銀座ヒカリクリニックの剣木憲文先生
銀座ヒカリクリニックの剣木憲文先生

東京都心の一等地で開業している性病科の医師が、TikTokやInstagramなどSNSで積極的に発信しています。

 

話題にしにくい病気について、ときにマジメに、ときにコミカルに紹介する理由を聞いてみました。

銀座のクリニックで心が晴れてくれたら

「明るく清潔な街並みの銀座のクリニックに通院することで、患者さんの心が晴れてくれたらという思いで銀座に開業することにしました」

 

そう話すのは、「銀座ヒカリクリニック」の院長・剣木憲文先生(37)。

 

銀座に性病科や婦人科、泌尿器科を専門とするクリニックを開いて2年以上がたちます。

 

「元々は大きな病院で放射線科の勤務医としてIVRという医療機器を用いてガン患者の治療をしていました。

 

いずれは独立して、開業医となり社会に貢献したいと考えていたときに、アルバイト(非常勤)で診たことのある性感染症の患者さんが、とても落ち込んでいることを思い出しました。

 

病気の特徴から、人に相談しにくい内容なので、ひとりで悩んでしまう患者さんは多いのです」

動画を撮影中の剣木憲文医師
動画を撮影中の剣木先生

手厚く治療したい

性感染症は、性交渉が多い人や風俗店関係者だけの病気でないことは、剣木先生のクリニックの患者さんをみてもわかるそうです。

 

「そういう意味では、単純な比較はできませんが、若い性感染症の患者さんも、高齢のガン患者さんも病気で悩んでいることに変わりはありません。

 

しかも、性感染症内科は専門性が高く、特殊な分野です。きちんと研修を受けていない医師が、不十分な診察をしてしまうこともあります。

 

そこで、“ガン患者のように手厚く性感染症の患者さんを診たい”という思いから、開業しました」

 

関東近県だけではなく東北からも患者が来院するのは、先生の熱意がSNSを通じて伝わっていることもあるようです。

YouTubeで青いカツラをかぶり積極的に発信している剣木憲文医師
YouTubeで青いカツラをかぶり積極的に発信している剣木先生

性病科の口コミは広がりにくい

「ぽいぽんchこと、性感染症内科医ノリ」というアカウント名のYouTubeでは、スキンヘッドの剣木先生が、青いカツラをかぶっている動画などが多数アップされています。

 

得意のバイオリンを披露したり、クリニックのスタッフも出演したりとにぎやかな内容ですが、こんな目的があるそうです。

 

「まずは開業医ということもあり、ブランディングや集患目的があります。病院の広告というと、駅の看板を思い浮かべる人が多いと思います。

 

ただ、2010年代ころにはホームページ作りが活発になり、20年代になるとSNSでの発信が大きな流れになっています。

 

特に性感染症内科の口コミは広がりにくいので、その一助になればと始めたところ、最近はYouTubeを見たという患者さんが増えています」

TikTokではバイオリン演奏を披露している剣木憲文医師
TikTokではバイオリン演奏を披露している

待ち時間の間にYouTubeを

時間の有効利用という実用的な面もあるそうです。

 

「待ち時間の間に、YouTubeで流している検査内容や主な病気の解説を見てもらい、予備知識を患者さんに持ってもらうにも便利です。

 

Twitterで性感染症についての質問を募り、YouTubeで回答することもあります。

 

Instagramでは、クリニックの待ち時間に利用できる銀座のカフェなどを紹介していく予定です」

30、40代女性も性病には無縁ではない

さらには、性病についての啓発も目指しているそうです。

 

「性感染症のなかには、梅毒のように潜伏期間が長いまま無症状で、相手に感染させてしまう病気もあります。

 

“私には関係がない病気”と言う30、40代の女性も性感染症とは無縁ではありません。

 

自身の身に覚えがなくても、パートナーが浮気や風俗店、マッチングアプリによる性交渉で感染すれば、感染するリスクは高まります。

 

キスやオーラルセックスで感染することもありますし、不妊の原因になることもあります」

クリニックの事務長でYouTubeアシスタントのなぁたむさんと研修医時代の剣木憲文医師
クリニックの事務長でYouTubeアシスタントのなぁたむさんと研修医時代に

自分は大丈夫だという人こそ注意

次のようなケースもあるそうです。

 

「妊娠初期には問題ありませんでしたが、その後のパートナーの外部での性交渉が原因で妊娠後期の母親が梅毒に感染。

 

先天的に梅毒をもった子どもが生まれてくることもあります。

 

人と人との関係に立ち入るつもりはありませんが、自分や自分のパートナーは大丈夫だと思っている人にも注意が必要だ、ということも伝えていきたいです」

放射線科医時代の剣木憲文医師
放射線科医時代の剣木先生

大学は文学部志望だった

日々、硬軟織り交ぜて性感染症について発信する剣木先生ですが、高校生までは文系志望だったそうです。

 

「もともとは、文章を書くことや社会を俯瞰(ふかん)することに興味があったので、大学は文学部を志望しました。

 

しかし、医師一家のご多分にもれず父の猛反対にあいグラスを投げつけられ(笑)、2浪の末、医学部に入学しました。

 

最初に放射線科を選んだのは、泌尿器科医の父や兄とは少し違う道を歩みたい考えもあったからです。

 

しかし、最終的には町医者として患者さんを診る立場となり、結果的に父の思いを継承する形となってしまったのかもしれません」

銀座にバーを開業したい

おじいさんやいとこも医師という一族のなかで、幼いころからバイオリン教室に通っていた剣木先生。

 

そこで、後に有名YouTuberとなる人物と出会ったことで、運命は決まっていたのかもしれません。

バーを開くことが夢の剣木憲文医師
夢は銀座にバーを開くこと

将来的にはこんな“目標”もあるそうです。

 

「銀座のクリニックのそばに、バーのような飲食店を開業したい夢があります。

 

もちろん飲酒を控えなくてはいけない患者さんもいますが、 ただ病気を治すだけではない、気持ちを明るくする語らいの場を設けたいと思っています。

 

性感染症内科の診療所も、他の内科や眼科や整形外科のように街に溶け込んだ憩いの場のようになれば、社会貢献になるはずです。

 

私がバーテンダーとして働くことは、さすがに難しいと思いますが(笑)」

 

そのようなバーに客や患者が集まってこそ、性感染症へのイメージが変わるのかもしれませんね。

 

PROFILE 剣木憲文さん

けんのき・のりふみ。1984年、東京生まれ。「銀座ヒカリクリニック」院長。川崎医科大学医学部卒業後、東京医科大学病院などで勤務。「ぽいぽんchこと、性感染症内科医ノリ」の名前でYouTube、Twitter、Instagram、TikTokで発信中。

文/CHANTO WEB NEWS 写真/剣木憲文