読者アンケートによると、子どもにスマートフォンを持たせるなら「小学校卒業・中学校入学」のタイミングがベストと考えている人が多いようです。

 

部活や塾で帰宅時間が遅くなったり、活動範囲が広がったりする時期。確かにタイミングとしてはちょうどよさそうですが…スマホがきっかけで望まない友人関係やいじめが生じる可能性も。

 

もし子どもが巻き込まれたら親はどう対応すればよいのでしょうか?元埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警部補であり、デジタル捜査班班長も勤めた佐々木成三さんに伺います。

繋がれたことが楽しくて…ハイテンションが引き起こす小さな狂気

実際、小学校卒業を控えたわが子にスマホを買い与えた直後にドキッとした経験をもつ人もいるようです。

小学校卒業前のタイミングで「○○中学新1年生」というグループLINEが出来上がっていたようで、お友だちに誘われ娘はそれに参加。会ったこともない他校の生徒など、大勢が参加していて、最初の内は面白がってスタンプを連投する子や中には不適切な画像を送る子もいました。Hさん(教師・43歳)

当初はひっきりなしに会話が続き、LINEの着信が止まらないような状況だったといいます。子どものスマホは夜になるとロックがかかって使えなくなるそうですが、翌朝スマホを見るとLINE通知が何百件も!夜中にもやりとりをしている子がいるようでした。

 

「『スマホを持ててうれしい』『LINEで繋がって楽しい』という初期の浮かれ熱のようなもので、それが収まっていくにつれ通知も自然に落ちついていったので、ホッとしました」と話すHさんですが、教師という職業柄、普段からスマホに対する危機意識が高かったそう。子どもに持たせる際も基本的なネットリテラシーをしっかり教えてから渡しました。

 

今回の出来事も日常会話のなかで子どもが話してくれたために発覚したといいます。Hさんのように普段からこまめにコミュニケーションをとる必要がありそうですね。

いじめの発端は「ミスコミュニケーション」

Hさんの経験談にもあった「グループチャット」。これが引き起こすいじめ問題は、ますます増加傾向にあると佐々木さんは指摘します。

 

佐々木さんによると、小学生に取ったアンケートでは、実に2人に1人が「グループチャットによるトラブルを経験している」という結果が出たそう。中学・高校生になるとチャットのグループはさらに増え、そのぶんトラブルの件数も増加しています。

 

「一番多いトラブルはやはり『悪口』。チャットだと対面せずに会話ができるので、今思ったことをそのまま送ってしまいがちなんです。また既読になっているのに返信がなく『無視されているのではないか?』というすれ違いが悪口に繋がっているケースも。これらのほとんどは『ミスコミュニケーション』が発端になっているといえます」

「メッセージの省略」が深刻な誤解を生じさせる

ここで言う「ミスコミュニケーション」とは、どんなことを指すのでしょうか。

 

「たとえば『メッセージの省略によるすれ違い』です。私にも経験があります。当時所属していた県警野球部のグループLINEに送った1つのメッセージが波紋を呼んだんです。

 

『次の休み、誰か焼肉行こうよ』という私の誘いに対し、1年目の新人後輩が勇気を振り絞って参加を表明してくれたので、『お前はなんで来るの?』と交通手段を聞いたところ、後輩からはなぜか泣き顔マークのスタンプが送られてきて…。

 

後からわかったのですが、その後輩は私のメッセージを「お前は誘ってないのになぜ来るんだ?」という意味で受け取ったらしいのです。私はLINEの文章を省略してしまう癖があり、古い友人にはそれで伝わるのですが、1年目の後輩は伝わらなかった…というわけです」

 

LINEのメッセージひとつをとっても、言葉の受け取り方は人それぞれ微妙に違うもの。言葉を省略すると自分が意図した内容が伝わらず、それがいじめに発展することも十分ありうる、と佐々木さんは話します。

 

自分にはいじめているつもりはなくても、相手が「自分はいじめられている」と感じていれば、当然「お前ってバカだよな」というテキストメッセージの受け取り方も変わってくるでしょう。

 

「顔を合わせた状態なら、相手の表情を見れば冗談かどうかわかるものですが、テキストメッセージだと感情を想像するしかない。LINEなどのチャット上ではこのようなことが起こりやすいということを、子どもたちにはまず理解してほしいです

ミスコミュニケーションを修正する経験を積む

ミスコミュニケーションを防ぐにはどうすればいいのでしょうか?佐々木さんは意外にも「ミスコミュニケーション自体は悪いことだとは思っていない」といいます。

 

「今後もテキストメッセージでやり取りするシーンはたくさんありますし、コミュニケーションは基本的にトライ&エラーですから。ただ、自分の思いとは違うことが相手に伝わってしまうこともあり、それがいじめにつながることもあるという前提をしっかり理解しておくことが大切です。

 

そして問題に気づき、修正する経験を積むこと。その修正もテキストメッセージで行うのではなく、学校でちゃんと顔と顔を合わせて自分が本当に伝えたかったメッセージの意図を伝えましょう。そうしないと、さらなるミスコミュニケーションに発展してしまうかもしれないので」

 

グループLINEはテキストメッセージのルールと「フェイスtoフェイス」のコミュニケーションが成り立ってこそ生きてくるもの。決してグループLINEだけでコミュニケーションを済ませようとはしないでほしい、と佐々木さん。

 

「まだお互いの性格をよく理解していないときや、顔見知りの生徒が集まったグループLINEに参加する場合は、言葉を省略して伝えないようにしましょう。しっかり自分の気持ちを言葉にのせて発信しようとする意識が大事だと思います」

 

PROFILE 佐々木成三さん

元・埼玉県警察本部刑事部捜査第一課警部補。デジタル捜査班班長として、埼玉県内の重要事件(捜査本部)において、携帯電話の精査、各種ログの解析を行った。現在はスクールポリス理事として、中高生を対象にデジタル危機管理の指導に尽力。4月には新著『マンガでわかる! 小学生のためのスマホ・SNS防犯ガイド』(主婦と生活社)が発刊予定。

取材・文/望月琴海
©️CHANTO調べ 調査期間:2022年1月21日〜1月27日 調査対象:CHANTOモニター41人