遠藤まめたさん

多様性が多く語られるようになった昨今。わが子が性別の違和感について悩んでいたら、どう接したらいいでしょうか。LGBTQの子どもや若者を支援している「にじーず」の代表・遠藤まめたさんに話を聞きました。

いちばん多い相談「子どもにカミングアウトされたら?」

── 遠藤さんはご自身の経験をきっかけに、LGBTQの子どもや若者の支援に取り組まれていますね。学校の先生や親御さんからは、どういう相談が多いですか?

 

遠藤さん:

いちばん多いのは、「子どもにカミングアウトされたら、どうすればいいですか?」という質問。以前は教育現場から「そういう子がいた場合…」と曖昧な質問が多かったのですが、ここ数年は実際に該当する子がいる場合もあり、より具体的な相談が増えました。

 

小学生以下だと「自分はトランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と性自認が異なる人)だ」といったわかりやすいカミングアウトというよりは、「女の子の列にいつも並んで直されている」「女の子の姿で登校を希望している」という相談が多いですね。どうやってその子が過ごしやすい環境をつくれるかを考えたりしています。

遠藤まめたさん
自身もトランスジェンダーとして苦しんだ時期があると話す遠藤さん

── 男の子と女の子だと、違いはありますか?

 

遠藤さん:

出生時に割り当てられた性別が女、性自認が男の子どもを「トランスボーイ」。出生時に割り当てられた性別が男、性自認が女である子どもを「トランスガール」と呼びます。もちろん個人差はあるのですが、両者の傾向はちょっと違いますね。

 

トランスボーイはボーイッシュな女の子として扱われやすく、幼少期は「活発だね」など、周囲からあまり否定的に思われない傾向にあります。私自身も、サッカーが上手で褒められている子でした。

 

けれども10歳くらいになると男女に分かれて遊ぶことが増え、それまで男子と遊んでいたのに急に距離ができ、かといって女子グループにもなじめないといった葛藤が生じやすい。中学校に上がると制服の問題や、二次性徴にともなう強い身体違和感が出てくるなど、困難が大きくなっていくような場合が多いです。

 

── では、トランスガールの子は?

 

遠藤さん:

やはり個人差はありますが、トランスボーイに比べてトランスガールのほうが幼少期から周囲に「問題だ」とみなされやすいように思います。トランスボーイがやんちゃに遊んでいても問題視されないのに、トランスガールがプリンセスの絵を書いて、ドレスやネイルに関心を持つとそれを大人はよしとせず、心配するんですね。

 

そして「なんでいつも女の子と遊ぶの?」「なんでお姫様の絵を描くの?」と質問攻めにしてしまう。なんでと言われても子どもは答えようがありません。その子がその子であることに、理由なんてないからです。

 

トランスガールの全員が幼少期からわかりやすくドレスやお姫様ごっこが好きかというとそうでもなく、思春期以降に性別違和を抱くケースもあるということもつけ加えておきます。

親が子どもの「性の違和感」に気づいたら

── トランスガールの方が、幼少期から周囲に否定されてしまう機会が多いと。

 

遠藤さん:

15歳以下の子とその家族を支援する「にじっこ」という会も主宰しているのですが、事実、そこに来る小学校低学年の子のほとんどがトランスガールです。これはトランスガールの比率が高いわけではなく、周囲が「あの子はどうして」と問題視されやすいからでしょう。

 

親御さんも最初からすんなり受け入れたわけではなく、「男の子でしょ!」と叱ったことを後悔したり葛藤したりしながら、ときには学校とも何度もやりとりをして、目の前にいるお子さんの味方であろうとしています。

 

トランスボーイの場合は、もう少し上の年齢になってからグループにくる傾向はあります。

 

── 親が子どもの性の違和感に気づいた場合はどうしたらいいでしょうか?

 

遠藤さん:

「男の子なんだからダメ」「オカマって言われちゃうよ」というような受け答えをしてしまうと、その子はずっと自分の心にフタをして生きていこうと考えるでしょう。

 

じつは、思春期前の子どもの場合、性別違和が生涯にわたって続くか続かないかというのは、専門家にもわからないんです。だからといって親が「こんなこと言っているのは、どうせいまだけ」と軽く見て「男の子なんだから」と価値観を押しつけることはしないでほしいです。

 

大事なのは、その子の「いま」を大切にしてあげること。「ほかの女の子は髪の毛を伸ばしていいのに、どうして自分は切らなきゃいけないの」と、自分だけがやりたいことを制限されているという状態は、こどもの自己肯定感を大きく傷つけます。

 

性別違和感は続くかもしれないし、続かないかもしれない。でも、その都度、目の前にいるこの子が「自分は大切にされている」と感じられる環境をつくっていくんだ、という姿勢が重要です。

遠藤まめたさん

── 遠藤さんが子どもから相談を受けたときは、どうしていますか?

 

遠藤さん:

その子がどうしたいのか、言語化するのを手伝います。子どもは何かがイヤなわけでモヤモヤしているけど、そのことを言語化して「だったらどうしようか」とひとりで考えるのは、なかなか大変なこと。

 

たとえば「プールがイヤ」と言う子がいたら、プールの何がイヤなのかを探ります。水着がイヤなら、上にラッシュガードを着れば入れるのか。着替えが男女で別れているのがイヤなら、一人で着替えられれば大丈夫なのか。それを言葉にするプロセスをサポートするんです。

 

「制服がイヤ」と言うトランスボーイの子なら、ジャージがいいのか、学ランが着たいのか。学ランを着てみたいけど怖いと言うなら、「先生の許可をもらって、試しに放課後に保健室で学ランを借りて2時間くらい着てみれば?」と提案してみます。頭で考えてわかることばかりでもないので、実際にやってみて、それがしっくりくるかを確かめるんです。

 

「制服が着られないから学校にいけない」という子の代わりに私が学校にかけあうことはしないけれど、その子が自分で自分の言葉を見つけられたら、先生に伝えられるかもしれないですよね。

 

PROFILE 遠藤まめたさん

1987年埼玉県生まれ。トランスジェンダーとしての自らの体験をきっかけに、10代後半よりLGBTの子ども・若者支援等を主なテーマとして取り組む。2016年、10代から23歳までのLGBT(かもしれない人を含む)のための居場所「にじーず」を設立。著書に『みんな自分らしくいるための はじめてのLGBT』(ちくまプリマー新書)など。

取材・文/大野麻里 撮影/野口祐一