多様性に富んだ日本の食事。おいしい食べものは、老化を加速させる原因になっているかもしれません。歯科医師で口もと美容スペシャリストである石井さとこさんに、美しい口元と食事の関係、日々実践できる唇のケアについてもお話を伺いました。

小顔になってたるみを減らすコツは食事中の“噛む回数”

—— フェイスラインの緩みに、日々の食事が関係しているというのは本当ですか?

 

石井さん:

美しい口元を維持するためには“噛む力”を養うものを食べること。これに尽きると思います。やわらかい口あたりのいいもの、おいしいと感じるものは塩分が濃かったり、脂が多かったり…。

 

今の日本は食の文化が多様性に富んでいるので、簡単に選べてしまうんですよね。でも、やわらかいものばかり食べていると、口まわりの筋肉が極端に衰えてしまいます。

 

結果、舌や飲み込む力が弱くなる。日々、口に入れるもので「若返るか、老化するか」の分かれ道になるということですね。

 

—— たしかに、日本の食事はあまり噛まなくても飲み込める、口当たりのいいものが多いですね。自分にとって“やさしい食生活”を続けることでの将来的な影響が気になります…

 

石井さん:

日本人は顔のコラーゲンが豊富なので、「肌がツヤツヤでいつまでもきれいな人」はたくさんいます。

 

でも、全体が引き締まっていない、たるんだ印象を持ちます。特に年齢を重ねるにつれてその傾向が強いのではないでしょうか。

 

それに比べて欧米の人は、シワは多いですが、たるみやもたつきは気になりません。それはかたい食べものを日常的に噛んでいるから。

 

ステーキ肉を例に出すと、日本はやさしい霜降り、欧米はよく噛んで食べる赤身肉。パンだと、日本は生クリームなどが入ったふわふわ系が多く、欧米はかたいハード系でしっかり噛むことが求められます。

 

高齢になってもかたいものをおいしそうに食べる欧米の人は、日本人より噛む力は勝っているんだと思います。日本はやさしい食べものがあふれているぶん、日々の心がけや意識が大切。それが10年後、20年後の自分に返ってくるからです。

 

—— 手遅れにならないためにも、顔の筋トレ=「顔トレ」効果にもなる“最適な食事”について知りたいです。どんなものが挙げられますか?

 

石井さん:

具体的にどういう食事がいいのかというと、やはり日本人の原点である和食です。私たちの身体にはすごくなじみやすいとつくづく感じます。

 

ごぼうを食べたり玄米食にしてみたり、あとはやわらかい食べものでも組み合わせを工夫してみてください。

 

冷奴や湯豆腐なら、しめじやえのきのような「きのこ類」を組み合わせたメニューにするのもひとつの方法です。これらは弾力があって、ある程度、噛んでいないと飲み込めませんよね。

 

サラダもナッツ類を組み合わせることで、噛む回数を意識できます。噛めば表情筋に刺激が伝わり、血行がよくなってたるみにくくもなります。結果、小顔につながるというわけです。

 

また、満腹中枢が刺激されるので、過食を防いで“痩せスイッチ”が入ります。

 

「スムージーを飲むだけ」といったムリなダイエットは咀嚼をしなくなりますから、口まわりの筋肉が衰えてげっそりとやつれた感じになります。

 

本人が気づかないことが多いのですが、肌の弾力も落ちてくすんで見えてしまうんです。

 

よく噛む食生活を送る人の唇は、口輪筋が働くので、赤みがあってきれいなことが多い。マスクを外したとき「素敵!」と思われる口元になるためには、噛む運動は欠かせません。

リップケアで注意したい3つのこと

——「噛む」ということなら、ガムは効果的ですか?最近は手軽なタブレットで息抜きすることが多いのですが…

 

石井さん:

噛む運動のためには、リラックス効果のあるガムはおすすめです。最近、マスク生活でガムから飴やタブレットにシフトしたという話をよく聞きます。ガムは噛んだあとにゴミが出るのが理由のひとつ。

 

でも、ガムを噛んでいるときはサラサラした唾液が出て、口臭予防にもなるんですよ。

 

気をつけたいのが、片側だけで噛まないこと。ガムは1分間で60回くらい噛めるので、右側30回、左側30回と、30秒ずつ左右で噛む。両方の筋肉を使うように意識して噛んでみてください。

 

—— 食事のとり方のほか、石井さんのメイクアドバイスには定評があると聞きました。マスク下でもできる、リップメイクや日々のケアについて教えてください。

 

石井さん:

噛むことによる血流アップは美容への貢献度が高いというお話をしてきましたが、やはりメイクで口元を「きれいに見せる」という美への探求心は忘れないようにしてもらいたいですね。

 

口元の美しさは、心理的な部分も少なからず関係してきます。

 

マスク生活で口紅を塗らなくなったという人は多いですよね。私自身、マスクにつくのが嫌でグロスをつけなくなりました。

 

でもやはり、メイクは女性の心を元気にしてくれます。今の状況下でおすすめなのは、スティック状の口紅を使って、口角を意識して輪郭を描いてあげることです。

 

口角をきゅっと上げるように輪郭を描くと、小顔見せ効果もあるんですよ。これだけならマスクにはほとんどつきません。

 

あと、リップケアで気をつけたいのは「なめない、むかない、こすらない」。

 

なめると乾燥するし、皮をむくと傷になるし、こすると色素沈着やくすみの原因になります。血流が悪くなると唇はくすむので、メイク時に意識的に動かすなど、ひと手間かけると血流が上がりポカポカしてきます。

 

忙しく働く女性には、家族や周囲のためではなく、自分の健康のために生きることを意識してもらいたいですね。家族のための食事づくりも大切ですが、「自分のための、噛むための食事」をひとつ取り入れるだけでも、変わってくると思います!

 

PROFILE 石井さとこさん

歯科医師・口もと美容スペシャリスト。「ホワイトホワイト」院長。歯のホワイトニングを日本で広めた第一人者。マスク老けを撃退する、「顔トレ」を提唱。歯と身体を美しく保つための食事や、口元メイクについてのアドバイスに定評がある。女優・モデル・アナウンサーからの信頼も厚い。著書に「マスクしたまま30秒!! マスク老け撃退顔トレ」(集英社)など。

取材・文/高田愛子 イラスト/かりた