遠藤まめたさん

性の多様性が語られるようになった昨今。私たち子育て世代が子どもだった頃とは、価値観がずいぶん変わりました。不用意な言動で誰かを傷つけてしまわないためにも、親は子どもに何をどう伝えるのがよいでしょうか。

 

LGBTQの子どもや若者の支援団体「にじーず」を主宰する遠藤まめたさんに話を聞きました。

子どもには「LGBTQはオネエタレントだけじゃない」と伝えたい

── 今回お話を伺う機会をいただいたのは、とあるお母さんの話が発端でした。親子で観ていたテレビ番組にゲイカップルが登場して、子どもに「なんでおじさん同士が付き合っているの?」と聞かれて回答に悩んだそうで。

 

遠藤さん:

お子さんとしては「否定的」というより「想定外」だったのかもしれませんね。多少の興味はあって、「え、どういうこと?」みたいな。頭の中にいろんなクエスチョンマークが浮かんで、「おじさん2人のうち1人は女ってこと?2人とも男に見えるけど?」なんて考える子もいるかもしれません。

 

日本ではテレビでオネエタレントと呼ばれる方をよく見かけるので、性的少数者のイメージがオネエキャラになってしまっている人は多いでしょう。でも、実際にはさまざまな性のありようがあります。「トランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と性自認が異なる人)であること」と、「同性愛者であること」がごちゃまぜになっている子も多いです。

 

子どもたちに知ってほしいのは、世の中のLGBTQはオネエタレントだけではなく、さまざまな外見や年齢、職業の人がいるということ。性別を変えている人もいるし、同性と付き合っている人もいる。同性同士で子どもを育てているカップルもいます。性格や趣味も人それぞれ。いろんな人がカミングアウトしている世の中であれば、それを知る特別な機会を設ける必要はないのですが。

 

── 日常生活でLGBTQの方に接する機会がないと、イメージしにくいかもしれませんね。

 

遠藤さん:

中学校や高校でLGBTQの授業をするときはいつも、50代のレズビアンカップルのインタビュー記事を紹介します。その記事では「レズビアンも“そのへんにいるただのおばちゃん”だと思ってほしい」と2人が語っていて。

 

実際にはこのような“おばちゃん”や“おじちゃん”は身近に暮らしているのに、その姿が見えていない。それは、差別や偏見ゆえに当事者が沈黙を強いられていて、違いが見えづらい社会になっているから。こういう話は、子どもたちは真面目に聞いてくれますよ。

 

もし親御さんがLGBTQの知り合いからカミングアウトされた経験があれば、「お母さんの友達にも性別を変えた人がいるんだよ」と話をしてもいいですね。身近なこととして認識しやすいでしょう。

遠藤まめたさん

遠藤さん:

お子さんが同性カップルに疑問を感じた様子なら、「どのへんが気になったの?」と聞き返すのもいいかもしれません。疑問を持つこと自体はいいことだし、考えるきっかけになるので。

 

「図書館で本を探してみたら?」とか「この映画にも同性カップルが出てきたよ」なんて話をするのもいいですね。悩んだり、ためらったり、戸惑ったり…。それも大事な経験になると思います。

 

悪口のように「ホモはキモい」とか「あの子はオカマ」とか言っていたら、親や先生は「そういう発言はやめよう」と注意してほしいです。そういう子でも、学ぶ機会があれば熱心に調べたりもしますから。

同級生にLGBTGの子がいたら、どう接する?

── 小学校高学年や中学生になると、友達と好きな子の話をするようになりますよね。不用意に友だちを傷つけるような発言をしないためにも、親が教えられることはありますか?

 

遠藤さん:

学生がカミングアウトする相手としていちばん多いのは「友達」です。友達同士やクラスのみんなが知っているのに先生が知らないというのは、じつはけっこう多いケースです。

 

私が中学校で授業をしたときも、生徒のアンケートで「友達にカミングアウトされたことがある」「友達にLGBTQの人がいる」と記入した子が何名かいました。先生はそこで初めて「うちの学校でもそういうことが起きているんだ」と驚くんですよ。

遠藤まめたさん

── 友達に話す子が多いのは意外でした。いまの子どもたちのほうが、互いに理解があるのかもしれませんね。

 

遠藤さん:

そうですね。ただ、そこはまだ子どもなので、カミングアウトされた子が、悪気なく他人に話してしまうことがあります。これを「アウティング」と呼びますが、「別にいいと思った」「珍しいから」などという理由で、言いふらしてしまうんです。よくも悪くも重大な問題とは思っていなくて、「差別なんてないから大丈夫だよ」という感覚なんですね。

 

その話が最終的に、保護者にまで広まってしまうことがあります。当事者の子は自分の親には隠しておきたかったのに、いつの間にか親にまで伝わってしまう。残念ながら理解のある家庭ばかりでもないので、そこですごくつらい思いをする子がいます。

 

LGBTQの子どもはいじめやからかいに遭うことが問題視されがちですが、悪気がなくても本人の居場所を奪ってしまう可能性を、子どもも知っておく必要があると思います。

家庭で「LGBTQを話す」きっかけは

── とはいえ、突然話すには難しい話題かもしれません。どう伝えるのがいいでしょう?

 

遠藤さん:

LGBTQがどういう言葉なのかという説明よりも、一人ひとり、誰もが違う存在なんだと日ごろから伝えていくことがまずは重要だと思います。

 

「男らしく」「女らしく」と言う人もまだまだいるけれど、性別でくくるのではなく、その人がその人であることが一番大事。性格も好きなものも違うし、やってみたい髪型も好きな色もみんな違う、というふうに。

 

小学校低学年の子でも「○○らしくしなさい、って言われたらどう思う?」と聞くと、みんなが「イヤ」と答えるんですね。「お兄ちゃんらしくしなさい」などと言われることをネガティブな経験と捉えています。「女の子なんだからやさしくしなさい」と言われると、「男の子も人にやさしくしないといけないでしょ」と反発する子もいます。

 

「らしく」と言われるのが自分にとってイヤな言葉なら、他人にも使わないようにする。その延長線上にLGBTQの話があって、「特別な人の話じゃなくて、みんな一人ひとり違う」という理解につながると思います。

遠藤まめたさん

遠藤さん:

親自身がLGBTQについて学んだことがあればそれを伝えるのもいいですし、「最近これを見たよ」とニュース記事を伝えたり、ドラマや映画をきっかけにしたりしてもいいと思います。

 

子どもなら漫画もおすすめ。ドラマ化もした『弟の夫』(双葉社)は父娘二人暮らしの家に、ゲイの外国人男性が訪ねてくるストーリーで、LGBTQについて知ることができます。小学生だと『いろいろな性、いろいろな生きかた』(ポプラ社)という絵本も切り口がいいです。さまざまな形のセクシュアリティや家族のあり方が描かれた図鑑のような本です。小学校の教員が作成した『りつとにじのたね』(リーブル出版)という絵本もおすすめです。

 

── 遠藤さんの活動を通して、子育て中のお母さんたちに伝えたいことはありますか?

 

遠藤さん:

この10年でLGBTQに関する情報は非常に増えました。親御さんが30代以上ならLGBTQについて学校で習うこともなく、情報も手に入りづらい時代だったはず。当事者の人たちは言語化もできず、理由のわからない悩みで苦しみました。それに比べると、今の子どもたちの置かれた状況はだいぶ変わってきています。

 

現代の小・中学生は、インターネットでLGBTQについての情報にアクセスしやすくなり、そのため低年齢でも「自分はトランスジェンダーだ」などと自覚しやすくなってきています。このようなとき周囲の大人の理解があればいいのですが、それがないと、より低い年齢で「家族に受け入れてもらえない」などと苦しむことになります。

 

また、お子さんが当事者じゃなくても、友達から相談を受けることがあるかもしれません。悩んでいる友達の力になってあげられるような子が一人でも増えてほしいです。

 

ひょっとしたら子どもが将来同性を好きになるかもしれないし、それは誰にもわかりません。そのときに、その子が「うちの家族に話しても大丈夫だ」と思える家族をつくってほしいなと思います。

 

PROFILE 遠藤まめたさん

1987年埼玉県生まれ。トランスジェンダーとしての自らの体験をきっかけに、10代後半よりLGBTの子ども・若者支援等を主なテーマとして取り組む。2016年、10代から23歳までのLGBT(かもしれない人を含む)のための居場所「にじーず」を設立。著書に『みんな自分らしくいるための はじめてのLGBT』(ちくまプリマー新書)など。

取材・文/大野麻里 撮影/野口祐一