元モーニング娘。で元テレビ東京アナウンサーの紺野あさ美さんが、産まれたばかりの次男の「ヘアターニケット症候群」をブログで報告し、話題を呼びました。髪の毛や糸が乳幼児の指などに絡まり、締め付けられて起きる「ヘアターニケット症候群」。症例は多くありませんが、鬱血が続くと患部が壊死する可能性もある緊急性の高い症状のため、紺野さんのブログは「重大な注意喚起」として広く取り上げられ、新聞記事などでも紹介されました。
紺野さんは次男の異変にどのように気付いたのか?鬱血に気付いた際の対処と受診までの経緯、現在の対策までご本人に伺いました。取材でわかったのは「怖かった」と語りながらも、迅速に対処した紺野さんの冷静な姿勢でした。
「泣き方が違う」母の”直感”で気づいた異変
── 8月にご出産されたばかりの赤ちゃんが「ヘアターニケット症候群」を経験し、怖い思いをされたと思います。その時赤ちゃんは何か月だったのですか?
紺野さん:
ブログで報告したのは、次男の足の腫れも引いて落ち着いたタイミングだったので少し時間が経っていました。「ヘアターニケット症候群」になったのは、生後1か月後半でした。
── その日の状況についてお伺いできますか?
紺野さん:
はい。その日は、4歳の長女と2歳の長男を幼稚園に送り届けて、朝9時頃に自宅に戻ってきました。次男に授乳をしたら寝てくれたので、私はやっとひと息ついて、朝ごはんを食べて、食器を片づけたり、掃除をしたりと家事をこなしていました。次男はその時たっぷり2時間半寝てくれたんです。
11時半頃に泣き声が聞こえたので「よく寝てくれたな!さぁオムツを替えて授乳かな」と思い寝室に行ったんです。
そのとき「なんだかいつもより泣き方が激しいかな?」と思ったのですが、泣いておっぱいを飲まないということはなく、授乳することができました。でも授乳してもグズグズが続き、泣き方を聞くうちに「あれ?」と感じるようになって…。
── それだけたっぷり寝て、授乳をしたら、ご機嫌になることが多いですよね。
紺野さん:
そうなんです。でもずっとグズグズしていて。最初は「お腹が苦しいのかな」と思って、ゲップをさせようとしました。でも泣き止まない。その泣き方を聞くうちに「あれ?どこか痛いのかな?」って感じたんです。母としての直感のようなものでした。「どこか痛いところがあるのかもしれない」と思い、すぐに「全身チェック」をしました。
── 「全身チェック」は小児救急医も勧める、赤ちゃんが泣き止まない時の対処法のひとつです。冷静にそのステップに移れたのはすごいことですね。
紺野さん:
いえいえ、何か特別な勉強をしていたというわけではなくて。産院などでいただく冊子などを読んで、赤ちゃんが泣き止まない場合は「全身チェック」という一般的な知識がありました。なんとなく痛みを訴えているような気がして、全身、手や足などを細かく見ていきました。
「血が止まってしまう!」ちっちゃな指がパンパンに
── その全身チェックで赤ちゃんの「ヘアターニケット」に気づいたんですね?
紺野さん:
そうです。次男の中指と薬指の第1関節に髪の毛が複雑に絡まっていて、指の先がうっ血して腫れていました。写真を見ていただければわかると思うのですがとても痛々しい状況で…。
── 見つけたときはどのような思いでしたか?
紺野さん:
息子は当時まだ生後1か月で寝返りもできませんでした。「寝返りもしないのだから怪我をするはずがない」と考えていたところがあって「まさか…!」という思いでした。
── その後どのように対処されましたか?
紺野さん:
指が腫れ上がっていたので最初はよく見えなかったのですが、髪の毛の先の部分がちらっと見えたので「毛が絡まったんだ」と状況が理解できました。「このままでは血が止まってしまう!」と考えて、慌ててピンセットを持ってきて髪の毛を取り除こうとしました。
── 髪の毛はすぐに取り除けましたか?
紺野さん:
赤ちゃんの小さくてぷくぷくの足が、うっ血が始まって膨らんだことで溝が深まっていて、しっかり入り込んで巻きついている髪の毛を取るのは想像以上に大変でした。生後1か月なので力は弱いですが、赤ちゃんは足を蹴って動こうとするので、その動きを片手で静止しながら、片手で髪の毛を取り除くのはものすごく大変で…。
── 皮膚への埋没が深い場合、医師でも取り除くことが難しく、皮膚切開となる場合もあるようです。
紺野さん:
そうなんですね…。「ピンセットで引っ張って余計に締めつけてしまったらどうしよう」という恐怖もあり、汗だくになりながら必死になって髪の毛を取り除こうとしたのを覚えています。
冷静に迅速受診 「母になって強くなった」
── 目に見える髪の毛を取り除いたあとは病院を受診される判断をしましたね。
紺野さん:
髪の毛が取れてそのままスーッと腫れがひけば安心できたのですが、すぐに腫れが引くわけではなくて…。その際に「赤ちゃん 髪の毛 絡まる」という検索ワードで調べて「ヘアターニケット症候群」のことを知りました。
いろいろな情報に触れるうちに「もしかしたら髪の毛が取りきれていない可能性もある」と考え、すぐにかかりつけ医に電話して受診することを決めました。
受診まで不安が募りました。血が止まっていたのはどれくらいの時間だったのか?赤ちゃんの足の機能に影響は出ないか?と最悪の場合も想像しました。とても怖かったです。ただ、次男が病院に向かう道中に車の中で寝てくれたので「もう痛みはないのかな」と思うことができました。
── 小児科での診察はいかがでしたか?ヘアターニケット症候群は小児科医の中でも知らない人がいるようです。かかりつけ医はヘアターニケットを知っていましたか?
紺野さん:
お医者様の口から「ヘアターニケット」という言葉は出てこなかったので、ご存知かどうかは分からなかったのですが、特に驚かれる様子もなく診察してくださいました。
拡大鏡で見てくださり「髪の毛は取りきれていると思う」という診断でしたが「腫れが心配なので総合病院を紹介します」と言われ、総合病院へ向かいました。
── 総合病院ではどのような判断でしたか?
紺野さん:
総合病院の小児科でも同様に「髪の毛は取れていると思う」という判断でした。さらに総合病院の皮膚科も受診して「髪の毛はまず残っていないですよ」と言われたので「3か所で同じ判断なのだから大丈夫」とようやく安心することができました。
皮膚科では「うっ血が引くか様子をみてください」ということと「長い間血が止まっていた場合は腫瘍ができることがあるので、その場合はまた受診を」と言われました。幸いその後も腫瘍ができることはなく、腫れも少しずつ引いていきました。
── 「恐怖を感じた」とおっしゃっていましたが、お話を聞いていると実に冷静に、的確な対処をされた、と感じます。
紺野さん:
いえいえ、そんなことはないです。ただ3人目の育児なので「泣き方の変化」などは冷静に観察できた面があるかもしれません。ヘアターニケットに気付いてからは「血が止まっていたら一刻を争う」と考えて、対処を考えました。最初に電話をかけたのは小児科で、夫に報告したのは状況が落ち着いてから。「もう大丈夫だと思うけど、総合病院で診てもらうから」と事後報告。母になると強くなりますね。
「1本の髪の毛が脅威に」迷いながらブログで報告
── その後ご自身の経験をブログで報告されましたね。
紺野さん:
ブログに書くまでは実は迷いもありました。絡まったのはおそらく私か長女の髪の毛で、次男に「痛い思いをさせてしまった、ケガをさせてしまった」と申し訳ない気持ちがありました。赤ちゃんエリアは特に気をつけてお掃除もしていたのですが、ブログに書けば、読者の方からお叱りを受けるかもしれない、とも思いました。
でもヘアターニケットは一般的にはほとんど知られていない症状であるということと、髪の毛が1本でも落ちていると偶発的に起きてしまうことを知り、ブログで報告し、頭の片隅に置いていただければ、早めの発見の一助になるかもしれないと考え、書くことを決めました。
── 小児救急医を取材したところ、認知度が低い一方で、緊急性の高い症状なので「啓発には大賛成」とおっしゃっていました。紺野さんのブログは非常に有意義な発信だったと思います。
紺野さん:
ありがとうございます。「1本の髪の毛が脅威になる」という、非常に怖い経験をしたので、共有することで何か意味があれば…。公開したあとは想像以上に反響が大きく、周囲のママ友からも「大変だったね」と声をかけてもらい、「ヘアターニケット、初めて知った」とおっしゃる方も多かったです。
一方で「1本たりとも髪の毛を落としてはいけない!」とあまり神経質に怖がらないでいただきたいと思っています。私も特に1人目の時は神経質な育児をしていたので…。
── そうですね。小児救急医も「不機嫌が続くときにヘアターニケットの可能性を考えて手足を確認すれば良い。過度に心配する必要はない」と言っていました。現在はどのように対策されていますか?
紺野さん:
産後は抜け毛も多く、活発な子どもが2人もいて家中をピッカピカにするのは難しいのですが「赤ちゃんスペースには髪の毛を落とさない!残さない!」と決めて、コロコロを増設しました。ブログにも書きましたが、百均のミニコロコロがとても使いやすいです。
── 今日は貴重なお話をありがとうございました。最後になりますが、4歳、2歳、0歳の3人の育児に取り組まれている日々はいかがですか?
紺野さん:
想像してはいましたが、想像以上にバタバタの日々です。今は主人がオフなので手助けしてもらっていますが、シーズンが始まりワンオペになった時が怖いな、と。
ただ、上の子どもたちの成長を知っている分、赤ちゃんの時期はあっという間だとわかっているので「ふわふわの赤ちゃんの今を目に焼きつけておこう」と思い、日々を過ごしています。
…
紺野さんの報告によって広く認知されるようになった「ヘアターニケット症候群」ですが、その原因ははっきりとわかっていません。乳幼児の「ヘアターニケット症候群」に関しては、女性の出産後のホルモン変化で髪の毛が抜けやすくなることに加え、乳幼児が手足に触れたものを反射的に握る動きを繰り返すことで髪の毛が深く巻きついてしまうのではないか、と推測されています。
千葉県の松戸市立総合医療センターで、小児医療センター長を務める平本龍吾医師によると「24時間、365日小児救急を受け入れている私たちの小児医療センターでも『ヘアターニケット症候群』は1年に1回いるかいないか」という非常に珍しい症例だと言います。一方で、最悪の場合、患部が壊死して指などの切断に至る可能性もあことから、緊急性の高い症例と言えます。
「『ヘアターニケット症候群』に関しては早めの受診が必要です。髪の毛を自分で取り除くことが難しい場合は、無理をせずすみやかに医療機関を受診してください。一方で産後6か月までは産後うつに陥りやすい時期なので、抜け毛に神経質になりすぎる必要はありません。赤ちゃんんが泣き止まない際のひとつの選択肢として頭に入っていれば早期発見、早期受診につながります」(平本医師)
PROFILE 紺野あさ美さん
取材・文/谷岡碧 撮影/佐々木和雄