本屋にいる親子

「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表・富永雄輔さんに教えていただきます。

 

今回は、実写ドラマ化されて話題となった漫画『二月の勝者』について。中学受験の入門書レベルと富永さんが太鼓判を押す『二月の勝者』の魅力とは?

複雑な中学受験事情がよくわかる『二月の勝者』

『二月の勝者』、実は連載が始まったころから僕も読んでいます。物語の舞台がVAMOSのある吉祥寺だから、よく比較されますし、ときには「漫画に登場する桜花ゼミナールのモデルはVAMOSなんじゃないか」という誤解を受けることも…(笑)。

 

漫画の内容は、中学入試の現状を的確に捉えていて面白いです。主人公の黒木先生の言動は漫画的に誇張されてはいますが、真実を突いている部分が多い。

 

いろいろな塾があって、各塾で成績別にクラス分けされている。そして、各塾のさまざまな講習や模試、ときには個別指導や家庭教師も利用しながら、志望校を目指していく。その志望校も午前入試、午後入試などがあって、いろいろな受け方がある…。

 

昔の中学受験に比べて、ものすごく複雑になっている令和版中学受験がリアルに描かれていて、中学受験の実態を知る入門書として活用できるレベルだと思います。

キャラクターを反面教師やお手本に

中学受験を経験していない保護者はもちろん、中学受験をした保護者にもおススメです。

 

保護者世代の中学受験って、通塾日数もクラス数も講習のオプションも少なかったので、あまり悩むことはなかったんですよ。

 

それが様変わりして、今の中学受験は、良くも悪くも選択肢がすごく多くなっている。つまり、どう選び取っていくのかが問われるようになっている。そのことがよくわかります。

 

いろいろな考え、事情の家庭が出てきますが、それもすごくリアルです。

 

自分たちに当てはまる家庭を見つけたら、それをお手本や反面教師にしながら「自分たちならどういう選択をするだろう」と考えながら読むといいですね。

印象的な「凡人こそ中学受験」「母親の狂気」の真意

印象的なセリフが多くて、「なるほど」と思わされます。例えば…

凡人こそ、中学受験をすべきなんです。

引用元:『二月の勝者(1巻第2講)』(小学館)

これは、中学受験に否定的な父親に向けて主人公の塾講師・黒木先生が言ったセリフです。

 

小6の息子は今がサッカーの頑張りどきだから、小学生のうちはのびのび過ごさせて、高校受験を頑張ればいい…という父親。それに対して、「プロスポーツ選手になれる可能性は非常に低く、勉強のほうが努力のリターンが得やすい」「なぜ高校受験はよくて、中学受験はダメなのか。中高一貫校に進めば6年間のびのびサッカーができるのに」という趣旨のセリフが続きます。

 

僕もよく言うのですが、中学受験は超優秀な子どものためのものではなくなっています。

 

現在、首都圏の高校受験においては、中~上位層の学力の子どもにとっての志望校が少なくなってきているからです。超トップ層なら都立日比谷でも都立西でも筑駒でも選べますが、多くの子どもにとっては、中学受験のほうが選択肢が豊富なのです。

 

もし「のびのび育てたいから中学受験はしない」と考える方がいたら、高校の進路はどうなりそうかも含めて検討してみてほしいと思います。

試験問題は学校からのラブレターです。

引用元:『二月の勝者(9巻第79講)』(小学館)

これは、黒木先生が保護者会で過去問の取り組み方に関してアドバイスしたときに出したたとえです。

 

試験問題には「こんな子に来てほしい」という意図が現れているから、できれば保護者にも目を通してほしいと黒木先生は言います。僕もその通りだと思います。

 

そして受験生本人たちには、ていねいに、そしてわくわくしながらそのラブレターを読んでほしいですね。一方で、ラブレターの返事にあたる解答も大切に。好きな人に送る手紙を書くように、字もていねいに書いてください。

君たちが合格できたのは、父親の「経済力」そして、母親の「狂気」

引用元:『二月の勝者(1巻冒頭)』(小学館)

「女優」になってください。

引用元:『二月の勝者(10巻第81講)』(小学館)

前者は、物語の冒頭で、難関校狙いの塾で教えていたころの黒木先生が放ったセリフです。

 

後者は、入試3か月前の保護者会で、黒木先生が小学生の受験について、「親とのケンカひとつで激しくパフォーマンスが落ちます」と話し、保護者たちに「いつもニコニコ明るい親」を演じるようアドバイスしたものです。

 

受験するにはやはりお金がかかりますが、塾や家庭教師任せではダメ。幼い小学生を受験に向かわせるにはやはり家族のサポートが必要です。「狂気」は大げさですが、受験生を家族で支える、保護者の「熱量」は必要だと思います。

 

ただし、のめり込み過ぎは禁物です。保護者は、基本的には明るい雰囲気で受験生活を送り、ときには涙を流してみせるなどして、意識して自分の感情の出し方をコントロールしつつ、子どもの奮起をうながすようにしましょう。

中学受験の正体_matome1

ここ数年で大きく様変わりしている中学受験事情をリアルに描いている『二月の勝者』。

 

いろいろなタイプの家庭、子どもが登場するので、手にとってみれば、自分たちに当てはまるケースが見つかるかもしれません。

中学受験の正体バナー
監修/富永雄輔 取材・構成/鷺島鈴香 イラスト/サヌキナオヤ