アマゾン、マイクロソフト、ツイッターなど、世界的企業が自社で取り組む「セールス・イネーブルメント」。営業組織開発・人材育成に取り組まれる役員や責任者、部下を持つリーダー層が知っておきたい人材育成の仕組みです。いったいどんな仕組みなのか、日本で同事業を手掛ける専門家に話を聞きました。
日本でも導入され始めた営業の新たな仕組み
アメリカの専門機関によれば、約6割の企業が導入するほど、海外の営業組織では主流の仕組みになりつつある、セールス・イネーブルメント。
「日本でも近年、先進企業で導入が進んでいます。従来の営業組織のあり方では立ち行かなくなっている表れであり、その流れは今後加速していくでしょう」と話すのは、株式会社R-Square & Company代表の山下貴宏さん。
山下さんが代表を務める会社ではNTTコミュニケーションズ、CCCマーケティング、SmartHR、凸版印刷など、大手からスタートアップまで、セールス・イネーブルメントの導入サポートを行っています。そもそも、セールス・イネーブルメントとは何なのでしょう?
「セールスは営業、イネーブルメント(Enablement)はenable(~ができるようにする)という英単語の名詞形。営業にとって“〜ができるようにする”は、営業の目標達成ですよね。日本語訳の『営業組織開発』では説明不足なので、本来の目的や意味合いを肉づけした『成果を出す営業社員を輩出し続ける人材育成の仕組み』と理解してください」
営業の人材育成といえば、組織や個人の強化や改善として研修によるトレーニングが一般的。いままでのこれらの育成施策に問題がある、と山下さんは指摘します。
「人材育成のためにトレーニングをやること自体は間違っていません。問題なのはその目的も内容も、営業の成果に紐づいていない点です。成果を得られるかが見えないまま、ただトレーニングを行うだけの企業が少なくありません」
企業活動は組織や個人の「成果」によって成り立っています。「成果」を出すために「行動」が、「行動」が実を結ぶには「知識/スキル」が必要になる、と山下さんは説明します。
多くの企業が行う研修とどこが違うのか?
「“営業成果”を起点に、人材育成プログラムを考えるのがセールス・イネーブルメントの特徴です。スタートは『営業組織としてどのような成果を達成したいのか』、次に『そのためにどういう行動をとれる人材が必要なのか』、そして『そのためにどんな知識/スキルが必要なのか』。成果からブレイクダウンしていく形です」
そのうえで、以下のような一連の流れで育成が成果につながるそうです。
- 1.トレーニングなどの育成施策を通じて「必要な知識/スキル」を習得
- 2.日々の営業活動やコーチングなどを通じて「行動が変わった」のかを確認
- 3.「求めていた成果」を達成できたかを定量的にチェックする
「育成施策を実行したのち、想定していた行動の変化が現れたか、最終的に成果を達成できたかなどを検証および改善していきます。それによってインプットとアウトプットがつながり、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)という人材育成の“PDCAサイクル”が回るようになるのです。加えてセールス・イネーブルメントでは営業活動管理ツール(SFA、MA、CRMなど)を活用し、より効率的に機能させます」
多くの企業で行われる育成施策は、Doにあたるトレーニングをやって終わるケースがほとんど。検証、改善のフォローもなし。育成と成果の断絶、つまりインプットとアウトプットがつながっていないといいます。
「結果として、一部の”できる人間”に頼る属人化から抜け出せず、いつまでたっても組織全体の営業力が底上げされません」
そういった状況を打破できるのがセールス・イネーブルメントです。営業成果を起点とした人材育成プログラムを実行し、その効果を検証しながら営業組織全体のパフォーマンス向上につなげます。
「セールス・イネーブルメントはどんな企業規模でも力を発揮できる仕組みです。大手企業なら新製品・新領域の開拓において営業スタイルの変革を成し遂げ、中堅からスターアップでは中途社員をいち早く即戦力とする役割を果たします。いずれも、個人や組織のパフォーマンスを最大化し、持続的な成果をもたらすわけです」
営業組織の改革に欠かせないセールス・イネーブルメント。営業役員や責任者の方はもちろん、マネージャー、リーダークラスの方もチェックしてみてください。
PROFILE 山下貴宏さん
株式会社R-Square & Company代表取締役社長/共同創業者。2019年、セールス・イネーブルメントに特化したスタートアップ企業を設立。イネーブルメント分野の日本での第一人者。
取材・文/百瀬康司 画像提供(文章内)/株式会社R-Square & Company