皆さんは、「オヤカク」という言葉を知っていますか?
採用や人事に関わる部門で働く人ならばよく知っているかもしれませんが、高校生以下の子育て世代のママ・パパの多くは「オヤカク?なんか聞いたことがあるような…」という感じではないでしょうか。
オヤカクとは、企業が就職内定した学生の「親」に対して、子供の入社意志を「確認」することを言うのだそうです。
就職なんてまだ先の話…と思うかもしれませんが、今後のためにざっくりとでも知っておきたいですね。
オヤカクとは、就職内定時の「親への確認」
「オヤカク」とは、就職活動中に、企業が親に対して内定承諾の確認を取ることをいいます。
2020年に行われた調査では、内定後の辞退率が4割にも上る企業が約20%もあり、全体で最多だったとのこと。
コロナ前には景気回復と少子化による働き手不足から、必要な人数の新卒採用が難しい「売り手市場」でした。
コロナ禍のため2021年現在はやや募集人数は減っていますが、それでも学生が高確率で内定を辞退する状況は続いており、その理由の1つが「親の同意が得られなかった」というものだそうです。
企業側もさまざまな方法で内定辞退を未然に防ごうとしており、なかでもこの「オヤカク」に力を入れている企業が増えているそう。
「オヤカク」には、親に電話などで「弊社に入社していただけますよね?」と確認する以外に、次のようなものも含まれます。
- 親宛てに会社資料を送って知ってもらう
- 電話で挨拶して親しみを持ってもらう
- 内定式や研修のようすをHPで限定公開する
- 入社式に招待する
- 自社の商品やサービスを提供する
特に社会経験が少ない高校生の新卒採用では、オヤカクは「必須」とまでいわれているとか。
大学や大学院の卒業時には子供は成人しているため、親はアドバイスはしても、最終的に就職先を決める権利は子供自身にあります。
しかし、労働基準法第58条「未成年者の労働契約」には「親権者若しくは後見人又は行政官庁は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、将来に向かってこれを解除することができる」とあります。
親が「この会社は将来が不安」「ブラック企業かも」と思えば親の権限で止めることができるのが大学生と異なるところです。
なお、近年就職活動にまつわる用語としてよく聞く「オワハラ」(=就活終われハラスメント:内定を出した学生に対し、まだ入社決定していないのに今後の就職活動をやめるように強制する行為)があります。
企業が手間暇をかけて選考し内定を出した学生を確保したいのは当然のことですが、「オヤカク」も行き過ぎると一種の「オワハラ」になってしまうことにも注意が必要です。
オヤカクはなぜ必要?それぞれの立場から
親が子供の就職先に反対することは昔からあったと思いますが、なぜ最近になって「オヤカク」が盛んに行われるようになったのでしょうか?
企業側・家庭側それぞれの立場から見てみましょう。
まず、日本では少子化がますます進み、特に中小企業では人手不足が深刻になりつつあります。
しかし、事業を続けるには人材の採用は不可欠。企業が1人の新卒学生を採用するまでにかかる経費は100万円という説もあり、採用活動を行った以上は確実に入社してもらいたいと考えるのは当然といえるでしょう。
そんな中で「親に反対されたので…」と内定辞退する学生を、企業側は以下のように見ているようです。
「親が子離れできず、いつまでも口を出している」 「親に大企業でないとダメという固定観念がある」 「少子化で一人っ子が多く、老後の面倒を見てもらうため安定した就職先を求めている」 「時代が変わっているのに、待遇や昇給率などを昔の感覚で判断している」 「母親がOKでも父親がNGということもあるので安心できない」
一方、親側から見れば、
「この子は社会人経験が少ないから見抜けないが、ここはブラック企業の可能性が高い」 「調べてみたところ経営が不安定で倒産の可能性がある」 「中途退職者が多く、転職サイトなどでも評判が悪い」 「女性の管理職がゼロで男性育休の取得率が低い。娘は出産で退職となる可能性が高く、キャリアアップや十分な生涯年収が見込めない」
など働き続けられない環境であることが予想されると、子供に再考を促すことが多いといわれます。
2019年の調査では「オヤカク」を行った企業は全体の半数程度で、必ずしも子供の就職活動中に内定先から連絡が入るとは限りません。
そんななかでオヤカクがあると「よほど内定辞退が多いのか」「こんなに連絡してくるとは、人手不足が深刻つまり労働環境が劣悪なのでは」などと心配になりますよね。
しかし、オヤカクをきっかけに子供の内定先への理解が深まり好感を持てれば、親子ともに安心して入社できるというメリットもあります。
なかには、人事担当者が、内定を出した理由として学生1人1人の長所や魅力を挙げ、だからぜひ一緒に我が社で働いて欲しいのです…という手紙を親宛てに送る企業もあるそうです。
親の心情として、その内容がうなずけるものであれば、わが子をよく見てくれていることに感動し「こちらこそよろしくお願いします!」という気持ちになりそうですね。
おわりに
大学生が就職先を決定する時の決め手は「社内の雰囲気」や「人間関係が良いこと」の比率が高いそうです。
対して親は「経営が安定している」「給与や福利厚生が良い」など待遇面を最重視する傾向があります。
親子で判断基準が異なることを頭に置き、子供の希望する職業や会社を一方的に否定したり「家や地元を離れるのは許さない」「国家公務員以外認めない」などの偏った思い込みは改めて、子供の意向をフラットに聞くことが必要ですね。
また、企業側は「とにかく内定を辞退されなければいい」と考えて、過度な連絡や接待をするのではなく、親が懸念を抱くポイントはどこなのかを真摯に見つめ直し、辞退されない職場環境づくりをするのが最優先ではないでしょうか。
「うちはまだ先…」という人も、子供の成長は長いようであっという間。
その頃には、オヤカクがあろうとなかろうと、子供が安心して自分の決めた会社で働けるような社会になっていることを願います。
文/高谷みえこ
参考/株式会社ディスコキャリタスリサーチ「新卒採用に関する企業調査(2020 年 10 月調査)2021年卒採用 内定動向調査/2022年卒採用計画」 https://www.disc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2020/10/2021_kigyouchousa_kakuho-.pdf
就職活動における「企業」と「親」に関する調査 ~2019年「オヤカク」最新動向を公開~|株式会社ネオキャリアのプレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000149.000011666.html