2021年11月、とある自治体が発行している働く女性向け情報冊子(ハンドブック)についてSNSなどで「なんだかおかしくない?」と話題になっています。

 

なかでも多くの疑問符がついたのが、仕事をしながら子育てすることが「よくばり」なことであるかのように感じさせる冊子のタイトルでした。

また仕事と育児の両立の心構えを説くページでは、ともに育児をするはずの父親があたかも周囲の他人のごとく登場して「夜泣きがうるさい」と不満を口にする点や、「夫に育児を手伝ってもらうには下手に出てお願いし、大げさに感謝すべし」…などの時代にそぐわないアドバイスも物議をかもしています。

 

このハンドブックには有益な情報もきちんと掲載されているのですが、ママへのアドバイス部分があまりにも「育児は母親のやること」という古い価値観に基づいており、そこに多くの人が違和感を抱いたと思われます。

 

そこで今回は、実際に子育てしながら外でも働いているママたちに、自分の状況や働き方は「よくばり」と感じるかどうか、リアルな声を聞かせてもらいました。

私たちは「よくばり」?

昭和・高度成長期の日本ではサラリーマンの夫と専業主婦の妻という組み合わせが圧倒的に多く、終身雇用と右肩上がりの昇給に支えられて妻が会社勤めをしなくてもなんとか子どもを育てられました。

 

一方、会社で働く女性はお茶くみにコピー、結婚後は寿退社するのが当たり前のような世の中だったため、看護師や教職など一部の職業をのぞき、ずっとフルタイムで勤め続けているのは独身女性や子どものいない女性が中心だったのです。

 

そんな時代に、子どもに恵まれつつ仕事も続けている女性は希少な存在で、多少の賞賛や憧れをこめて「よくばり」と呼ばれたかもしれません。

 

しかし令和の現在、いったん就職すれば定年まで雇用が保証され、給料も上がり続けるといった昭和のような状況はほとんどありません。

 

多くの家庭で、男女問わず共働きでキャリアアップを続けなければ子どもを大学まで進学させることも不安…という社会になってしまっています。

 

そのなかで現在子育てをするママたちに「仕事と育児を両立する今の自分はよくばりだと思いますか?」とたずねてみたところ、次のような答えが返ってきました。

 

「よくばりって、本来、許される範囲を超えてあれもこれも欲しがる人のことですよね?私は許されないものまで欲しがっているつもりは全くないです。少子化解消!女性の社会進出!どちらも頑張れ!と言いつつ、実際にやったらよくばりと言われちゃうなんて驚きました」(Kさん・会社員・4歳児と1歳児のママ)

 

「仕事のやりがいや喜びはもちろんありますが、それだけじゃなく、やはり子どもの将来のためにお金を稼がなければいけないという目的は大きいです。夫の会社はほとんど昇給しないのに大学の学費や塾代は上がり続けるばかり。今の時代、もうわがままとかよくばりとかでワーキングマザーをやる人なんていないと思いますし、自分もそんな意識はまったくないです」(Tさん・小学5年生と3年生のママ)

 

など、「よくばりとは思わない」「子どもがいても(いるからこそ)働くことは当たり前」という声ばかりでした。

 

なお、上記とは関係のない余談ですが、筆者は会社勤めや自営業など現金収入があるママだけを「ワーキングマザー」とは考えていません。

 

たとえ現金収入がなくても、育児は、ハードさでは間違いなく全職業のトップクラスですし、ある日ママが消えてしまったらパパはたちまち今まで通り働けなくなり年収ベースで何百万円も失ってもおかしくない、非常に価値の高い「仕事」だからです。

 

だから、会社に勤めながら育児する女性を「よくばり」と呼ぶのはもちろん反対ですが、それに対して専業主婦はラクだ…と言わんばかりの風潮にも少し疑問を抱いています。

令和のパパは「同志」に

今回の議論でもう一点、多くの人が疑問に思ったのが、パパの立ち位置ではなかったでしょうか。

 

冊子に登場する父親の「こっちだって仕事で疲れてるんだよね。夜泣きがうるさくても我慢してるし、多少は手伝っているんだから、勘弁してほしいな…」というつぶやきには、SNSを中心に「手伝うって何?誰の子ども?」「母親は仕事も家事も育児もしてるのに、自分は仕事だけで疲れたから動きたくないってこと?」「やるべきは夜泣きを我慢することじゃなく、あやして寝かしつけることだよ!」などの批判が殺到していました。

 

また「夫に家事や育児をお願いするときは、時間を区切って頼み、手伝ってもらったらダメ出ししない、大げさに感謝するといい」というアドバイスに対しても、ママたちからいろいろな意見が寄せられました。

「丁寧にお願いして手伝ってもらう。それって祖父母とか外部の人にすることですよね?夫は、一緒に外部の人に頭を下げてくれる存在じゃないのでしょうか」(Yさん・2歳児と0歳児のママ)

 

「最近のパパはこんな人ばかりじゃないですよ。自分ごととしてできることを進んでやりますし、翌日出勤はお互い様なので、夜泣き対応も交替でしています」(Uさん・1歳児のママ)

 

もちろん全員がこうはいかないでしょうが、令和のパパは「俺が稼ぐから家のことは君に任せた!たまには手伝うよ」という人は減り、仕事も家事も育児も一緒に取り組む「同志」のような存在なのかもしれません。

みんなが幸せに働くには

今回問題になった冊子は数年前に作られたものですが、コロナ禍で多くの人が働き方を見つめ直したこの2年で、社会全体の意識が少しずつ変わりつつあるように感じます。

 

もし、子どもの発熱で度々母親が仕事を休み、業務のしわ寄せが周囲に及ぶとしたら、それは母親個人の問題でしょうか。

 

また、母親が休んだときの職場へのフォローも大切ですが、なぜ父親は休まない(休めない)のかという現状にも目を向けるべきではないでしょうか。

こういった課題を「ひたすら頭を下げる」といった個人の努力でなんとかさせるのは無理がありますし「よくばりな夢を叶えてるんだから、色々我慢しないとね」といったアドバイスを続けていては、ますます子どもをあきらめる夫婦や女性が増えてもおかしくありません。また職場任せにしておけば格差が広がるばかりです。

 

ジェンダーギャップ指数が先進国最下位の日本で、いま、子育て世代を含めた労働環境が適切なのかどうか、現場の声を広く聞いて検証する必要があるのではないでしょうか。

 

もちろん、自分たちの意志で子どもを持たない夫婦や機会に恵まれない人の権利も尊重されるべきですが、一定の年齢になって「子どもを育てたい」と願うのは、お腹が空いたらごはんを食べたい・眠いときは眠りたいのと同じ自然な欲求のひとつでもあります。

 

職場で「昼食休憩に行きます」と申し出た人が「ぜいたくだ、よくばりだ」「周囲にしわ寄せが来て迷惑だ」などと言われないのは、それが人として当然の行為だと認められており、昼休みという制度が整っているからですよね。

 

今後は個人や会社だけに任せず、法整備などによって、子育てしながら働く人も周囲の人も、みんなが幸せに働ける環境を整えていく必要もあると考えます。

文/高谷みえこ