「新聞やウェブサイトを見ていると、連日、モノが値上げされるニュースを目にします。車で外出をすればガソリンが高くなったなと思いますし、買い物に行けばお肉を始めとして食材の値段も上がった印象を受けます」。そう話すのは、経済評論家の森永康平さん。気になるのは「このままモノの値段が上がり続けてしまうのか」。今回はモノの値段を表す経済指標について、森永さんと学んでいきます。
モノの値段が上がっているのに、統計上はそれほどでもない?
モノの値段が上がった、または、下がったかを判断する経済指標に、日本では総務省が毎月発表している「消費者物価指数」があります。
消費者物価指数では500品目以上の価格の変動を確認できますが、すべてを見ていたら大変なので、全体から算出した「総合指数」の前年同月比(前の年の同じ月との変化率)を確認します。
また、天候によって価格の変動が大きい生鮮食品(野菜など)を除いた「生鮮食品を除く総合」、そして地政学リスクや投機資金の流出入によって価格が大きく変動するエネルギー価格を除いた「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」も確認します。
実際にこれら3つの指数の変動率をグラフにしたのが下図ですが、「総合指数」と「生鮮食品を除く総合」がプラスの値である一方で、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」がマイナスの値であることから、最近の物価上昇のいちばんの要因はエネルギー価格の上昇ということがわかりますね。
ただ、物価が去年より0.6%しか上昇していないデータを見て違和感を覚える方もいるかもしれません。実感はもっとモノの値段は上昇しているということですよね。
少しマニアックな話になってしまいますが、昨春頃から携帯大手各社が格安の料金プランを発表したことで、携帯電話の通信料が1年前に比べて大幅に下落。それで、指数が実態よりも弱くなっているカラクリもあります。
今年は「値上げラッシュ」の年になる可能性が高い
ニュースをよく見る方は、いま世界各国でモノの値段が上昇していることはご存じだと思います。しかし、消費者物価指数を見る限りでは、日本ではそこまで値段は上昇していません。日本だけが物価の上がらない特別な環境にあるということなのでしょうか。
そこで、次に日本銀行が発表している「企業物価指数」という経済指標を確認します。企業物価指数は企業間で取引されるモノの値段です。
こちらは11月のデータが前年同月比+9.0%となっており、その伸び率はオイルショックが影響していた1980年12月以来、およそ41年ぶりの大きさとなっています。
なんだか混乱してしまいますね。私たちがモノを買う値段はたいして上がっていないのに、企業間で取引されるモノの値段はとても上がっている。じつは、この理由は私たちに根づいた「デフレマインド」にあるのです。
20年以上、日本では物価がそれほど上がってこなかったため、100円ショップの登場に代表されるように、日本の消費者は値段が下がることはあっても、値段が上がることに慣れていません。
そのため、企業はコストが上昇しても、それを価格転嫁すると買ってもらえなくなると思い、企業努力でコスト高を吸収しようとするのです。
しかし、前述の通り、既に企業間でやり取りするモノの値段が約41年ぶりの上昇幅となっていることを考えると、企業努力でコストを吸収するのにも限界にきていることは明らかです。このことから、2022年は「値上げラッシュ」を経験することになりそうです。
文/森永康平
参考/総務省「消費者物価指数」 https://www.stat.go.jp/data/cpi/
日本銀行「企業物価指数」 https://www.boj.or.jp/statistics/pi/cgpi_release/index.htm/