得意の壁飾りをバックにYouTubeの撮影をする元保育芸人のたいこさん
得意の壁飾りをバックにYouTubeの撮影をするたいこさん

ピンクの割烹着姿での「保育士あるある」をネタに最近、YouTubeでバズっているピン芸人のたいこさん(40)。

 

保育士を辞めてから17年、YouTubeを始めてから8年と遅咲きの苦労人と思いましたが…。

 

「つらいことは、ありませんでした」とあっけらかんに、その“苦労知らず”な半生を語ってくれました。

YouTubeの収益化に号泣

「これまで芸人としての収入はほとんどなかったので、この夏にYouTubeが収益化したときには、さすがに号泣してしまいました。

 

微々たる額ですが、売れていない芸人なので、その芸にわずかでも金額がつくということにとても感激しましたね。

 

いつも応援してくだっている方々のおかげです」

 

広島県に住みながら芸人活動を続けるたいこさんは長年、保育士ネタでも紙芝居を使ったブラックな作風でしたが、昨年から転換。

 

「正直、これまでは、とんがっていたというか、ポジティブなネタをやりたいとは思いませんでした。

 

でも、先輩芸人や広島の横山雄二アナウンサーの後押しもあり、少しずつ前向きなネタもやるようになり、おかげさまでYouTubeの登録者数も2万人以上増えました」

保育士時代のたいこさん(2003年)
保育士時代のたいこさん(2003年)

保育士時代の経験をもとに…

最近では、保育園の壁に貼ってあるような、かわいい動物の壁紙を器用に切り替える動画がバズってるたいこさん。

 

「もともと図工や美術が得意で、保育士になったようなものなので、壁紙の動画もその経験をもとにしています。

 

もちろん、私が保育士として至らなかったところもネタにしています。ピアノや鉄棒の逆上がりも全然できませんでしたから(笑)。

 

それらのコントにも毎回たくさんのコメントをいただきとてもありがたいです。

 

保育園に通っていたころの懐かしさを感じて見てくれる人や、現役の保育士さんからも楽しんでもらっているようです」

元保育士芸人のたいこさん

保育士にいちばん必要なスキルは…

中学生だったころから、漠然とお笑い芸人に憧れていたというたいこさん。

 

「家のなかで絵を描いたり工作したりすることが好きだったので、まずは現実的にはそれが活かせると思い保育士になりました。

 

ただ、保育士になってからわかったのですが、紙工作や音楽や運動よりもいちばん必要なスキルは体力でした。

 

私にはその体力がなく、園児からすぐに風邪をもらって休んでばかりで結局、3年で辞めざるを得ませんでしたね」

 

保育園退職後、結婚前にやり残したことはないかと考えたときに、頭に受かんだのは…。

 

"お笑い芸人になる"という夢を叶えたいと思いました。

 

それは売れっ子芸人になりたいという意味ではなく、自分はお笑い芸人です1回でも名乗りたいという夢でした(笑)。

 

そして、アルバイトでお金を貯めてすぐに上京して、初めてのネタ見せで、“たいこと申します”と言った途端、私の夢はかないましたね。

 

バカバカしいと思われるかもしれませんが、今でもその夢が続いているような状態です」

東京で活動していたころの元保育士芸人・たいこさん
東京で活動していたころ

結婚式直前に復帰

1年半ほど、地下芸人として活動して、10人くらいのお客さんのライブでは優勝したこともあるというたいこさん。

 

「その後、やはり売れないまま結婚することになり、広島に移るときは“引退かな”と思いました。

 

でも、そろそろ結婚式というときに“芸人でいることが好きなら、やめなくていいか”とすぐに復帰しました(笑)。

 

そもそも、売れない芸人がやめようがやめまいが、世間には何も関係ないんですよね。

 

夫はお笑い芸人が好きなので理解があり、今でもYouTubeの撮影を手伝ってくれますし、いつも私のネタを最初にチェックしてくれるので、とても感謝しています」

広島の「酒まつり」では優勝したこともあるたいこさん。横山雄二アナウンサーと
広島の「酒まつり」では優勝したことも。横山雄二アナウンサーと

毎年5万円の赤字で活動を

夫の支えがあったとはいえ、アルバイトをしながら、たいこさんの売れない芸人生活は続きました。

 

「広島のお祭りやチャリティーイベントを中心に活動していましたが、芸人としての収入はほとんどありませんでした。

 

遠征などするときに足が出てしまい、毎年5万円を出しながら活動を続けていたようなもので、黒字になったのは今年が初めてです。YouTubeに救われました!」

 

苦節15年近く…今までの苦労がむくわれた思いが強かったに違いありません。

 

「実は、芸歴14年のなかで何かを犠牲にしてきたとか、つらいと感じたことはありません。

 

自己満足だと思いますが、お笑い芸人でいるということが好きだからです。

 

脳が勝手に“自分はお笑い芸人だ”と思い込み、そんな自分をほめている状態が続いていたのだと思います。

 

ただ、今後はせめて今よりも売れて、お世話になった方々や事務所の社長にも恩返ししていきたいですね

所属する事務所の社長・漫画家の東村アキコさんと元保育士芸人のたいこさん
所属する事務所の社長・漫画家の東村アキコさんと

保育士の問題は解決されていない

たいこさんは、保育士の経験をネタにするだけではなく、保育士を取り巻く問題についても真剣に考えています。

 

最近でも、人出不足や低待遇の問題が報じられています──

 

「私が辞めてから17年たっても、当時からの問題が解決されていないのだと驚きます。

 

保育士は、他人さまの大切な子どもを預かり、あらゆる能力が必要な大変な仕事にもかかわらず、待遇はよくないと思います。

 

まるで、子どものかわいさや仕事のやりがいに、付けこまれているように感じます。

 

現役の保育士さんのためにも、これから保育士を目指す人たちのためにも、もっと改善されるべきだと思います」

元保育士芸人でYouTuberのたいこさん

一方で、「真剣に保育士を目指す方々には、私のYouTubeは見てほしくありません」と笑うたいこさん。

 

「私は挫折したダメな例ですからね!

 

実は最近よく、"保育士になりたいんですが…"という真面目な相談のコメントをいただくんですよ。

 

そのたびに私は、他の保育士YouTuberのチャンネルを紹介するようにしています。

 

一度でいいから、"たいこさんみたいな芸人になりたいんですが…"という相談も受けてみたいものですね

 

元保育士のアドバイザーではなく、あくまでお笑い芸人として生きていく「覚悟」が伝わってきました。

 

PROFILE たいこ さん

1981年生まれ。短大卒業後、保育士をへてお笑い芸人に。広島県在住で「元保育士たいこ」としてYouTubeでも活躍。「2017年酒まつり」の「お笑いヨコヤマ道場@酒まつり」優勝。漫画家・東村アキコさんの東村プロダクション所属。

文/CHANTO WEB NEWS  写真提供/たいこ