10月、元モーニング娘。の紺野あさ美さんが、赤ちゃんの足の指に髪の毛が巻きいて締め付けられる「ヘアターニケット症候群」を報告し、話題を呼びました。紺野さんはCHANTO WEBの取材に対し「生後1か月の赤ちゃんがケガをするなんて『まさか』という気持ちでした。パンパンに腫れた足を見て血の気が引いていくのがわかりました」などと答えてくれました。

 

「赤ちゃんが泣き止まない」「不機嫌が続く」場合、単に「機嫌が悪い」ということもよくありますが、何をしても泣き続ける場合、親が早めに異変に気づいて対処しなけらばならないこともあります。

 

今回は千葉県の高度専門医療を担う松戸市立総合医療センターで、小児医療センター長を務める平本 龍吾医師に、赤ちゃんが泣き止まない場合、親がとるべき基本ステップと、気をつけたい症状、受診の目安などについて伺いました。

「赤ちゃんが泣き止まない!」親がとるべき基本のステップ

抱っこしてほしい、おなかがすいた、おむつを替えてなど、自分の要求を泣いて伝えるのが赤ちゃんの仕事。「赤ちゃんが泣き止まない!」という場合、まずは基本的な3つの事項を確認します 

■ステップ1

【1】赤ちゃんが眠くないか
【2】空腹ではないか
【3】おむつが濡れていないか

 

紺野あさ美さんの場合、お昼寝直後におっぱいを飲んでも赤ちゃんが泣き止まないことから異変に気づいたと言います。

 

「泣き声がいつもと少し違うと感じたんです。泣き声を聞いているうちに、もしかしてどこか痛いのかな?と」(紺野さん)

 

泣き声の変化は毎日一緒に過ごしている親だからこそ気づけるもの。親の直感で「おかしい」と感じたときは、次のステップに移ります。 

■ステップ2

【4】体温を測り、発熱がないかを確認
【5】衣類を全て脱がせて、肌の状態など全身をチェック

 

紺野さんはこの段階で赤ちゃんの足の腫れに気づくことができました。

 

全身チェックを行うことで、怪我、おむつかぶれ、口内炎、衣類による不快感など、思わぬ症状に気づくこともあります。顔色は悪くないか?赤ちゃんがしきりに触る箇所はないか?など、落ち着いて様子を見てみましょう。

 

全身チェックをしても特に異変が見つけられない場合は、赤ちゃんの気分転換も試みましょう。生後1〜2か月の時は「たそがれ泣き」がいちばん激しいときとも言われています。外に出てみる、車に乗せてみるなど気分転換をして、赤ちゃんが泣き止むようであれば心配しすぎることはありません。

 

それでも「どこかおかしい」と感じた場合は、次のステップへ進みます。

 

泣き止まない赤ちゃん
写真はイメージです

■ステップ3

【6】専門機関に相談する

 

小児救急を専門とする平本龍吾医師は手軽な相談先として下記の2つを「積極的に利用してほしい」と話します。

 

[1]子どもの救急(ONLINE-QQ)のホームページ

厚生労働省の研究班と日本小児科学会の監修によって製作されたページ。生後1か月~6歳までの子どもを対象に、気になる症状別に緊急性をチェックすることができ、診療時間外に病院を受診するべきかどうか、判断の目安を提供しています。リニューアルを経て、現在は、英語と中国語にも対応しています。 

子どものQQ
公益社団法人 日本小児科学会が運営する『こどもの救急(ONLINE-QQ』のWEBページ。 2019年の1年間で4021万件のアクセスがあった

例えば「泣き止まない」の項目では、11の質問に答えチェックを入れるだけで、受診の目安を知ることができます。

 

緊急性が高いと判断される場合には「急患診療所に行きましょう」という結果が出て、病院に持っていく持ち物リストも出るので安心です。

 

[2]小児救急電話相談 ♯8000

全国同一の短縮番号♯8000をプッシュすることにより、各都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医や看護師から子どもの症状に応じたアドバイスや、受診する病院等のアドバイスを受けることができます。

 

各自治体によって時間に若干の差がありますが、病院等に相談することができない時間帯(おおむね夜6時から翌朝8時まで)相談に乗ってくれます。

 

平本医師は「様子がおかしいと感じた時は、親がひとりで不安を抱え込まないことが大切」と話します。

 

「自分の意思を言葉で伝えられない赤ちゃんの不調は、親の負担が重く、不安も増大しがち。ひとりで抱え込んだり、信頼性の低い情報を頼りに判断したりせずに、この2つの相談窓口を【2本柱】として知っていると安心です。

 

赤ちゃんの不機嫌が続く場合、緊急性の高い症状が隠れていることもあります。親として判断に迷った際、適切な救急受診の目安についても聞くことができますし、後悔の無い判断の一助になります。」

赤ちゃんの不機嫌や発熱 知っておきたい症状【6つ】

最後に6か月未満の赤ちゃんが泣き止まない、不機嫌が続く場合に、小児救急を担当する平本医師が疑う【主な症状6つ】についてまとめておきます。診断は医師に任せるべきですが、親が知識として知っておくと緊急性の高い症状に早めに気づくこともできます。 

 

【1】尿路感染症

咳や鼻水などの風邪症状がないのに発熱が続く場合、まず疑う症状のひとつ。38.5度以上の発熱、機嫌が悪い、おしっこがいつもよりくさいとなどの症状に気づいたときは早めに受診しましょう。

 

【2】急性中耳炎

赤ちゃんの不機嫌が続く場合、急性中耳炎の可能性が。しきりに耳を触る、耳だれがある、ひどく機嫌が悪い、頭を左右に振る、激しい夜泣きをするなどがサイン。風邪にかかりやすくなる冬に多く、親が早めに気づいてあげたい症状のひとつです。

 

【3】腸重積

かかりやすい時期は6か月以降ですが、まれに6か月未満でも見られます。不機嫌→嘔吐→血便と症状が進んでいきます。火がついたように泣いたり、急に静かになったりする状態を繰り返す場合は要注意。腸の一部が腸の中にもぐり込んで重なってしまう病気で、処置が遅れると手術で腸の一部が切除となってしまうことがあるので、疑われる場合は早急な受診が必要です。

 

【4】細菌性髄膜炎

発熱から始まります。ぐったりして元気がない、嘔吐を繰り返す、けいれんや意識障害が見られる場合も。「いつもと違いぐったりしている」と感じた場合は、後遺症が残るのを避けるためにもすぐに受診を。ヒブワクチン(インフルエンザ菌B型)や肺炎球菌ワクチン接種により予防ができます。

 

【5】ビタミンK欠乏性出血症

主に母乳栄養の新生児、乳児のビタミンKが不足して出血しやすくなる病気。頭の中で出血を起こすと、不機嫌、嘔吐、意識障害、けいれんなどの症状が見られます。

 

【6】ヘアターニケット症候群

症例としては決して多くありませんが、処置が遅れると患部の壊死もあり得るので、早めの受診が必要です。髪の毛が完全に取り除けているかどうか、専門家の判断が必要となります。

赤ちゃんの体調不良は重い負担  親がひとりで抱えない

筆者も生後4か月のときに息子が尿路感染症にかかり、2週間ほどの入院を経験した1人です。

 

最初に受診した小児科で「突発性発疹の発熱だと思うので2、3日様子を見て」と言われ、高熱で日に日に衰弱する息子を昼夜問わず2日間抱き続けました。体力的にも限界…、ふらふらの状態でお世話を続けていたにも関わらず「頻繁な受診は控えるべきだろうか?」とひとりで抱え込んでしまいました。

 

もしあのとき、♯8000をダイヤルしていたら?親も子ももっと早くラクになっていたはずです。

 

赤ちゃんと母親
写真はイメージです

「赤ちゃんの命守らねば」と考えている親にとって、赤ちゃんの体調不良は、肉体的にも精神的にも大きな負担。「おかしいな」と感じたら、早めの相談が肝心です。

 

「小児救急含めて医療の世界では「たぶん大丈夫だろう」と考えて結果大事な疾患を見逃す『アンダートリアージ』ではなく、症状を重めに判断する『オーバートリアージ』で、緊急性や重篤性の高い症状を見逃さないようにします。家庭でも『迷ったらまずは相談、それでも迷ったら受診』を基本にして、親御さんが1人で抱え込まないようにしてください」(平本医師)

 

PROFILE 平本 龍吾  

平本龍吾先生
小児科医。千葉県松戸市立総合医療センターにて小児医療センター長を務め、小児腎疾患、膠原病、小児救急を中心に、あらゆる小児科領域の診療を手掛けている。小児科研修医への指導医も務める。 

取材・文/谷岡碧