「子どもにはスマホを持たせないほうがいいのではなく、持たせたうえでどのように使うべきか教育することが大事」…そう話すのは元埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警部補で、デジタル捜査班班長も務めた佐々木成三さん。

 

無知な子どもが扱うと危険と隣り合わせ…そんな怖いイメージがあるスマホ。どのタイミングで持たせるのがベストなのか、ズバリ伺いました!

スマホを持たせるのは早いほうがいい!その理由は

「子どもの教育者が同級生になることが一番危険」という指摘がありましたが、子どもにスマホを渡すベストなタイミングはいつなのでしょうか?

 

「私は早ければ早いほどいいと思っている」と佐々木さんは断言。

 

「小学校4〜5年生であれば、親がスマホの“教育者”になれるからです。子どもが反抗期に入ってしまうと親の話は子どもの耳に届きづらくなりますから。それに、親がスマホを持っているのに『大人だから大丈夫』という理由は子どもに通用しません。

 

いつかはスマホを持たないわけにはいかなくなる。だったら、持たせたうえで使い方を教えたらいいのです。教育とセットでスマホを持たせるのなら、小学校高学年に渡しても問題ないでしょう」

「なんでもショートカット」の危うさ

佐々木さんはそれに加えて「親子で登山をして朝日を眺めるといったアナログな体験も大事。デジタル社会に依存しないためにも、ぜひ自然体験をセットにしましょう」と意外な提案も。

 

「私が若いころはスマホも携帯もなく、『◯時に◯◯駅で待ち合わせ』というときは電車の時刻はもちろん、どこで乗り換えて何番線に乗るかを時刻表などで事前に調べるのが当たり前でした。

 

確かに手間がかかりますが、無事到着できたときにはそれが大きな成功体験として残ります。でも今はスマホのアプリで一発解決できますよね。苦労して手順を踏まなくても、ネットですぐに答えが出てしまう。

 

その『なんでもショートカットできる』という思考は危険です。10万円を稼ぐにしても、1万円の仕事を10回するのではなく、1回で10万円が手に入る方法を選んでしまう。簡単にお金を手に入れようという思考回路になるのです」

 

だからこそ、足を使って地道に頂上を目指す登山などで成功体験を味わうことが必要なのだそう。「デジタル社会では、アナログな自然体験の有無がその後の人生を左右すると思います」

デジタルとアナログ社会の違いをしっかり身につける

「たとえばナイフは、デジタル社会では人を傷つける凶器として認識されがち。でも、アナログ社会ではその前に“生活に欠かせないツール”なんです」と佐々木さん。

 

「食材を切ったり、キャンプでは紐を切るときにも使います。使っていて指を切ったら『痛み』を経験することになり、そこでナイフは人に向けるものではないと学びます。でも、デジタル社会ではそういった体験ができない。だから、アナログな状況で生身の体でたくさんの経験を積んだうえでゲームと向き合ってほしいんです」

親のネットリテラシーのアップデート 最も大事なことは

親世代もネットリテラシーを積極的に身につける必要があることはよくわかりますが、どのようにして高めていけばいいのでしょうか?

 

まずはSNSの種類にはどのようなものがあるかということを知ることから始めてほしい、と佐々木さん。簡単に言えば

  • テキスト写真型SNS→Instagram
  • チャット型SNS→LINE
  • 動画およびライブ配信型SNS→TilTok
  • 音声およびボイスチャット型SNS→clubhouse

など、さまざまな形態のサービスがあることを知っておくべきだそう。

 

「最近はSNSとゲームがミックスしたオンラインゲームが人気ですよね。親御さんからもよく『オンラインゲームにはどんな危険性があるか?』と質問されますが、そういうときは『ぜひお子さんと一緒にやってみてください』と答えています。

 

やったことがないのに、受け売りの知識をインプットしたところで、結局何が危険なのか理解できないと思いませんか?それに、やってみるとSNSの便宜性もわかります。正しいSNSの使い方を知りたいなら、まずは親も一緒にやってみることです」

 

加えて、親がやるべきことは「何が違法になるかをちゃんと説明すること」だと話します。

 

「まず、SNSでの誹謗中傷は後を絶ちませんが、これは名誉毀損罪・侮辱罪にあたります。また、たとえばTwitterでAさんが無断でBさんの写真をアップロードした場合は、プライバシーの侵害・肖像権の侵害にあたり、高額の賠償請求をされることも。

 

もし同級生が同級生の裸の画像をスマホに保存した場合は、児童ポルノ法違反になります。ポルノ法違反というと、大人が子どもの画像を保存した場合を指すと思われがちですが、同級生がやっても同罪になるんです。

 

ショッピングセンターで買い物カートをエスカレーターの上から落とした後の様子をInstagramのストーリーズに載せる行為が問題になりましたが、もしカートが客にぶつかりでもすれば、殺人未遂で逮捕されます。

 

これも有名な話ですが、某寿司屋の有名チェーン店でアルバイトをしていた男が、一度ゴミ箱に捨てたネタをまな板に戻す動画をInstagramのストーリーズに流しました。この場合は業務妨害罪で逮捕され、今もなお高額の賠償金を払っているといいます。

 

SNSは人を傷つけたり、嘘を拡散したりもできる諸刃の剣。事件の被害者にも、事件の加害者にもなりうるんです」

自分の行為が罪になると気づいていない

問題は、罪を犯した子たちが自分の行動が罪になることを知らずにやっているということ。子どもたちに「この行為が原因でこんな事態を招くのだ」と想像力を働かせる訓練をさせることが大事です。たとえば、

 

個人情報が特定される → 警察に捕まる → アルバイト先が閉店 → 損賠賠償請求をされる → 今後の人生に悪影響

 

という想像ができるかどうか。

 

過去に検挙された子どもたちは口をそろえて「こんなことになると思わなかった」と言うそうです。「いいね」がほしくてやったことが違法行為になるなんて、誰も教えてくれなかったのでしょう。

 

「犯罪行為は結局、スマホやネット自体ではなく、人間が選び取って起きるのだということを忘れないでください。判断力を磨き、常に頭を使いながら行動すること。他人の意見に流されないことです。

 

SNSはせっかくなら、未来の自分のために活用しましょう。でも、知らない人からの100回のいいねより、親や先生、友人からの1回の『リアルいいね』を大事にしてほしい。そうすればネットに依存しない生活に満足できるはずです」

 

PROFILE 佐々木成三さん

元・埼玉県警察本部刑事部捜査第一課警部補。デジタル捜査班班長として、埼玉県内の重要事件(捜査本部)において、携帯電話の精査、各種ログの解析を行った。現在はスクールポリス理事として、中高生を対象にデジタル危機管理の指導に尽力。4月には新著『マンガでわかる! 小学生のためのスマホ・SNS防犯ガイド』(主婦と生活社)が発刊予定。

取材・文/望月琴海