中学生のトニーニョくんと3人で暮らす、漫画家の小栗左多里さんとジャーナリストの夫・トニーさん。

 

夫婦で子育てをしていくなかで「異文化で育った者同士はどうやったら折り合えるのか?」と試行錯誤した経験から感じたことや自分の幼少期の体験を、それぞれに語ります。

 

今回のテーマは「子どもの学校行事」。トニーニョくんの小学校時代を回想し、複雑だった学校事情を語ってもらいました。

厄介者であり最高の協力者!? 親と学校の複雑な関係

僕が育ったアメリカの教育現場は今、たいへんなことになっている。コロナ対策のマスクやワクチンの義務化が進むなか、それに対して反対派が声を上げているけれど、その行動が脅迫や暴行にまでエスカレートしており、負傷者も逮捕者も出ている。日本で見られる「モンスターペアレント」とくらべものにならない…まさに「無限モンペ」だ!

子どもにまとわりつく親=ペリコプターペアレントが問題に

ちなみに「モンスターペアレント」は和製英語で、アメリカでは認識されない。やや似ている言葉として「ヘリコプターペアレント」がある。真上を飛び回るヘリコプターのように、子どもにまとわりつく親をこう呼ぶ。普通は過保護なだけなので、ステレオタイプの“モンペ”ほど自己中心的で理不尽な要求をしないことが多い。それでも厄介者としてたびたび問題視される。

 

息子の小学校でも、一時期この系統のトラブルが発生した。毎朝わが子を車で送り届けては、一緒に門をくぐり、教室までついていく保護者が頻発したのだ。ついでに子どもをめぐる悩み相談をしようと、担任の先生や校長に時間を取らせたりして、かなり迷惑な存在だった。

 

注意してもやめない親もいたので、学校はやがて保護者の入校を完全禁止にした。表向きの理由は「安全体制の強化」だったが、ヘリコプターペアレントの「ホバリング」を防止する狙いもあった、と聞く。

アメリカの学校行事は保護者なくしては成立しない

一方で、息子の学校はいろいろな面で保護者に頼り、先生と保護者との積極的な関わりを促そうとしていた。そのうちの一つが学校行事だ。

 

毎年、年末はクリスマスのために校内を飾るのだけれど、手を上げた保護者が集まって担当する。僕が参加したときは、6〜8人くらいのチームになった。PTAのメンバーもいれば、そうでもない人もいた。

まるで業者!?巨大クリスマスツリーを組み立てる羽目に

主な任務は人工樹のクリスマスツリーを組み立てること。そうたいへんな作業ではないが、手間と時間がかかる。天井まで届くものなので、組み立てるのにはしごが必要。はしごを登ってもいいと言った人にクリスマスツリー用ライトと電源コード、それにガーランドとオーナメントボールが次々と渡され、それを宙ぶらりんの状態でバランスよくツリーに飾る。

 

とくに扱いがたいへんなのがオーナメントボール。ポリスチレン製で、軽くてきれいなのはいいけれど、地面に落ちたときは粉々にドラマチックに割れるくせがある。その片づけもたいへんそうだけれど、それははしごを登っていない人の役割で…(ありがとう!)。

どの行事も工夫を凝らすのは親の仕事

クリスマス以外で目立つ行事と言えば、ハロウィン。10月末になると、学校でお化け屋敷が誕生する。半分校内、半分グラウンドに設置される大掛かりなものだが、これも保護者のチームがアイデアを出し合って準備する。5、6年生のためにマジ怖いネタから1年生も楽しめるちょっとだけ驚くしかけまで必要なので、バランスよく調整するのが肝心。

小栗さん連載イラスト1

アメリカの感謝祭であるサンクスギビングデーは、学校の敷地内でなく、保護者の家で行うのが通例だった。クラス全員(25人ほど)の子どもと、手伝いの大人5〜6人が1箇所に集まるので、それなりの広さが必要。

 

子どもたちが食べる七面鳥、マッシュポテト、カボチャなどの野菜は保護者が持ち寄りで用意するのだが、(想像がつくと思うけれど)終わった後の皿洗いだって、食器洗い機の力を借りたとしてもけっこうたいへん。ちなみに学年ごとに5クラスもあるのだ!毎年、保護者の努力により、それぞれのクラスはどうにか無事に感謝祭を済ませる。

 

「ヘリコプターペアレント」として学校に近寄らないように注意されるかと思えば、学校にとっては行事をサポートしてくれる、なくてならない存在…それが小学生の親。ちょうどいい関わり方を見つけたいものだ。

文/トニー・ラズロ イラスト/小栗左多里