漫画イラストレーターとして活躍するカワグチマサミさんは、産後、ワンオペ育児と仕事で無理をして救急車で運ばれた経験から、「スキあらばゴロゴロしたい」と働き方を変えました。

 

2年間不仲だったという夫との関係とも向き合い、“いい感じ”に働く今の生活を手にするまでの経緯をお聞きしました。

「夫婦仲良くしたい」…今はまだ乗り越えている最中

── カワグチさんは産後2か月で仕事に復帰して、働きすぎて倒れてしまったとき、夫との関係性を見つめ直されたそうですね。

 

カワグチさん:

はい。当時は夫のことを信用できず、自分ひとりで頑張ることが正しいと思い込んでいて。救急車で運ばれ、やりたかった仕事をあきらめざるを得なくなって初めて、夫ともきちんと向き合うことができました。

 

夫と目指す方向は同じだったし、「忙しそうだから自分が頑張って働いて休ませてあげたい」とお互い思っていたんです。それなのに、当時はイライラの感情をぶつけることしかできず、本当の意味での会話が少なかったと気づきました。それ以来、お互いこまめに気持ちを伝えるようにしています。

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── パートナーと理解し合えたことで、働き方自体もは変わったのでしょうか。

 

カワグチさん:

私の場合は、夫と仲良くすることが仕事の効率にもつながっていますね。家族にとって、夫婦のメンタルの安定はすごく大切なことだと痛感しています。

 

といっても、めちゃくちゃ仲が良くなったというわけではなくて。お互い探りながら今も乗り越えている最中です。多分「ここでゴール」というのはない気がします。

 

夫婦はもともと他人で、血はつながっていないのに、結婚して子どもが生まれたら家族になる…そう考えると不思議な関係だなぁと。

 

子どもはいずれ巣立っていくわけだし、家族の時間とは別に、夫婦の時間はずっと大切にしていきたいと思っています。

コミュニケーションをおろそかにしないための2つの習慣

── 子育てと仕事の生活が始まると、夫婦の会話が減りがちですよね。カワグチさんは体調を崩されたことで、意識して夫婦の時間をとるようにしたのですね。

 

カワグチさん:

はい。2年間、夫とはわかりあえないと思っていたのですが、体調を崩したときに、「どうしてこんなに仲が悪くなってしまったんだろう」とあらためて振り返りました。

 

そのとき、夫婦でお互いの思いを冷静に話していくうちに、ふたりとも相手を思いやっていることがわかって。あの会話がなかったら今ごろどうなっていたか…。すれ違ったまま離れてしまっていたかもしれません。

 

コミュニケーションが圧倒的にたりていなかったことはわかったのですが、いろんな本を読みあさっても「コミュニケーションが大事」としか書いてなくて。「じゃあ、具体的にはどうすればいいの?」と悩みました。

 

「そもそもコミュニケーションって何?」と考えたときに、大事なのは“会話を習慣化すること”なんじゃないかと思ったんです。

 

── なるほど。具体的にはどんなルールを設けたのですか?

 

カワグチさん:

わが家では、2つの習慣を続けています。

 

1つ目は「月に1回、夫婦でデートすること」。意識してふたりきりの時間をつくるんです。忙しくてデートできないときは、子どもが寝た後に夫婦で夜な夜なテレビ鑑賞。今は婚活ドキュメント番組にハマっていて、すごく盛り上がるんですよ。恋人のころを思い出して、脳みそが「ふたりは恋人」と錯覚をするっていうか(笑)。

 

2つ目は「相手のお気に入りに興味をもつこと」。もちろん無理はしないで、自分が楽しめることが条件です。最近夫はある戦闘系アニメが好きなので、それを一緒に観ています。最初は正直興味がなかったのですが…観ているうちに面白くなって。夫はこういうアニメが好きなんだなぁと意外な発見でした。

 

私が夫の大切なものを大切にすることで、夫も私の趣味を大切にしてくれます。私が好きな乙女系のゲームソフトが宅配で届いたら、夫が「はい、届いたよ」とやさしく手渡してくれたりして(笑)。

 

── お互いの大切なものに興味をもつことで理解が深まりそうですね。

 

カワグチさん:

そうなんです。子どもが小さいときからやっておけばよかったなと思いますね。でも当時は、子どもを預けてふたりの時間をつくることに罪悪感を持ってしまっていて。母親の役割を完璧にこなすことしか頭になかったんです。

 

私が無理しすぎた結果、育児のことで夫とぶつかってばかりで…息子はすごく悲しそうな顔をしていました。「仲良くして」という息子の言葉は、今でも忘れられません。

 

子どもって、親が仲良くしているのが一番嬉しいはずですよね。だから今では罪悪感をもつこともなくなりました。子どもを預けるなど工夫して夫婦の時間を確保しています。

大切なものを応援し合うために 

── 今は、子育ても仕事も“いい感じ”なんですね。

 

カワグチさん:

そうですね。不仲だった2年間のことは、ふたりにとってトラウマなので。本当にもう、夫のことを敵のように思っていたんです。

 

今は、少しでもイラっとしたら「今イラっとした。ごめん」とすぐに謝って、どんなことにイラっとしたのかも説明します。

 

この前は「ゴミ出しを忘れて行ったから、イライラしちゃったんだ」と伝えました。そうしたら夫は「昨日、仕事が遅かったから寝坊しちゃったんだ」と答えたので、私は「ああ、じゃあしかたないね」となって。 

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── そのときの率直な気持ちをお互いが言葉にするようになったんですね。

 

カワグチさん:

そうなんですよ。「どうしてゴミ出ししなかったの?」「なんとかしてよ」ではなく、どうしてイライラしたのかその理由を伝えるようにしています。

 

イライラしたり、怒ったりすることは、その根底にあるものを掘り下げていくと、「仲良くしたい」といったポジティブな気持ちがあって、それを理解してもらえなかったことが悲しかったり、寂しかったりするんですね。嫌われたくないという思いもあると思うんです。「どうして?」の部分を自分で見つめて、感じたことを冷静に伝えています。

 

── 仕事もしやすくなったと感じますか?

 

カワグチさん:

はい。もうひとつ、「自分の大切なこと」として、仕事の話を夫にできるようになったのは、本当に良かったと思います。デートのときに話したりするのですが、最近は子どもの前でも自分の仕事の話をしています。

 

「今はこういう仕事をしているんだよ」「お母さんたちに好きなことをして生きてほしいと思っているから、そういう本を作りたいし、届けたいんだ」と、正直にやりたいことや夢を話しています。そうすると、夫も子どもも私のことを応援してくれるんです。

 

3人それぞれのやりたいことを伝え合うことで、子どももあまり寂しい思いをしなくなったようです。「ママは夢のために頑張っているんだ」と思ってくれているみたい。ときどき息子に仕事のことで相談すると、「僕に任せて」と聞いてくれます。頼りがいがあるんですよ(笑)。

 

── やりたいことができるようになってきたのですね!

 

カワグチさん:

はい。たくさんできています。目標を決めすぎると叶えられなかったときに落ち込むので、1年の初めに軽くテーマを決めるんですね。フリーランスになった当初は、「好きなイラストを描ければなんでもいい」というテーマからスタートしました。

 

その後は、「今年は漫画のお仕事がしたいな」から「今年は漫画だけで食べていけるようになりたいな」となって。今年は、執筆の仕事を増やしたくて。無理なく好きなことを仕事にできる働き方や家族について、たくさんの人に伝えられるような本を書きたいですね。

 

PROFILE カワグチマサミさん

漫画イラストレーター。1984年、大阪生まれ。デザイン会社勤務後、2010年から漫画家・イラストレーターとして活動を始める。「スキあらばゴロゴロしながら、いい感じに働く」をモットーに漫画連載や講演など多方面で活躍中。9歳男児の母。著者に『子育てしながらフリーランス』(左右社)など。

取材・文/高梨真紀