松井千士選手
50m5.7秒の俊足の持ち主!

『ラグビーワールドカップ2019』を皮切りに『東京オリンピック2020』での男子セブンズ日本代表の活躍が注目され、ラグビー人気が高まっています。なかでも注目されているのが、横浜キヤノンイーグルスに所属する松井千士(まつい・ちひと)選手。

 

東京オリンピックではチームの主将を務め、ラグビー強豪国のフィジーを相手にトライを決めました。松井選手の経験談から、ラグビーの魅力に迫ります。

小1で始めたラグビーが一生涯をかけるスポーツに

── 野球やサッカーよりも競技人口が少ないラグビーですが、始めたきっかけは何ですか。

 

松井さん:3つ上の兄がすでにラグビーを習い始めていたのがきっかけです。その影響で、僕も小学1年生からラグビーを始めました。

 

── 7歳で始めた頃は、ぶつかり合うのは怖くなかったのでしょうか?

 

松井さん:タックルを決めるというよりは、鬼ごっこをしている感覚でした。それがいつの間にか、コンタクトスポーツに変わっていって。

 

闘争心の部分よりも、一緒にプレーを楽しむ仲間ができたのが楽しかったんです。味方のために身体を張るという行為が、怖かったけれどこれこそ“勇気”なんだって、小学生ながらに感じていました。

松井千士選手
練習中も積極的にコミュニケーションを取る姿が印象的

── ラグビーの試合を生で観戦すると、選手や監督の声がすごく出ていますよね。

 

松井さん:初めて観に来た人は「こんなに声を出しているんだ」ってびっくりされるようです。会場に観に来てもらえれば、人と人のぶつかる音というコンタクトスポーツの魅力を感じられると思います。

 

── ラグビーはルールが難しいイメージがあるので、とっつきにくいように感じてしまいます。

 

松井さん:僕は「ルールがわからなくてもいいから、とりあえず観に来て」って友達にも言っています。「僕らもわかっていないから大丈夫」って(笑)。ラグビーってすぐに新しいルールができるので、選手全員がわかっているわけではないんです。僕も「この場合どうだったっけ? 」と確認することがありますし。

 

そこはもう難しく考えずに、生ならではの迫力を感じてもらえたらと思っています。人と人がぶつかる音なんてなかなか聞けないので。

 

── どんなところを意識して観れば面白くなるでしょう?

 

松井さん:ラグビーは野蛮なスポーツって思われているみたいですが、チームプレーでの意識が高く、すごく頭を使うスポーツなんですよ。それに1チーム15人という人数は、団体スポーツの中でいちばん多い。チームワークが重要なので、試合内外でコミュニケーションが大事になってくるんです。

15人制は戦術、セブンズは選手の身体能力に注目

── ラグビーは、従来の15人制と、オリンピック競技にも採用された7人制(セブンズ)があります。それぞれの魅力はどういった部分でしょうか。

 

松井さん:15人制の魅力はなんといっても、選手一人ひとりの身体的な魅力ですね。初めて観ると難しいかもしれませんが、サインプレー(注:スクラムなど、サインによってあらかじめ決められているプレー)が、各チームにあるので、戦術比べも魅力です。スクラムだと、大きな選手がスクラムを押し合うし、やぐらを作って飛び上がったりする。ほかのスポーツでは見られない光景だと思います。

 

あとは15人制のほうが、7人制よりタックルが起きやすい。僕も端で観ているときは、こんな危険なスポーツできるかって思うんですけど(笑)、チームの中に入ってしまえば、仲間のためにと自然に体が動きます。

 

── そういったチームプレーの精神は、どんなきっかけで芽生えたと思いますか?

 

松井さん:試合に出られる選手は15人ですし、メンバーに入るのも23人だけです。きれいごとに聞こえるかもしれないけれど、試合に出られない控えの選手のためにも試合では全力を尽くそうと思います。ラグビーはほかのスポーツと比べても、本当に「One for all All for one」の精神が必要な競技だと思いますね。

 

── 松井さんがオリンピックで活躍したセブンズと、15人制の違いはどんなところですか?

 

松井さん:同じラグビーなのでルールはさほど変わらないですが、別物のスポーツだと思っています。どちらもプレーしていて楽しいけれど、7人制の魅力は15人制よりもスピーディーな展開。各国オリンピックの選手がそうだったのですが、脚力が早い選手がいっぱいいるので、単純に身体能力が見られるスポーツだと思います。15人制と違うのは、お祭り感があることかな。

松井千士選手
「オリンピックでの経験が今のラグビーにも生きている」と松井さん

── お祭り感、ですか?

 

松井さん:そうなんです。オリンピックは無観客だったので、そういうムードではなかったのですが、海外遠征に行ったときにはハロウィンみたいな感じでファンが仮装したりしていて。

 

── まったく別の競技のようですね!

 

松井さん:試合中にも音楽がガンガンかかっていて、トライしたときはさらにドカンって音楽が掛ったりするんです。この外国の雰囲気は、日本でやってもすごく楽しいと思う。

 

── 観戦している側もワクワクできそうです。

 

松井さん:試合自体も、15人制よりも番狂わせが起きやすくゲーム性が高い。リオ五輪では、ラグビー最強国のニュージーランドに勝ったことがあります。今回の東京五輪でも、フィジーも初戦は落とせそうな部分がありましたしね。

 

── セブンズは試合時間が15人制よりも短いので、観ているほうも集中力が必要ですよね。

 

松井さん:試合時間が短いので一瞬で勝負が決まりますからね。15人制は前後半で80分なので後で返せる面がありますが、7人制の試合時間は通常14分なので、ワンプレイが命取りになるんです。

 

── 緊張感がありますね。

 

松井さん:濃厚な7分ですね。試合中も「まだ3分しか経っていないんだ」って驚くこともあります。日々過ごしている1分なんてあっという間ですけど、7人制の試合中は3分がすごく長く感じたりする。

 

僕はウイングというポジションで、トライを取るために目立つプレーが多い。でも、スクラムを組んでボールを支えるような縁の下の力持ちの選手もいる。僕はそういう選手をすごく尊敬しています。彼らのために走っているという感覚です。

 

だから、トライを決めた後に同じチームの選手が「よくやった」と駆け寄って声をかけてくれる瞬間がとくに嬉しいですね。「この人たちのためにラグビーしていてよかった」って感じますし、それが僕自身に求められている部分だと思います。

 

ラグビー・松井千士選手
「千士(ちひと)」という名は、誕生日(11月11日)にちなみ、両親がつけてくれたそう

 

<後編>東京五輪で主将も!ラグビー・松井千士選手の「メンタルを鍛える方法」

 

PROFILE 松井千士(まつい・ちひと)

1994生まれ。大阪府出身。横浜キヤノンイーグルス所属のラグビー選手。チームのポジションはウィング(WTB)。2016年リオデジャネイロオリンピックや2021年東京オリンピック、2018年ワールドカップセブンズの日本代表にも選出された。今年1月から開催されるラグビープロリーグ『JAPAN RUGBYLEAGUE ONE』でも活躍が期待される。

取材・文/池守りぜね 撮影/二瓶 彩 取材協力/横浜キヤノンイーグルス