料理する菅野のなさん
毎日作りたくなるシンプルなレシピが料理教室のモットー


コロナ禍で“オンライン”が浸透する5年前から、zoomを通しての料理教室を開催していた料理研究家がいます。神奈川県鎌倉市を拠点に活動している料理教室「オーガニック料理教室ワクワクワーク」代表の菅野のなさん。なぜ、そんなに早くからオンライン料理教室を始めたのでしょう。

当時はまだ珍しかったオンライン教室を開いたワケ

── コロナ前の時期は、オンラインでの料理教室は斬新だったのでは?始めたきっかけについて教えてください。


菅野さん:

料理教室を始めて10年経った2016年、介護や育児で一時的に教室に来られなくなった人たちから「教室には行けないけど、レシピを知りたい」という声が届いたのが、きっかけです。「それなら、テキストにまとめます」と通信講座を始めました。

 

翌年には、初めてzoomを使って兵庫県の方々とイベントの打ち合わせをしたんですよね。そのときに物理的に離れていても“つながって話せる”楽しさに気づきました。それから直接会えなくても、オンラインを通じて自分にできることをやろうって。

 

インタビューに答える菅野さん
取材中は終始笑顔で話をしていた菅野さん

 

── 料理を教わりたいけれど、さまざまな理由で現場に足を運べない人たちの声に応える形でスタートしたんですね。


菅野さん:

料理について学びたくても、教室まで行けない理由で、諦めている人がとても多いと実感していました。そんな人たちのためのツールがオンライン。

 

たとえば、オンラインの活動のなかで、最初に取り組んだ「講師養成講座」では、教室に足を運んできてくれた人と、鹿児島や広島などオンラインで参加する人が、同じ講座で時間を共有できます。

 

オンラインなら、「赤ちゃんを抱えているけれど、育休中のうちにやりたいことをやりたい」と、子育て中のママさんも参加しやすい。ママさんの横で子どもが騒いでいてもミュートにすればいいわけですから。気軽に参加できる利点がありますね。

「サステナアワード2020」も獲得したおにぎりキャラバン

── 菅野さんにとっては、コロナ禍だからオンラインということではなく、“人とのつながり”のためのオンラインなのですね。ほかにはどんな取り組みをされていますか?


菅野さん:

はい。今後コロナの状況が落ちついたとしても、オンラインでのレッスンは続けていきます。対面で会えなくても、世界の裏側の人とつながって“料理”を伝えることができるなんて、これまでだったらないことなので。

 

オンラインでのほかの取り組みとして、「おにぎりキャラバン」があります。「ベーシック・みんなが嫌いではないもの・食でつながれるもの=おにぎり」を通して、食の楽しさや大切さを伝えるプロジェクトです。

 

具体的には「残さず、こぼさず、形は何でもいい」ということを伝えつつ、各自好きなおにぎりを握るという簡単なもの。“おいしいおにぎりの握り方”についても、一緒に実践します!

 

おにぎりキャラバン中の画面
おにぎりキャラバンは海外とのオンラインレッスンも好評

 

2020年3月に全国の学校が一斉休校になった際、「自分たちにできることは何だろう?」って。コロナ禍で気持ちが沈んでいる人たちに、食を通して元気を届けられたらいいなという思いから、オンラインでのワークショップを無料開催しました。

 

その後、教室の生徒さんやfacebookのつながりを通して徐々に広がって!“STAY HOME”の時期はみんなが家にいたので、いろいろな人が画面上に登場するようになりました(笑)。


── 地域だけではなく、世代も超えてのつながりを感じられる、温かい場所が「おにぎりキャラバン」。持続可能な取り組み動画を評価する「サステナアワード 2020」で、Ag VentureLab賞を受賞されたと聞きました。

 

菅野さん:

愛のある取り組みということで、光栄なことに賞をいただきました。「おにぎりキャラバン」は多世代でのプロジェクトであり、「残さず、こぼさず、お米を食べよう!」というところを大事にしています。

 

お米を食べる未来をつくる取り組みもサステナブルに含まれているので、そのあたりを評価いただいたのだと思います。また、年間を通してやり続けている活動量の多さも受賞の要因でしょうか。これまでに全国各地から879組、1569人の方に参加していただきました。(※2021年12月18日時点)

 

年配の参加者からの「一人でごはんを食べる予定だったけど、(オンラインの)みんなで握れてよかった」という声を聞いたりすると、やってよかったなと実感しますね。

 

握りながら、“おにぎりにまつわる思い出の話”をしたりします。そこでみんなほっこりしたり、ときには涙したり…。

 

自宅にいながらにして“時間を共有して、同じことができる”。オンラインならではの魅力だと思います。参加者のみんなにとって“元気をもらえる場所”になっていれば嬉しいですね。

 

認定された講師たち
講師養成講座では料理教室でありながらときめいたり、心持ちが変わったという意見も寄せられる


── さらには、企業の社員同士のコミュニケーションの場としても、オンライン料理教室を開催されているようですが?


菅野さん:

きっかけは、企業の方からの「コロナ禍で社員間のコミュニケーションが取れない。今まで社内で開催していた料理教室ができないので、オンラインでやれないか?」という依頼でした。

 

誰かと食を楽しむことが気兼ねなくできない昨今、社員のみなさんが自宅から参加して、一斉に同じ料理をつくり、その味を共感することができる。食を通しての社員同士のコミュニケーションの活性化が、オンラインなら実現できるかなと。

 

具体的にはオーガニック食材を社員の方の自宅に届けて、みんな同じ食材を使って料理をつくるようにしています。同じ食材だから、野菜のシャキシャキ感や甘さなど“おいしさの共有”もできるんですよ。旬の野菜に触れるきっかけにもなります。

 

── 目の前の人が困っていること、望んでることに対して、しっかりと向き合っている姿勢が素晴らしいですね。今後の展望について教えてください。


菅野さん:

オンラインを活用することで、みなさんの願いが叶うなら、お手伝いさせていただくスタンスです!今後の展望としては、ひとり親支援などに力を入れ、私たちのやっていることがもっと社会の役に立つようにしていきたいですね。

 

まだまだ達成できていないと思うところがあり、たとえば「あるプロジェクトが全国展開した」というような“食の貢献”としての結果をちゃんとつくりたい。自分だけの力ではなく、メンバーと一緒に。毎年本気で“その山”に登ろうとしています!

 

PROFILE 菅野のなさん

2児の母。2007年、管理栄養士である自身の母とともに、「オーガニック料理教室ワクワクワーク」を設立、代表を務める。教室運営、講師の育成、イベントやワークショップの開催など「毎日のごはんから私の幸せを見つける」をモットーに活躍。

取材・文/aiko 撮影/伊藤智美