80年代を彷彿とさせる「バブルキャラ」でブレイクした、お笑い芸人の平野ノラさん。今年3月に42歳で第一子を出産し、仕事に育児にと奮闘中の日々を送っています。じつは、片づけ上手としても知られるノラさん。かつては“汚部屋”に住んでいたというノラさんが、片づけることの魅力に気づいたきっかけとは…?
いつも心が満たされなかった20代
── ご自身のYouTubeチャンネルでも、片づけ術の投稿をされていますね。片づけに興味を持つようになった経緯を教えてください。
ノラさん:27歳ころですかね。当時お付き合いしていた彼と同棲していたのですが、いわゆる汚部屋に住んでいて。私は芸人になることをあきらめられずに仕事も辞めてしまい、かといって人生設計もできていなくて、どん底の時期でした。
それまでOLをしていたから好きなものを買えるぐらいのお金はあったし、彼氏とこのまま結婚しそうだなぁなんて考えもありましたが、なぜか満たされない気持ちがずっとあったんですよね。お笑いの仕事にも未練があって、でもそれに真正面からは向き合えなくて。「自分は何をやっているんだろう」「どうやって生きていこう?」みたいな感情がありました。
そんなとき、たまたま知った『ガラクタ捨てれば自分が見える』(カレン・キングストン箸)という本を読んで「あ、私ってガラクタのなかで生活していたんだ」と気づいたんです。
── 本を読んで、考え方がどう変わりましたか?
ノラさん:タイトル通りですが、ガラクタを捨てると本当に自分が見えてくるなぁ、と。当時の私は意識が外へ外へと向いていました。自分探しの旅に出てみたり、習い事をしてみたり、何か資格があったらいいんじゃないかと教材を買ったり…。
みんな、幸せを求めているんですよ。だから自己啓発本を読んだり、神社やパワースポットへ行ったりする。でも、せっかく買ってきたお守りや水晶も、部屋が汚いからそのへんに落ちてたりして(笑)。
そんなことをしているよりも、たいせつなことは家の中にあるんだと本を読んで気づいたんです。そうか、自分の人生が停滞しているのは、こんな部屋に住んでいるからかもしれない。そう思い、片づけに興味をもちました。
部屋の荷物を出してみると、やりかけのものがたくさん出てきて、それらを手放すことで、少しずつ自分の気持ちが見えてきました。自分が本当にやりたいことは、一体何だろうと。あぁ、私はお笑いがやりたいんだ。そうか、なるほど、ってしっかり向き合えたんですよね。そうなると結婚するのはまだ早い!と思って、再び芸人になる決意をしました。
ガラクタを捨てて、見えてきたもの
── 人生の転機だったんですね。当時はどんな“ガラクタ”を手放したのでしょうか?
ノラさん:仕事もなく、捨てる以外にやることがなかったので、ありとあらゆるものを捨てました。服とか靴とか、「2週間聴くだけで幸せになれる」みたいな教材まで(笑)。
部屋が汚い人には理解してもらえると思うのですが、散らかった部屋にいると何もできないんですよ。エネルギーを吸い取られるし、疲れているし、やる気も出ないし。でも「捨てる」という行動を取ると、自分が活動的になる。どんどん捨てていくのは爽快でした。
だけど、最初は続けるのが難しくて。やっては3日坊主になって、また落ち込む。最初はその繰り返しで時間がかかりましたね。これが第1次「“捨て活”期」です。
── 「捨て活」は続くのですね。第2次「捨て活期」は?
ノラさん:第2次は、ちょうどバブルキャラで少しずつ認識されて、テレビに出られるようになった2015年ころ。当時30歳だった私は、来年ブレイクしないとタイミングを逃すと感じていました。そんなときに「よし、捨て活しよう!」と思ったわけです。
そのころには、何か迷いごとがあると部屋が散らかることや、人生においての片づけの重要性がわかっていました。だからいったん整理しようと思って押入れを開けると、その気持ちが顕著に表れていて。ステージで使う小道具や衣装が山のように出てきたんです。
いつかライブやオーディションで使うかもしれないとため込んでいた、卑弥呼やシスターの衣装。いい女風バイク乗りのキャラを演じるためのヘルメットや、妖怪人間ベラの変身セット…。いろいろ出てきたものを見て、私は「バブルキャラでいこう」という芸人としての覚悟ができていないんだと気づかされました。
いわばバブルキャラで失敗したときの保険のようなものがたくさんあったんですよね。そんな覚悟で売れるわけないということも再確認できたし、逆にもうこれで売れるしかないと決意をして、ほかは全部捨てることに。来年はもうバブルキャラ1本でいったろ!と。
── すごい!それで翌年バブルキャラでブレイクしたんですね。ノラさんのように潔く捨てたいけど、捨てられない人もいると思います。
ノラさん:捨てられないものには執着があって、自分だけの根強い想いがあったりしますよね。わかりやすく例えるなら、元カレにもらったプレゼント。未練があって捨てられない…という気持ちに近いと思うのですが、その執着は手放さないと次に進めません。これは何ごともそうだと思っています。
最近は第4次「捨て活期」に突入中。片づけに目覚めて10年以上やっていますが、ちょっとずつ上達しています。私自身、最初からうまくいったわけではなく、途中で挫折して、片づけをする前より散らかってしまうことも何度もありました。何十年もため込んだものは一日では片づきません。そういうものだと思って、少しずつ頑張りましょう!
PROFILE 平野ノラ
1978年生まれ。東京都出身。ソバージュ、太眉、肩パッド入りスーツの出で立ちで、大きな携帯電話を片手に「しもしも〜?」と言うバブリーネタでブレイク。2017年に一般人男性と結婚し、2021年3月に長女を出産。最近では片づけのスキルを生かし、公式YouTubeチャンネルで芸能人の自宅の片づけなどを行っている。
取材・文/大野麻里 撮影/佐久間ナオヒト