変幻自在な俳優として多方面で活躍する田口トモロヲさん。近年はドキュメンタリー番組でのナレーションや、ドラマでも欠かせない存在です。今年3月より上演予定の舞台『千と千尋の神隠し』の釜爺役としての出演が決まり、稽古の真っ最中という田口さんに、アンダーグラウンドと呼ばれた時代を経て、バイプレーヤーと呼ばれるようになったご自身のキャリアについて伺いました。
「若いころは役になりきることが快感だった」
── 最近は物静かな役も多いですが、自主映画などで活躍されていたときはアウトローな役柄も多かったですよね。
田口さん:
若いときは、ハードな役が多かったですね。どっちかというと犯罪者側の役が多かった(笑)。犯人役が多かったので、精神的にきつくなるときもありました。
── 役を引きずるタイプでしたか?
田口さん:
かつてはそうでした。若いときは、役と自分自身との線の引き方がうまくできず一緒になっちゃって、周辺の人たちに迷惑をかけたり(笑)。年を取って、自然にスイッチが切り替えられるようになったと思います。

── 若手の時代はどのように役づくりをされていたのですか?
田口さん:
若いときはそんなにたくさん仕事を抱えていたわけではないので、四六時中、その役のことを考えていたんです。家に帰る道中も、家でも、役に乗っ取られていましたね。
役を近づけるのではなく、役に近づいていく俳優だった。なりきってしまうのが、楽しかったというか。快感だったんです。
── そこまで役にのめり込むほど、役者業が楽しかったということでしょうか?
田口さん:
別人になりたかったんですよね。自分自身があまり好きではなかったので。その擬似世界にどっぷり浸かっていた感じです。年を取るとそのやり方に、疲れちゃった(笑)。家に帰ったときくらい、演技から解放されたくなったんです。
── 役柄と現実をどのようにして、切り替えるようになったのですか?
田口さん:
年をとってからは、家では考えないようにできるようになった。オンオフができるようになったんです。人間としてベテランになったのかな。
名バイプレーヤーが断る役どころは意外にも…
── 俳優だけではなく映画監督もされていますが、監督という立ち位置から見ると、ご自身をどういう俳優だと思いますか。
田口さん:
波の激しい役者、かな?ハマるときはいいけど、ダメなときはダメ、みたいな。いい言い方をすると、非常に人間的な俳優(笑)。あまり平均点を取れない俳優な気がします。
── それは意外です。エンドロールなどを見て、出演されているのを気づくことがあるくらい、役になりきられていると思っていたので。そんな田口さんが難しいと感じたり、断るような役はあったのですか?
田口さん:
モテモテのいい男の役は基本的には断ってきました。「僕じゃないでしょ」って。でも「あえて外見じゃなくて、内面でモテモテみたいなものを狙いたい」っていう監督もいらして。そういう意図を理解してお引き受けしたことはあります。
── 一般的に見ると、エキセントリックな犯人役のほうが難しそうですが…。
田口さん:
若いときは、どちらかというと犯罪寄りな人間でしたから(笑)、自分自身が。アングラムーブメントや、パンクムーブメントなど、インディペンデントと呼ばれるものが好きで影響を受けたので、表現そのものが過激にできる時代だった。
そういう異端な人や作品が大好きでやり始めたので、アンチが自分の生きがいだった。少数派の人たちの心情をダブらせるほうが、自分自身も気持ち良かったんです。
── 逆に、落ち着いた役のなかにもアンチの精神が宿ることもあるのでしょうか。
田口さん:
あるんじゃないですかね。そういう個性を理解したうえで役者として呼んでくださる演出家もいる。大げさな言い方をすると、一滴だけ毒を盛ってくれみたいな、そういう部分はあると思います。
僕が好きだった昭和の名脇役の俳優の先輩たちも、普通の役をやっていても“内なる怪獣が暴れている感じ”がしていましたから。静かな役を演じても、どうしようもない反骨的な内面は出てしまうんじゃないですかね。過去のやんちゃがバレてしまう、みたいな(笑)。
「まだまだ大御所にはならない。尖っていたい」
── 世界的にも有名な大島渚監督や今村昌平監督、新藤兼人監督の作品にも出演されていますし、大御所と呼ばれる位置にいらっしゃるかと思いますが。
田口さん:
ははは。大御所の立ち位置には立てないでしょ。考えたこともないですね。でも、暴れ続けるには体力がないとね。

── まだまだ丸くはならない、ということでしょうか。
田口さん:
自分が学生のころに映画館で観ていた監督の作品に出られたのは、自分でもよくやった!って思います(笑)。
大御所と呼ばれている監督たちも、大手の映画会社にいたけどドロップアウトして、自主映画を作った尖がった人たち。彼らが世間から巨匠と言われてから作品に参加したけれど、監督ご本人はちっともそう思っていない感じでした。つねに時代の先端であり、前衛であり続けようっていう意識がある。そういう人たちに、スタンスを教わったのはありますね。落ち着かない大人たちっていう(笑)。
── 田口さんのように、常に新しいことに対してチャレンジできる精神は、どうやったらもてるのでしょうか?
田口さん:
自分としては、新しい現実に興味があるっていうのが大きいかもしれません。今はネットで世界中と繋がれると同時に、閉塞的な部分が強烈にある。考えてみると、僕らの時代も非常に排他的で閉塞的だったからこそ、パンクムーブメントが生まれたり、権威になってしまった新劇に対してアングラと呼ばれる芝居が生まれた時代だった。似ている気がします。
── パンクバンド時代は、つばを吐きながら歌ったりもしていたんですよね…?
田口さん:
今の時代じゃアウトですよね。でもどうやら人生って、1回きりじゃないですか。死んだことがないので、わからないですけど(笑)。とりあえず1回きりなら、好きにやったほうがいい。そういう考え方です。そういう選択肢しかない! 「守って、守っていきたい」っていうのも、それも選択の一つだと思うので。なんでもその人自身が納得できればいいと思うんですよ。
PROFILE 田口トモロヲ
1957年東京都生まれ。アングラ劇団の俳優や、パンクバンドのボーカル、自主映画への出演などを経て、映画やドラマなどにも多数出演。近年はナレーターや映画監督としても活躍。舞台『千と千尋の神隠し』は、2022年3月より全国5か所で上演予定。
取材・文/池守りぜね