3組に1組が離婚する時代。再婚による家族も増えています。
臨床心理学者・野口康彦さんは「私たちは当事者であってもなくても、再婚家族への間違った思い込みを改める必要がある」と話します。私たちが無意識に抱いている「間違った思い込み」とは ──?
「一緒に暮らせば家族になれる」は危険
── 再婚による家族は増えていますが、そこにはたくさんの「間違った思い込み」があるそうですね。
野口さん:
非営利団体SAJ(Stepfamily Associate Japan)のHPより「再婚家族へのまちがった思い込み」
(※1)の一部を紹介しましょう。
一緒に暮らせば家族になれる
初婚の家族と、同じような親子関係・家族関係をめざすべきだ
パートナーを愛していれば、継子(配偶者の子どもで実子ではない子ども)もすぐに愛することができる。子どものほうも継親をすぐに親として認めるはずだ
これらはすべて間違った思い込みです。再婚は新しい生活のスタートで希望にあふれているものですが、このような考えは大変危険です。親としての役目を果たさなければ、と継親がプレッシャーを感じるほど、親子の溝は深まってしまいます。継親による行き過ぎたしつけが痛ましい虐待につながってしまうケースもあります。
共通体験がないうちは、“親ぶらない”
たいせつなのは、“親ぶらない”ことです。
再婚時の子どもの年齢にもよりますが、4、5歳になっていれば、子どもは再婚前の家族のイメージを持っているので、継親を「お父さん、お母さん」として受け入れることは難しい。
“親ぶらない“とは、たとえば「康彦さん」と名前で呼ばれることを受け入れて、ほどよく距離を置いてつき合うということ。言うことを聞かないときでも、親子関係が構築できていないうちは頭ごなしに叱ったりはしない。
あくまで「信頼できる身近な大人」として、継子との関係を築いていくことがたいせつです。
家族とは、共通の体験の積み重ねです。初めは距離のある継親と継子の関係でも、共通の体験を積み重ねることで、新しい家族関係が構築されていきます。
「継母は意地悪」の呪縛に戸惑う当事者たち
── SAJのHPには、「意地悪な継母というおとぎ話に見られる悪いイメージは、現代のステップファミリーに何ら影響を与えていない」というのも間違った思い込みだと書かれていました。
野口さん:
再婚家族が増え身近になることで、私たちは、そうした偏見は薄れたように感じています。でも当事者たちは違う。継母は「意地悪な継母になっていないか」「他人にどう見られているか」「どうしつけに関わるか」に悩む現状があります。
継父でも継母でも、気負いすぎず、共通の体験が少しずつ家族を形作っていくのだということを覚えておいて欲しいと思います。
経済的安定が家族関係を強くする
野口さん:
共通体験の他に家族関係を強くするものが、経済的な安定です。再婚が経済的な安定につながることは少なくありません。
母子家庭の多くは離婚家庭で、その平均就労年収は、約200万円。多くが母子家庭です。そこへ継父が救世主のように現れて、経済的に支えてくれる。子どもは、お金のかかる部活をあきらめなくてよくなる、塾に通えるようになるなどの恩恵を得ることができます。
── 初婚再婚に関わらず、結婚生活において「経済的な安定」は重要ですが、再婚家族の場合は、そのことを意識する場面が多いのかもしれません。
野口さん:
もちろん継親は感謝されたくて結婚する訳ではありませんし、子どもが経済的な支えをありがたいと実感するにはそれなりの時間が必要です。ですが、経済的な安定が精神的な安定につながり、家族関係を強くしていく面は確かに存在します。
再婚家庭の子どもは「家族観」が深まる傾向
── 離婚は、子どもにとって少なからず喪失体験となると思います。子どもはその後の人生においてもずっと心理的な傷を抱えていくことになるのでしょうか。
野口さん:
環境の変化に戸惑い悩む時期があるのは事実ですが、子どもはいつか必ず心の安定を取り戻します。一般的にかかる時間は5〜10年と言われています。
大学生を対象に、結婚にどれだけ関心を持っているか「親の非離婚群」「離婚群」「再婚群」「死別群」と比較する研究をしたことがあります。結果「再婚群」がもっとも高い関心を示しました。
親が再婚した子どもは「家族とは何か」を意識する機会が多いんです。また、継親から得られた情緒的・経済的サポートが、継親子関係の大きな糧となり、結婚へのポジティブな意識につながったケースもあるでしょう。
…
家族の形は今後ますます多様化します。私たちは間違った思い込みから脱却し、適切な言動を選択できるようになりたいと思います。
PROFILE 野口康彦さん
茨城大学 人文社会学部 人間文化学科教授。スクールカウンセラーとしての実績を生かして、親の離婚・再婚を経験した子どもの心理を研究している。著書に『家族の心理 新しい家族のかたち』(共著、金剛出版)ほか。
取材・文/林優子