「コロナ禍で在宅時間が長くなり、家庭の鍋料理には、外食のような刺激的な味が求められるようになっている」と、鍋に詳しい料理研究家・安井レイコさんは話します。
外食でブームになった「火鍋」、家庭で定番になりつつある「カレー鍋」など、鍋つゆ市場「辛味系」の進化と、その背景について聞きました。
火鍋は家庭での再現が可能に
外食の機会が減り、家庭料理に刺激的な味を求める人は増えています。昨年ブームとなったのが、しびれ山椒、花椒、ゆず胡椒などのスパイスが効いた鍋で、いまだにその人気は継続中です。
それに加えて今年は、火鍋がトレンドになっています。
日本で「火鍋」といえば一方を豚骨や鶏などからとった辛くない白湯(パイタン)スープ、もう一方を唐辛子や花椒など香辛料を効かせた辛い麻辣(マーラー)スープにしたものを指しますよね。
でもそもそも中国では鍋のことを「火鍋」と言います。1つの鍋を2つに仕切ったものは、火鍋の中でもとくに「おしどり鍋」と呼ばれているんですよ。
日本の火鍋(おしどり鍋、以下同)は数年前から外食で流行っていましたが、家庭で食べることはあまり考えられていませんでした。仕切りがある火鍋用の鍋が独特であることと、あの辛味は家庭ではつくれないと思われていたためです。そのため、火鍋の素を発売しているのは、ごくわずかなメーカーだけでした。
ところが今年、無印良品が「ひとり分から作れる鍋」として、火鍋の素を発売。レトルト食品の味に定評のある無印良品だけに、注目されています。
さらに火鍋の素の市場は広がっています。
カルディの火鍋の素がおいしいと女性を中心に人気を博しているほか、エスビー食品も手作り鍋キットとして、火鍋の素を発売。スパイスの効いた本格的な味が手軽にスーパーなどで手に入るようになったのです。
「家でも火鍋を食べたいけど、辛いから子どもには食べさせられない」という不安にも、対応可能です。
エスビー食品の商品は、辛味のないスープと辛味のあるスープ、そしてスパイスと、それぞれ分かれているので、分量の調節ができます。鍋を2つ用意して、1つは子ども用の辛味のない鍋、もう1つが大人用の辛味が強い鍋と分けて味わうこともできるのです。
カレー鍋はスパイスの配合がより複雑に
もう1つ、進化している辛味鍋として注目したいのがカレー鍋。
最近は、辛さの度合いより、複雑なスパイスやハーブを効かせたものがトレンドになっています。
今年はモランボンやエバラ食品がスープカレー鍋を発売したほか、名古屋名物のカレーうどん店監修のカレー鍋も登場。さきほど紹介した無印良品も、ひとり分からつくれるバターチキンカレー鍋の素を昨年に発売しました。
無印良品は、もともとレトルトのバターチキンカレーを発売していましたが、鍋になったことで、自分好みの具を入れることができるようになりました。まずは鍋で楽しみ、その後は、ごはんと一緒にバターチキンカレーとして、2度楽しめます。
かつてのカレー鍋は、和風だしにカレー粉を溶いたカレー煮込みうどん的なものが多かったのですが、今は、スパイスに重点をおいてカレーの奥深さを追求するスタイルになっています。
火鍋もカレーも本来は海外の料理。それが日本独自の進化を遂げているところがすごいと思いませんか?
年々進化し続ける鍋料理。
本格的な味わいはもちろん、自分好みの味に調節・アレンジしながら、辛味を楽しめる秀逸な商品が多数出てきています。今年の冬はぜひ家庭でその味を試してみてください。
PROFILE 安井レイコさん
取材・文/樋口由夏 イラスト/植田まほ子