父親による育児休業が奨励される時代ですが、実際に取得している人は多くありません。
しかし、静岡県のぢぇぃさん(38)は昨年から育休を目いっぱい取得。その過程で、地味な家事・育児100個を投稿ウェブサイト「note」に挙げ、実行し続けています。
住宅メーカーのアンケートからその名前が広まった「名もなき家事」ですが、パパだからこそ、男性だからこその気づきもありそうです。
育休の終わりは寂しい
「育休期間も残りわずかとなり、寂しい気持ちです。それだけ育児を楽しめていたということだと思います。
仕事だと常に時間を気にしながらの作業が多かったので、子育てはじっくりとできたのがよかったですね」
そう話すぢぇぃさんは、静岡県内で妻・こーうつさん(37)、長女(5)、長男(2)と4人暮らしで現在、家事と育児に専念しています。
元々は自然科学系の会社に勤める会社員ですが、昨年4月から育休を取得し、いよいよこの2月で終了となります。
「私の勤務先は、子どもが3歳になるまでに育休を取れる制度なので、この2月に長男が3歳になるまでの11か月間、フルで取ることになりました。
月並みですが、子どもの成長に直接、立ち会えたことはよかったです。
長男が階段をのぼれるようになったり、トイレをひとりで済ませられるようになったりと成長を見守ることができました」
死んだら二酸化炭素と水しか残らない
男性の育児休業の取得率は高くなく、2020年の民間企業では過去最高の12.7%でしたが、取得期間は5日未満が28.3%だったという厚生労働省のデータもあります。
ぢぇぃさんも第1子のときには、育休を見合わせたそうです。
「長女が産まれたときから、妻には育休を勧められていましたが、結局は取りませんでした。
周りで取っている男性もおらず、職場を長期間離れる漠然とした不安もありました」
そんなぢぇぃさんに転機が訪れます。
「2人目の長男が生まれた後、おじが亡くなり、喪主だったおじの娘が“おとうさん、ありがとう”と涙ながらに挨拶したときに、期するものがありました。
人間は死んだら、二酸化炭素と水しか残らない。
自分が死んだら何が残るのかと考え、残される家族とできるだけ一緒にいる時間を増やしたほうがいいのではないかと思うようになりました。
すると、今まで家族を養うために仕事に打ち込んできましたが、逆に家族といる時間を削っているのではと感じるようにもなりました。
お金はいつでも稼げるだろうから、それよりは成長過程の子どもたちと過ごしたほうが有意義だと思い、育休を取ることにしました」
“ママに来てほしい”と泣かれた
妻と入れ替わる形で育休を始めたぢぇぃさん。
当初は会社の仕事(タスク)とのギャップに苦しんだそうです。
「たとえば料理であれば、家族4人分の買いものはできますが、子どもたちが好む味つけがわからない。
長女の幼稚園の行事で、出席している保護者がママばかりなので、“ママに来てほしい”と泣かれたこともあります。
仕事と比べて、終わりがなく成果がみえにくい育児との違いにはかなり悩みましたね」
3か月もすると、ペースをつかみ慣れてきたそうです。
かなりの無力感にも襲われ…
「でも、ぐずられたりして生活のリズムを崩されるとイライラすることが多かったですね。
今は“そういうこともあるよね”と割り切ることもできますが。
子どもとさんざん遊んだ後、最後に“お母さんがいい”と言われたときには、かなりの無力感に襲われました。
“お父さんがダメ”というわけではないことはわかっていますが…。
今度、妻が面倒をみるようになったら、“お父さんがいい”と子どもには言ってもらいたいですね」
そう笑うぢぇぃさんですが、妻のこーうつさんに育児の相談をできなかったのでしょうか?
妻が仕事で疲れていると相談できない
「自分が働いているときも、そうだったのではないかと反省したのですが、妻が仕事で疲れているとすごく聞きにくいんですよ。
そこで、育休に入って4か月くらいたったときに、子どもを実家に預けて、ふたりで話し合う時間をつくりました。
子どもが常にいると、夫婦の会話はできませんから」
こんなこともあったそうです。
「妻とケンカになり、相手に自分の大変さをわかってもらえなかったときには、世界中で味方がいなくなったような気持ちにもなりました。
これも立場が反対だったときに、妻に同じような思いをさせていたのではないかと反省しました」
子育てや家事に悪戦苦闘するなか、ぢぇぃさんは「男がやるべき地味な家事100選」を公表することになります。
会社の仕事とは比べものにならない
この100選は「女性が育休を取得しているときに、仕事をしている男性がすべきこと」という視点で書いたとのことです。
ぢぇぃさんの定義によれば、地味家事とは、炊事や掃除、洗濯などメジャーなものではない家事のこと。
【ウラ返った服をなおす】【シーツ類を洗濯する】から【歯磨き粉の出し口を拭く】【姑の話し相手になる】…など細々とした項目が挙げられています(本文最後に全て掲載)。
「家事・育児のストレス源を分析した結果です。会社の仕事とは比べものにならないほどの量の多さで、それが切れ目なく続くことが、大変さの原因なのだとわかりました。
妻も“よく、こんなにあげたね”と驚いていましたし、noteの読者からも“私はこの半分もやっていない”という感想もいただきました」
名もなき地味家事を実行するなら…
家事が苦手な男性や、育休を検討しているパパにとっては、細かすぎて驚いてしまう人もいるかもしれませんが…。
「この100個は、すべてやるべきものではありません。
私も妻も、していないものもあります。
あくまでメジャーな“派手家事”が優先で、それ以外の細かい部分を挙げたものです。
世のママや女性は、こういうことまでやっていることを考えるきっかけになればと思います。
まずは、メジャーな家事から行うのが基本で、そのほうが喜ばれると思います。
地味家事をやるにしても、これ見よがしだと、顰蹙(ひんしゅく)を買うことになるので、さり気なさが大切です」
つい最近も夫婦ゲンカを…
家事や育児のすべてを可視化して、生活リズムにも慣れた今、ぢぇぃさんの育休ライフはさぞ“完璧”かと思いきや…。
「つい最近も、どちらが子どもを風呂に入れるかでケンカしてしまいました。
このときに思いましたが、育児で最も大切なのは親の心身の健康ですね。
夫婦ゲンカしているときは、子どももつらそうにしています。
そうならないためには、夫婦でよく話し合い、臨機応変に対応するしかないと思います。
妻が育休を取ってくれていたときに、してくれていたように、つらいことも楽しいことも互いに共有し、気遣いながら乗り越えていきたいと思います」
ママ友が珍しがってくれるのは…
自身の経験から、ぢぇぃさんは、パパの育休取得についてこう考えます。
「取れるのであれば、取ったほうがいいと思います。
取らなければダメだとは言いませんが、男性や父親が育児をすることに関して日本はまだ遅れていると思います。
私が育休を取っていることをママ友に話すと、喜んだり驚いたりしてくれますが、それは私が男性で珍しいからだと思います。
こうして取材を受けたのも、私が男だからこそで、私が行っていることは、多くのママや女性にとっては普通のことだと思います
育児や家事に男も女も関係ないと思うので、それが少しでも当たり前になるように男性が育休を取ってもいいはずです」
今年の6月には、第3子が誕生することになっているぢぇぃさん一家。
今度は、こーうつさんが家事・育児に専念することになるので、妻による名もなき“地味家事”の改訂や増補が行われるかもしれません。
PROFILE ぢぇぃさん
1983年、静岡県生まれ。大学卒業後、自然科学系専門職に就く。2014年に結婚し現在2児の父。‘21年4月から育児休業に入る。段ボールリメークアーティストや作家の一面も。
文/CHANTO WEB NEWS 写真/ぢぇぃ