。1日のスケジュールは詰まっているしもうこれ以上延長料金を払うつもりはないのだ。

 

僕が出口に向かおうとしているのに遊び続けているので、少し焦る気持ちで「アイス食べる時間なくなるよ」と言葉をかけると、「食べる!」と叫んで追いかけてくる。

 

予定通りの時間に出られたことと次の楽しみに切り替えてくれたことを安堵していると、その子がボソッと「まだ遊びたかったのになー」とつぶやいた。

 

その言葉は僕にむけたぼやきというよりはその子の心から出てきた嘆きのようで、しばらく頭から離れなかった。

 

そうやんね。終わることは決まっているとしても、「まだ遊びたい」という気持ちは何も間違いじゃない。「まだ遊びたかったね」と一緒に残念がったらよかったな。

 

それでその子が納得するかは分からないけれど、そんな心持ちひとつで、そのアイスクリームが「その子を動かすためのもの」ではなく、「その子の残念な気持ちを前向きにするもの」になるような気がした。

 

文・イラスト/きしもとたかひろ