3組に1組が離婚する時代とはいえ、離婚には相当なエネルギーがいるもの。
モラハラ夫に苦しんだ経験のある田中みどりさん(仮名・35歳)に、結婚生活から離婚成立後の現在の暮らしについて聞きました。
彼女の経験は、たとえ経済力がなくても幸せの第一歩を踏み出すことができることを教えてくれます。
借金をされても「自分が悪い」と思う日々
── まずは離婚の原因を教えていただけますか。
みどりさん:
元夫のモラハラとDVです。
23歳で結婚したときは対等な関係だったのですが、私が妊娠して仕事を辞めたころから、「俺の言うことが聞けないなら、生きている価値はない」「誰の金で暮らしていると思ってるんだ」と言われるようになり、DVも始まって。
子どもが産まれてからも、夜泣きをすると「黙らせろ」と怒るので、夜中に息子を抱いて外を歩き回りました。
寝不足が続いて限界だったので、子どもを見てほしいと頼んだら「男は外で稼いで、女は家を守ればいいんだ、それしかできないんだから」と言われたこともありました。
── それは大変でしたね。
みどりさん:
そのうち彼がパチンコで借金を重ねて、生活費を入れなくなったんです。
実母に相談しましたが、彼は公務員で、普段は優しくて堅実に見える、対外的にはすごく“いい夫”なので「そんなはずない!」と信じてくれませんでした。
彼のお母さんも同じで「育児で疲れているんじゃない?」と私が精神科への通院を勧められたくらい(笑)。唯一理解してくれた実の父が、私の隠し口座に少しずつお金を振り込んでくれたおかげで、なんとか生活していけました。
── それで離婚を考えたのですね。
みどりさん:
いえ、その頃はまだ「自分が悪い」と思ってしまっていました。
今思えば精神的に少しおかしかったですね。自分が変わればいいんだと思い込んでいて、自己啓発本を読みあさっていました。「今日はどんなことで怒るかな」と彼の機嫌をうかがう日々でした。
そのうちに2人目の娘が産まれ少し落ち着いたあたりで、ふと「この状態は普通じゃないのかもしれない」と気づいたんです。
下の子が1歳になったころに始めたパートもきっかけになりました。
社長と奥さんだけでやっている小さい会社で、おふたりに彼のことを相談すると「それは普通じゃない、あなたが悪いんじゃないよ」と言ってもらえて、やっぱりそうか!と(笑)。
夫の盲点をついて子どもたちと脱出
── 第三者の視点によって、元夫の異常さに気づかれたのですね。
みどりさん:
そうなんです。
社長夫妻に協力してもらい、元夫が仕事でいないすきに、職場近くのアパートに引っ越しました。荷物は車で運び、6歳と2歳だった子どもたちも一緒に連れて逃げました。
── 荷物は一度に運び出したのですか?
みどりさん:
はい、一度に運び出しました。あらかじめ普段使用していない部屋に少しずつ荷物をまとめ、一気に脱出しました。準備していることがバレないか心配でしたが、彼は普段家事にノータッチだったので気づかれずに済みました。
── 家から逃げても離婚はできていないわけですよね。
みどりさん:
そうですね。彼は離婚する気はない、自分は悪くない、と言い張って、すんなり離婚とはいきませんでしたね…。
暴力を振るわれてケガをしたときの診断書もなかったから、裁判になったら証拠不十分で負けていたかもしれません。
とはいえ、話し合わないと離婚できない。話し合いで彼と二人きりになるのは危険だったので、話し合いには第三者に同席してもらいました。
── 具体的にはどなたが?
みどりさん:
逃げ出した先のアパートの隣の部屋のご夫婦です。引越しの挨拶で、ご家族に事情を話したら、とても親身になってくださって。話し合いのあいだは、そのご夫婦の高校生と中学生のお子さんがうちの子どもたちを見てくれて、とても助かりました。
時間はどのくらいかかったのかな…。無我夢中でしたけど、お正月に家を出て、離婚が成立したのは秋ごろでしたね。
慰謝料や養育費はもらっていません。元夫の条件は息子の親権でした。とても悩んだのですが、いま息子は彼と一緒に暮らしています。幸い息子は元夫と相性がいいので、問題なく過ごしているようです。
もっと自分の人生を楽しんでいいよね
── 今は結婚生活を送った土地でも実家のある土地でもない九州にお住まいです。移住したのは、どうしてですか。
みどりさん:
子どものころに九州に住んでいたこともあって、またいつかは九州に住みたいと思っていました。
具体的に考えたきっかけは、新型コロナウイルスの流行です。このままだと社会も生活もストップするな、コロナが収束してもこれまでのような暮らしはなくなるかもしれないという直感のようなものがありました。
ちょうど2020年の1月に東京ビックサイトでやっていた移住の説明会を受けていたので、そのまま「地域おこし協力隊」に応募しました。
コロナ禍でいろいろ遅れたものの、半年後には準備が整って移住することができました。
シングルマザーでしたので、自治体の制度で引っ越し代も補助してもらえました。
同じように移住してきた人にはシングルマザーも多くて「私たち、あんなにがんばらなくてもよかったよね」というのが共通の想いです。私もそうだったのですが、どんなにつらい結婚生活でも「自分が悪いんだからがんばらなきゃ」とがまんしていた人が本当に多くて。今は「もっと自分を認めて、自分の人生を楽しんでいいよね」と思っています。
子どもも私も、今はのびのび暮らしています。息子とは週に1、2回は電話で話していますし、元夫とも、事務的な連絡は取っています。いつか子どもたちが一緒に暮らす親や、環境を選べるように、元夫との関係は良好にしていたいと考えています。
── 離婚を考えている人にアドバイスはありますか。
みどりさん:
もし今つらい状況に歯を食いしばって耐えている人がいたら、誰かに頼って思いきって家を出るのもありだ、と伝えたいです。シングルマザーを支援してくれる団体もあるし、一度相談してみるといいと思います。
ただ、ネットの情報には気をつけてほしい。
離婚に伴う移住を考えていたとき、ネットで調べたらネガティブな情報がどんどん出てきてしまって、とても暗い気持ちになってしまいました。図書館や書店で見つけた雑誌で移住体験記を読んだら、私にもできるかも!と前向きになれたんです。
やっぱり責任をもって編集された情報は、違うと思います。説明会で実際に移住者の方々と話したこともよかったです。悩んだときは、内にこもらずに外へ目を向けてみてほしいです。
…
離婚前に家を出て、移住するという思いきった行動で自分の道を切り開いてきたみどりさん。家族や友人以外の第三者の助けを上手に借りられたことも大きかったと思います。「自分が悪い」と悩んだ過去を想像させない、健康的に日焼けした笑顔が印象的でした。
取材・文/林優子 ※画像はイメージです