夜にテレワークする女性

早くも年の瀬が近づいてきました。年末年始の休日をゆっくり過ごすために、大急ぎで仕事を調整している人も多いでしょう。

 

一方で、「年末年始は予定がないし、溜まった仕事をする」という人もいるかもしれません。同僚がそのパターンだった場合、自分は冬休みなのに仕事の連絡が来てしまうことも。

 

テレワークが普及することで勤務時間外の連絡が増えています。そんななか、世界で注目されている「つながらない権利」について解説します。

テレワーク普及で増える時間外労働

皆さんは勤務時間外にメールや電話、メッセージなどが来たとき、どうしていますか?

 

あまり気乗りしないものの、対応してしまっている人が多いのでは。上司から「確認したらA社に回してください」と言われたら、自分が仕事を滞らせたくなくて対応してしまいますね。仕事相手からメールが来たら、つい開いて確認したくなることもあるでしょう。

 

コロナ禍でテレワークが普及し、自宅でも仕事ができる環境は一気に整いました。同時に、仕事とプライベートの切り替えはあいまいになり、気軽に連絡する人も増えてしまいました。

 

仕事の連絡がスムーズになるのは便利ですが、そうすると勤務時間外も仕事をすることになってしまいます。勤務時間外に仕事をすることはストレスになるだけでなく、長時間労働に結び付く大きな問題です。

海外で広がる「つながらない権利」の法制化

こうした問題は今、世界的に注目されています。ヨーロッパなどでは、勤務時間外の連絡を受けない「つながらない権利」を法制化し始めています。

 

最初に法制化した国はフランスで、2017年に労働法に「つながらない権利」を規定しました。

 

メキシコは2021年1月にテレワーク法で「つながらない権利」の尊重を雇用者の義務に取り決めています。その他、英国、アイルランド、カナダなどが「つながらない権利」の実現に向けて動いています。

 

日本ではまだ法整備はされていません。ただし、厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」において、 「メール送付の抑制等」が記載されています。

テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられる。 このため、役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である。 メールのみならず電話等での方法によるものも含め、時間外等における業務の指示や報告の在り方について、業務上の必要性、指示や報告が行われた場合の労働者の対応の要否等について、各事業場の実情に応じ、使用者がルールを設けることも考えられる。

長時間労働の要因として「時間外の業務連絡」を挙げ、企業に「実情に合わせたルール作り」の必要性を提案するこの記載は、企業への法的強制力はありません。それでも、今後企業には、このガイドラインに準じた体制作りが求められるようになっていくでしょう。

取り残される喜び「JOMO」が象徴するもの

勤務時間外の連絡を受けない「つながらない権利」は、仕事上のことなので主張しやすいかもしれませんが、難しいのが仕事とプライベートが混在している場合です。

 

最近はFacebookやInstagramなどで上司や同僚とつながっている人もいるでしょう。「メールの返信が来ないのに、SNSに投稿している」と思われたくないために、SNSでの行動を控えてしまう人もいるかもしれません。また、SNSのメッセージ機能でやり取りしているうちに、仕事の話になってしまうことも。

 

「JOMO(joy of missing out)」という言葉を知っていますか?常にネットやSNSでつながることから解放される「取り残される喜び」を指した言葉です。

 

「自分だけが取り残されてしまうのではないか」、「何かを見逃しているのではないか」と恐れる「FOMO(fear of missing out)」の対義語にあたります。

 

アメリカで「FOMO」が話題になったのは2011年頃。それから数年が経ち、「JOMO」という言葉が誕生しました。これは、誰もが情報を追いかける時期を経た人々が、自分のペースで必要な情報を得たいというマインドにチェンジしている象徴だと思います。

 

仕事とプライベートを分けたいという価値観だけでなく、このようにネットとリアルを切り分けたいという考えも広がってきています。

 

SNSには飲み会の写真も多く上がります。しかし、飲み会が行われること自体を知らなければ、誘われなかったと気落ちすることや、断る理由を考える必要もなく、安定した心でいられますよね。

 

私たちはネット越しに、いつでもつながっている状態になりました。だからといって、画面の向こうのやり取りに深夜や休日も追われて、家族との時間が過ごせない事態は避けたいもの。

 

テレワークが普及し、柔軟な働き方を手に入れた私たちは、働き手の心身の健康も考えるタイミングにきています。

 

就業状態が良くない状況に陥っていると感じたら、一度上司や同僚とミーティングを開くなどして、「つながらない権利」を実現するための体制を整えてみてはいかがでしょうか。

文/鈴木朋子
参考/厚生労働省|テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf