藤井聡太棋士や、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグも受けていたといわれるモンテッソーリ教育。興味はあるけど近くに学校がない、家庭でも取り入れられるものなの?など考える方も多いと思います。まず、その前にそもそもどんな教育なのか?AMI国際モンテッソーリ教師で、保育士でもある仲宗根晶さんに話を聞きました。
子どもには自分を育てる力が備わっている
モンテッソーリ教育は、イタリアの医師だったマリア・モンテッソーリ博士が考案したものです。彼女は、子どもが手を使いながら深く集中している姿に注目。
生理学・医学・生物学などの知識を得ながら、子どもが集中する理由や意味を見いだし、子どものために役立てたい思いから、新たな教育方法を創りだしました。
それは「子どもには自分を育てる力が備わっている」という「自己教育力」の存在が根底となっています。
「モンテッソーリ教育を取り入れている園の多くは、3〜6歳の縦割りクラス
(※1)を採用していることがとても特徴的です。学年で活動を分けるのではなく、子どもの発達段階に合わせた『お仕事
(※2)』とよばれる活動を子どもたちが自由に選び満足するまで繰り返し行います。
子どもが間違った道具(教具)の使い方をしている際は、大人(先生)が正しい使い方を教えたりすることもあります。ただ基本的に大人は観察者に徹するため、モンテッソーリの園では大人の声がしません」
(※1)年齢でクラスを分けるのではなく、異なる年齢の子どもたちを混ぜたクラスを構成すること。
(※2)モンテッソーリ教育を取り入れている園では、モンテッソーリの教具などを使った遊びや勉強の時間を「お仕事」と表現。
モンテッソーリ教育における大切な2つの環境
「『子どもに関して、変わるべきことが2つあります。1つは環境への配慮。もう1つは大人のあり方です。一生の最初に特に大切な環境とは、母親です』というマリア・モンテッソーリの言葉があります」
「環境への配慮」は「物的環境」、つまり自宅や学校、教具、遊具などを指し、家庭でもお部屋を工夫することで取り入れることができます。「大人のあり方」は「人的環境」とよばれ、親や兄弟、クラスメイト、友だちで、なかでも母親が最も重要だそうです。
「以前テレビで藤井聡太さんの特集を見たのですが、彼のお母さまが子どもを信じて、やりたいことを好きなだけやらせたことが、今の彼を誕生させたのだなと思いました」
藤井聡太棋士のお母さま(人的環境)が、彼の将棋に対する興味を理解し、将棋を思う存分にできる環境(物的環境)を用意されたことにより、モンテッソーリ教育で大切な2つの環境がそろっていたのではないかと仲宗根さんは話します。
藤井五冠を育んだ「自己肯定感」の源
「マリア・モンテッソーリの言葉に『私たち教師は子どもの作業が続けられるよう手助けすることしかできません。召使いが主人に仕えるように』というものがあります。
つまり、子どもの好きなことややりたいことを邪魔しないこと、子どもを信じることがモンテソーリ教育のいちばんの特徴だと考えます」
そうはいっても、日常の忙しさや時間を見ながら生活していくなかで、実際に取り入れるのはハードルが高いと感じる人も少なくないでしょう。
「モンテッソーリ教育に興味を持たれたり、環境が大事だと気づかれた時点で、子どもの教育に関心の高い人です。その時点で人的環境(=母)はまずはあると言えると思います」と心強いお言葉。
“召使い”とはいかなくても、大人のマインドを変え、大人の都合を押しつけるのではなく、よりいっそう子どもを信じ、見守ることがモンテッソーリ教育の第一歩なのかもしれません。
「藤井聡太さんもそうだったと思うのですが、好きなことをとことんやって『できた』『わたしはできる』という成功体験を毎日積み重ねることが、『自己肯定感』につながるのだと思います」
前述した「子どもには自分を育てる力が備わっている」という「自己教育力」を根底とするモンテッソーリ教育は、「主体的・対話的で深い学び」「探究型学習」といった文部科学省の提唱する「21世紀型能力」にもマッチするはずです。
そういった点でも、100年以上前に誕生したモンテッソーリの教育法が今も世界で支持され、日本でも注目されている理由なのでしょう。
PROFILE 仲宗根 晶さん
取材・文/清宮あやこ
参考/相良敦子著『お母さんの「敏感期」 モンテッソーリ教育は子を育てる、親を育てる』(文春文庫)