よく炎上する企業のSNSは、担当者が“昭和感覚”のまま発信してしまうことにあるそう。もし勤めている会社で、急にSNS担当するはめになったら、どんなことに気をつければいい?トラブルなくSNSを運営するためには?エラー事例や予防策について、インターネットの誹謗中傷に詳しい清水陽平弁護士に話を聞きました。
“昭和のノリ”の人の投稿は危ない!
—— 企業のSNSでは、どんなトラブル事例や失敗例がありますか?
清水さん:
差別と受け取られる文脈は、トラブルにつながりやすいですね。たとえば、最近でいうと、「美白」はそうした可能性があります。以前から言われていた「肌色」も、いろいろな肌の色の方がいるから同様です。意図してない投稿でも、この企業は“差別意識がある”ととられてしまうんです。
また、いわゆる昭和的感覚というのでしょうか。かつては差別や、女性を性的な視線で見た発言をしても、特に大事にはならなかったかもしれません。
しかし、今は時代が違います。そこに気がつかないまま、昔の感覚で発信している人は注意したほうがいいですね。特に40代以降の方にはそういった傾向を多く見かける気がします。
—— もともと差別は良くないものですが、当時はスルー、または我慢を強いられていた部分もあったと思います。悪い面での昭和的感覚が残っているような感じでしょうか。
清水さん:
おっしゃる通りです。たとえば、少し前に問題になった尾瀬ガイド協会の公式Twitterでも、差別的発言とあたる発信だとして、協会が謝罪対応した事例があります。
また、差別のほかにも、企業SNS担当者が“アカウント間違え”をしてしまった例もときどき聞きますね。担当者が自分のスマホで書き込みをしていたら、「個人のアカウント」と「会社のアカウント」を間違えてしまった。
いわゆる誤爆ですね。以前に比べて減ってはきたものの、今もそういった事例を耳にすることがあります。
SNSが苦手な人よりヘビーユーザーが炎上しやすい訳
—— たったひとつの投稿で会社としての信用も失いかねないですね。では、企業のSNS担当になったら、意識しておくことはありますか?
清水さん:
まず、今お伝えしたアカウントの管理ですね。1人ではなく複数人で管理体制をつくることをお勧めします。1人では気づきにくい誤りも、複数の目が入ると防ぎやすいからです。ただ、複数人で担当しても、その人たちが同じ感覚だと、不用意な発言に気がつかない可能性もあり得ます。
今の時代に合っている内容かどうか。年代もある程度は関係してきますが、それ以上にSNSになじんでいるかどうかですね。
—— SNSになじむとは、Twitterで発信している人なのか、ただ見ているだけの人でも言えるのでしょうか。
清水さん:
SNSで発信していなくてもいいと思います。でも、「こういう文脈は炎上するだろう」と理解している人ですね。
逆に、SNSで投稿しまくる人はより注意が必要です。ヘビーな投稿者、今まで自分自身が炎上の経験がないと、「これくらいは書いても大丈夫」と思ってトラブルになるケースもあります。個人だから炎上しなかったけれど、企業SNS担当になったら炎上する。そんなリスクは心に留めておいたほうがいいですね。
SNS担当になったら真っ先にやることとは?
—— もし企業SNS担当になった場合、もしくは誰かにお願いする場合、あらかじめ決めておいたほうがいいことはありますか?
清水さん:
ガイドラインやルールを作っておくといいですね。「こういうことは言ってはダメ」、「こんなエラー事例があります」と。抽象的ではなく具体的にエラー事例を上げたほうがわかりやすいですね。
たとえば「女性を性的に見るようなものはダメです。例えばこんなトラブルがありました」と、イメージや状況がわかるといいでしょう。
また、どういう方向性で発信していくか。何のために発信するのか。その辺りも決めておく必要があると思います。
ネタ投稿していいのか、それとも真面目な感じで統一するのか。もしくは、その中間でやるのか。いろいろなグラデーションがあるでしょう。
もちろんネタ投稿するとフォロワーを増やしやすいとは思います。ただ、面白いことにはセンスが必要ですし、リスクが伴うこともありますから。
—— いきなり「今日から、君がSNS担当だから、よろしくね」では済まなさそうですね。では、いろいろなルールをつくっても、なお炎上してしまった。揚げ足をとられ、粘着された。そういった場合の対処の方法はありますか?
清水さん:
顧問弁護士がいれば相談するといいでしょう。顧問弁護士がいない場合は、それ以外の弁護士に相談することになるでしょうが、専門分野がさまざまですので、対応が可能かを確認したほうが良いでしょう。または、ホームページを制作した会社などに相談してみるのもよいのではないかと思います。
企業としては炎上の程度や内容、事実確認を行います。もし、一方的に理不尽な内容で炎上させられた場合は、毅然とした対応が求められます。逆に自分たちに非がある場合は、投稿を削除して、状況説明や謝罪する必要があります。
PROFILE 清水陽平さん
1982年岩手県出身。2004年早稲田大学法学部卒業。東京弁護士会所属。2010年法律事務所アルシエンを開設。インターネットの誹謗中傷に詳しい弁護士として、多くのメディアに出演。
取材・文/松永怜